融合4
何で悪魔はみんな簡単に消える、消えるって言うんだろう。
僕には存在し続けることを強いるくせに。
でもカドが鏡の中で悶え苦しんでいるのを見続けることに耐えられないのは事実だ。
それなのに僕は座り込んでいるだけでどうすることもできない。
僕が自分自身を捧げても、みんなを苦しめて、挙句カドも消してしまうだけ、僕は無力どころ障害だ。 ナイトの失った血さえも無駄にしてしまう。
その時、鏡の空間の外壁を、誰かが強く叩く音がした。
「開けるなよ」
ナイトが消え入りそうな声を出す。あっちの壁は炎の地獄か?
この門の衝撃は地獄にも伝わっているはずだ。アドバンドが激しく歪み続けている僕たちを心配して来てくれたのだろうか。
「助けて……」
そう言って僕は炎の地獄の扉を開いた。誰かが、この状況から救い出してくれるなら、どんな手にでもすがりたい。
「馬鹿だな」
普段よりずっと氷に近い、冷たく澄んだ目でナイトが僕を睨む。こちらに向かってくる足音が響いて、僕はぎこちなく空間を狭めた。
「お前たち……何をやってるんだ」
真後ろからアドバンドの声がした。
振り向いた僕を見て動きを止める。
「……シロキさん、どうしたんだ、そんなに泣いて。地獄がひどく揺れているけど、ここの歪みのせいだよな。何があった」
アドバンドは直ぐに普段と同じ、優しい声で僕に近づき、そこで初めて、死角になっていたナイトの腕と床に視線を向けた。
「ナイト、お前何やってるんだ。カドは……これが、カドか? 門と融合したんだな。門も破壊されているみたいだが……お前の血で修復しているのか」
どうしてそんなに理解が早く、落ち着いているんだろう。
でも上手く説明できない今の僕にはそれがとても有り難い。
「そうなんだ。でもこいつらなかなか修復してくれないんだよな」
ナイトが無理に弱々しい笑顔を作ってアドバンドに言った。
僕の心臓がまた違う種類の鼓動を刻む。何だか胸の奥がぞくりとして、初めての感覚に戸惑う。これはなんだろう。
「ナイト……大丈夫じゃなさそうだな。お前、それ以上血を失ったら消えてしまうぞ。何でこんなことになったのか知らないが、とにかく血が足りないんだろ。それを貸せ」
そう言って、もう力の入らない、だらんとしたナイトの手からガジエアをそっと奪い取ると、自分の手首を切り裂いた。アドバンドもか――。どうして悪魔はそうやってあっさりと自分を捧げられるの?
自分が助けて欲しくて扉を開いた事を棚に上げ、そう思う。
ナイトが膝をついて、血を流すアドバンドの足にもたれかかった。
カドは未だに悶えて声にならない声を空間中に響かせ、悪魔の血を欲している。この異様な光景はいつまで続くんだろう。
僕はひたすら目を開けて起こっていることを記憶し続けた。




