冬に待つ悪魔2
言葉が縄をほどいたかのように、自由になったカドが強く抱きつき、それを悪魔が受け止めた。
数秒そうした後、身体を離して今度ははっきりと笑い合う。悪魔のその目は確かに凍えていたが、氷越しに見る灯りのように温もりを持った冷たさをしている。
「シロキに感謝しなくちゃな」
悪魔の言葉に、カドは泣きそうな笑顔でもう一度、悪魔に顔をうずめて言う。
「懐かしいな……」
見た目は良く似ているのに、シロキさんとこの悪魔の確かな差は何だろう。
指の動かし方にどれだけの種類があるのか知らないが、シロキさんのものが艶めかしく動いていたのに対し、この悪魔のものはひたすら優しく動いては直ぐに止まる。シロキさんが憧れていたのはこれか? シロキさんの好きな雪みたいな動きだものな。音もなく触れては消えてしまう。
頃合いと思ったのか、ルキルくんが声を出した。
「ナイトさん、お久しぶりです。あの夜は……ファミドを助けてくれて、ありがとうございます」
「月の神様、来てくれてありがとう。君の使いの傷、やっぱり跡が残ってしまったみたいだな。かわいそうに」
ファミドはルキルくんの横に戻り、行儀良く座り直している。
良く見ると浜辺がファミドの足跡だらけだ。
人間の世界に来てから三度目のかわいいを口にしそうになる。
「あなたのおかげでこの程度で済んだのです。それにシロキさんとも出会えたし」
ルキルくんが恥ずかしそうに下を向く。
俺も名乗ろうと改めて鏡の悪魔の方を向いた。
目が合い声を出しかけた瞬間、鏡の悪魔の口が「待て」と声を出さずに動いた。
え? 突然嫌われたのだろうか。シロキさんには現れるなり挑発的な目で見られたし、ちょっとトラウマになっている。
カドはそんな俺たちのやり取りには気がつかず、鏡の悪魔に得意気に言う。
「こいつはエンド、炎の悪魔で、俺の始めての……友だち」
「そうか、凄くかっこいい友だちができたな。俺はナイト、よろしくな」
鏡の悪魔が俺に笑いかけた。
……なんだ、カドから紹介させてやりたかったのか。シロキさんといい、この悪魔といい、カドには迷いなく甘い。
「そうだろ? それにすごく優しいんだ」
カドが嬉しそうに言うのを、半歩距離を保って、穏やかな表情で見る悪魔。久しぶりに会ったのに、これ位が普通なのか。
カドは俺やシロキさんを、距離が近すぎて暑苦しいと思っているのではないか。優しさで言い出せないだけかも知れない。いや、実はやんわり言われていたような気もしてきた。




