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シロキさんの縛り1

シロキさんの縛り          シロキさん


「雷が鳴ったよ。今夜、一緒に落ちよう」

 カドのはしゃぐ声がして僕は振り返った。

 透明の鏡の床に膝と両手をついて、下に広がる空を除き込んでいる。色白の顔に淡い紫色の着物が良く似合う。稲妻が光る度に無邪気な表情を照らす。この子が僕の使いだという幸せが今でも信じられない時がある。僕もカドの横に両膝をついた。

「確かに、今のうちに降りると楽かも知れない」

 僕の鏡の門の移動には他の神様と同じように縛りがある。

 僕たちは雷と一緒でなければ地獄から人間の世界に降りることが出来ない。僕の門は下降の時の方が負荷が大きい。元々が浮く作りなのだから当たり前ではあるが、落雷の勢いを借りないと降りられない自分の力の弱さを、移動の度に感じる。

「カド、僕につかまって」

 腕を掴むカドの温かい感触が好きだ。

 僕は目を閉じ、雷鳴を聞く。さあ、次の音に合わせて、僕らも一緒に落ちよう。


「シロキさん、見て! 鳥がいる」

 カドの視線の先を追うと、遠くに首の長い、白く大きな鳥の群れが、頭からゆっくりと下降しているのが見えた。

「ああ、珍しいな。偶然だね。あの群れの中に入ってみようか」

「大丈夫? 鳥がぶつかったりしない?」

「陸の鳥と違って、鏡を見分てけ避けるさ」

 大きな羽に雨を受け、優雅に落ちる鳥と、空の血管のように脈打って光る激しい稲妻を映しながら、僕は鏡の門を回転させ地上へ向かう。本当はこんなことする必要はないのだけれど、カドを喜ばせたくて、僕はいつも無理をしてしまう。

「きれいだなあ。俺も鳥になった気分だ。ねえ、シロキさん、この鳥、人間には見えないの?」

「見えないだろね。特定の人間にしか。お前がもう少し成長したらあの鳥が何なのか教えてあげるよ」

「俺は子どもじゃないよ」

 この子は不貞腐れてもかわいいから、ついからかってしまう。

 でも僕は機嫌の直し方も知っている。


 この夜、僕は夏の匂いが残る浜辺に門を降ろした。海が雨粒を受け、激しく踊っている。周囲に全く人影はない。

「カド、外へ出てみようか」

 カドの顔が鳥の群れを見ていた時以上に輝いた。本当に素直な笑顔だ。大好きだ。

「いいの?」

 僕は普段、人間の世界ではカドを門の外に出さないようにしている。

 人間の世界には汚れたものが多いから、この子に触れさせたくない。 

 その代わり、地獄では割と自由にさせている。この子が気にいっている炎の地獄や水の地獄へなんかは、しょっちゅう一人で行かせている。 

 この間、水の地獄で間欠泉に遭遇したところをシスが見つけ、手を引いて連れ帰ってくれた時は恐縮したけれど。

 カドは水で消えるなんて事はないが、怪我も、怖い思いも絶対にさせたくないから、これからは必ずシスと一緒に歩くように言い聞かせた。

 僕は過保護なんだろうか。いや、ただ、自分の使いが大切なだけだ。


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