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人間の世界へ4

「エンド、シロキさんに秘密があるとでも思ってるだろ」

 急にカドが心が読めるような事を言った。

「秘密にしてるわけじゃないよ、シロキさんは。言う時間がなかったかとか、言うのを忘れていたとか、なんなら言ったと思ってたとか、そんなだよ。シロキさん期待され過ぎると弱いから、あんまり特別視しないであげて」

「あ、ああ。そうなのか」

 本当か? シロキさんに一番近い存在のカドが言うのなら、そうなのかも知れない。しかしそれなら余計にたちが悪いな、騙されているより予測がつかない。

「時間も限られていますし、残りの謎は人間の世界に移動してから考えましょう。鏡の悪魔、ナイトさんなら人間の兄弟のことも、過去にシロキさんやカドさんに何があったかも教えてくれるはずです」

 ルキルくんはそう言って、名残惜しそうにシロキさんの魂から離れた。

 俺はなかなかその場を動こうとしないカドの肩を優しく水槽から引き離す。

「身体から離れるより辛いよな。でもお前の中なら安全だろ。お前の門でシロキさんの魂を守ってやれよ」

 カドが泣き笑いで頷く。

「カドさん、ここにシロキさんと一緒にいてもいいんですよ。流れでみんな一緒に人間の世界に行く状況になってますが、僕一人でも……」

「いや、行くよ。俺、鏡の悪魔に会いたい。会わないといけない。そいつは地獄にもう居場所がないんだろ。だから俺の方から会いに行かないと。それに……」

 カドが水槽の中のシロキさんの魂に向かって笑った。

「シロキさんにはここで、独りで待つ俺の気持ちを良く知って欲しいから」


 鏡の空間にそびえるルキルくんの門は今、正面の鏡に映り二重の門に見える。ルキルくんがカドに確認する。

「人間の世界の扉は真下ですよね」

「そう、だから俺はこの床の一部をさっき外壁にやったのと同じ要領で溶かす。そうしたらルキルくんは門を移動させて」

「わかりました。ところで、お二人は泳げますか?」

 ルキルくんが唐突な質問をした。

「どういう意味だ?」

「これから僕が門を移動させる先が海の中なので」

 また、海か。俺が水に弱いと思い込んでいるカドがまた暴走しなければいいが。

「どうして海の中なんかに?」

「地獄に運ばれるのを待っている、大量の人間の魂を海の神様が預かってくれているんです。それを一気にカドさんの門へ送り込みます。知ってますよね? 魂は水に溶けやすい。一時的に預かってもらうには海の神様にお願いするしかなくて。数が数ですから」

 カドが急に真顔になった。

「悪いけどもう少し海の神様に預かっていてもらえないか。海なんかにエンドを連れて行けないよ。ルキルくん、お願い」

 ああ、やっぱりそうなってしまうよな。

「カド、心配してくれてありがとう。嬉しいけど、俺は水の地獄以外なら海でも大丈夫だ」

「そうですよね。悪魔の弱点って右隣りに位置する地獄に関すること、一つだけでしたよね。それ以外は本当に完璧に作られています。だから僕はカドさんが溺れないか、そっちの方が心配です。だって、それシロキさんの身体だから。本当はあまり泳ぐの得意じゃないってシロキさん言ってました。エンドさん、守ってあげて下さいね」

 ルキルくんがいたずら好きな子供のような笑顔を向けてくる。

 俺も笑って頷いた。

「扉を開くよ」

 カドはばつが悪そうに下を向いてしゃがむと、そのまま門の床に手を触れた。


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