シロキさんの縛り2
「今日は特別だよ。人間もいないし、身体もこのままで外に出よう」
ここなら見られて騒がれることもない。僕はカドの細い手を引いて砂浜に降りた。まだ雨が耳元で強く鳴っていて、僕たちの身体は一瞬でずぶ濡れになる。足元の砂が雨粒に叩きつけられる度に跳ね上がり、くすぐったい。
「海に入ろうよ、シロキさん」
カドが僕を海の方へ引っ張る。
「足の届くところまでだよ、危ないから」
きっと危ないのはカドではなく泳げない僕の方だ。気のせいではなく、僕は他の神様と比べて欠点が多いと思う。
僕たちは海に腰までつかる。
「海は、雨より暖かいね。気持ちいいな」
カドが嬉しそうな声で言い、片手で海水をすくった。雷鳴が響いて、二人で空を見上げる。目を開けているのがやっとの雨が顔に心地良い。上からも下からも、生命の匂いがした。
カドの横顔を見ると、黒い髪とまつ毛の先から水滴が絶え間なく落ちて頬を伝っている。泣いているみたいだ。みんなカドが僕に似ていると言うけれど、僕にはそうは思えない。
カドが僕の方へ身体を向ける。びしょ濡れの着物が張り付いて、動きにくそうだ。そして僕の耳元に顔を寄せてこう言った。
「ナイトも一緒に来て欲しかったな」
「あいつが誘っても来ないんだから仕方ないよ」
僕は苦笑いを浮かべる。僕はこの子みたく純粋じゃない。
ひと際明るく空が光り、僕らの顔を照らした。
カドが僕を見て笑う。
「シロキさん、やっぱり俺の神様だ。雷の神様が嫉妬しそうなくらいきれいだ。あれ? あっ、雷の神様!」
僕たちが降り立った浜辺に、いつからいたのか雷の神様が立っていた。いつも通り、とても穏やかな表情でこちらを見ている。
カド、今の失言、頑張って撤回するんだぞ。雷の神様が僕に嫉妬なんかするわけないだろ。太古の神様の一人なんだから。
僕がそう伝えようとした時、カドはもう雷の神様に向かって走りだしていた。




