鏡の地獄2
その後しばらくの間、僕は床に寝そべり、カドとナイトの様子を眺めて過ごした。きれいな二人を見ているだけで魂から回復していくようだ。
「ナイトも一緒に人間の世界に行こうよ」
カドがナイトの膝に座り、人間の世界で雨の中、海に入った時のことを興奮気味に話して聞かせている。
ナイトは特に何もしない。カドと目も合わせず、膝に乗せたままそれ以上触れることもなく、黙っている。
話はしっかり聞いているようだけれど。僕なら、過剰に相槌を打って、話が終わっても、「離して」と言われるまで離さない。いや、言われても離さないかも知れない。正反対の冷めた対応だ。
こんな置物みたいな悪魔に一方的に話をして、カドは本当に楽しいんだろうか。
あまりに無反応なナイトに三度目の「一緒に人間の世界に行こうよ」をカドが言った。
今日初めてナイトがカドの目をしっかり見た。目が合っただけでカドが僕にもめったに見せない満面の笑顔を浮かべる。
何なんだよ、それ。
「俺は行けない」
「おい、お前……」
そんな素気ない言い方ないだろ。二人の様子を頬杖をついて見ていた僕は思わず起き上がった。
「不安なら俺がずっとついていてあげるよ」
何を勘違いしているのか、カドが笑顔のまま言う。
「カド、放っておけよ。そいつはそんなんじゃないから」
そうなの? という顔でカドが僕の方を見た。
「……俺は行けない。悪いな、カド。でもお前がついていてくれるなら心強いな。いつか行けるようになった時は頼むよ」
ほんの少しだけ口元に微笑みを浮かべてナイトが言った。さっきの笑顔が最大だと思っていたカドが、それ以上に嬉しい顔をして頷く。
それを見てさすがに悪いと思ったのか、ナイトが提案した。
「なあ……人間の世界の代わりに、これから一緒に鏡の地獄に行ってみるか?」
「ほんと? 行きたい! シロキさん、いい?」
カドが、最高の笑顔で僕を見た。




