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蜘蛛を助けた男2

「やめて!」

 鏡の床に倒れ込んだ直後、僕は叫んだ。

 鏡の空間で僕らが最初に目にしたのは、褐色の肌の男が、今まさに床にガジエアを振り下ろそうとしている瞬間だった。

 男が動きを止めてこちらを見た。次の言葉が出ない僕を押しのけて、カドがガジエアを指して落ち着いた声で言う。

「それをおろして」

 男の黒く濡れたような目を見て僕は混乱する。この男の魂は汚れていない、はっきりそうわかったからだ。さっき、僕は無意識に鏡になりこの侵入者と顔を合わせた。この男は――悪魔だ。

「あんた達は――」

 意外に若い声で、男が何か言いかけた。

 声を出しかけた僕をナイトが制した。「お前はここで黙ってろ」そう僕の耳元でささやくと、

「俺は鏡の悪魔。こいつらは鏡の神様とその使いだ。お前、極楽から逃げて来たのか?」

 小さくても良く通る声でガジエアを握った男に声をかけた。

 男は「ああ、そうだ」と立ち上がった。取りあえず、門をこれ以上破壊するのはやめてくれたようだ。

 でも……。

「極楽から逃げてきた。死ぬ前の日に蜘蛛を殺さなかったとかなんとかであんな所に連れて行かれるなんて。こんな事になるなら殺しときゃ良かったよ」

 そうだ、この男、僕がこの間極楽に送ったやつだ。

 最終の人生での最後の課題は罠のような変わったものが多いが、蜘蛛を殺すとか殺さないないとかいうのは初めて聞いたので、強く印象に残っている。

「その身体、まだ人間のものだろ。こんなとこにいると消えるぞ」

 確かに、この男の魂は悪魔のものだが身体からは人間の香りが強くする。作成の途中で逃げ出したのかも知れない。

 未完成の悪魔の身体でこれだけ実態を保っていられることが驚異だ。よっぽど意志の力が強いんだろうか。

 いや、人の心配もそうだが、僕も早くこの門の核を取り出して極楽に送らなければ。空間の上に目をやり残された時間を考える。

 極楽への扉が崩れていた。鏡の破片が床に落ちることもできずに空間に広がっている

 極楽から盗んだガジエアで扉を破壊したんだな。僕がここにいたならそんなことしなくても扉を開いてやった。話を聞いてあげたのに。

 急がないと。

 ――門を失った神様は土地に呑まれる。


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