悪魔の血7
「やだやだ、駄目だよ、どうしよう。お願い止まって」
走り寄ったシロキがカドに顔を寄せ、手にも顔にも血を浴びながら、すがりついている様子が痛々しくて一瞬目を瞑ってしまう。
「……シロキさん」
カドの小さいがしっかりした声が聞こえる。
「カド、消えないで。僕、助けるから。僕のこと置いてかないで。ねえ、大好きなんだ。お願いだから」
しっかりしろよ、神様だろ。もう声を出さないでくれ。そんな声を聞かせないでくれ。
「シロキさん、ごめんね。俺の代わりに新しい使いを作って」
「僕はそんなことしない、そんなのいらない」
だめだ、こんなやり取り、とても聞いていられないと思った時、カドと目が合った。一瞬だがそこにひどく落ち着いた色が映った。
――こいつ、もしかしてわざとか。
「おい、しっかりしろ」
俺はやっとのことで男からガジエアを奪い取って言った。
「シロキ、カドを門に入れろ」
カドの口元が微かに笑ったように見えた。こういうことか?
いいんだよな?
「門の中ってこと? 今、ここにいるじゃないか」
「いや、そうじゃなくて、鏡を溶かして中に入れろ」
「え?」
シロキが完全に混乱した顔をしている。お前は消えそうなカドを救うだけだ、何の罪もない、安心しろ。
「おい、聞いてるのか? カドを極楽に連れて行く時間はない。この出血じゃ再成に入る前に魂も消えてしまう。門が完全に破壊されたら、お前だって地獄に呑まれてしまうかも知れない、俺をひとりにしないでくれ」
だましているようで悪いが時間がない、さっさと決心してくれ。シロキが男のそばに浮かんでいる青いガラス玉を見た。おい、血迷うなよ。
「あれは、駄目だ。お前、どうやって使うのか知ってるのか? それより俺がカドと門、両方助けてやる、早くカドを門の中に入れ
ろ」
トリプガイドは作成者しか使いこなせない。こんな状況じゃなくても危険過ぎる。自分の使いと門で実験でもするつもりか。
「何、それ。カドを鏡の中に入れたらどうなっちゃうんだ? 僕はこの子を失くせない」
「俺だってこんなことしたくない。でも、カドと門、別々に助けている時間がないんだ」
いつもみたいに素直に言うことを聞いてくれ。
ごねて困らせるな。そんなことされてもカドと違って、ちっともかわいくないぞ。
数秒、濡れた目で俺の本心を探るように見た後、苦しむカドを前に、やっとシロキが心を決めてくれた。鏡の床を溶かし、カドの身体を埋めて行く。
「えらいぞ、シロキ」
こっちも行動に移さなければ。俺はガジエアを握った。




