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悪魔の血8

 カドが完全に鏡に呑まれると一瞬の静寂が訪れた。ここからのシロキの動揺を思うと胸が締めつけられる。カドは――苦しがるはずだが耐えてくれるだろう。俺が思うよりずっと強いやつだ。こんな覚悟で自分の神様を守り、俺を救ってくれようとしている。失敗はできない。

「お前、これから何があっても俺を止めるなよ」

 シロキを見て言い聞かせようとしたが、俺のことなど眼中になかった。

床に両手を広げ、我を忘れてカドを探している。

「カド、どこにいるの?」

 俺が今まで聞いた中で一番優しい声で床に呼びかけている。普段から不安定な声音が優しい音域を行き来して止まらない。お願いだからそんな声、聞かせないでくれ。シロキの何度目かの呼びかけにカドが答えた。

「シロ……キ……サン……」

 溺れているような声が人型に波打つ液体から聞こえてきた。

 俺すら呼吸が苦しくなる。本体のシロキは今どんな感覚だろう。

「カド? ここにいるの? 苦しいよね。今、助けてあげるよ」

 やっと返事をしてくれたことへの嬉しさと、溺れるカドを助けなければという焦りがいっぺんに顔に現れている。

 こいつは壊れているわけじゃない。

 作成されてからずっとこいつを見てきたから知っている。

 こいつと俺とではカドに対する気持ちが違うんだ。 シロキにとってはカドは自分の一部だ。自分一人のものになるはずだった魂と身体を作成者に分断されてから、ずっと溺愛してきた分身だ。

 そんな事は絶対に起こらないけれど、カドになら目に指を突き立てられても笑って許すだろうし、大嫌いだなんて言われたらガジエアが無くても勝手に心臓がえぐれて死んでしまうだろう。

 本人にさえ訳が分からないような愛し方をしている。

 俺とカドは似ているだけで、常にお互いの全体が見られる距離を保っているから理解しあえる。

 ――本当にごめんな。俺は力を込めてガジエアで手首を切り裂いた。自分を罰するつもりで傷口を凝視しながら。


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