人間の世界へ3
「シロキさんは……」
突然ルキルくんが言った。
「シロキさんはここで…カドさんと一緒に永遠みたいな時間を過ごしてきたんですね」
斜め下を向いたルキルくんの頬を涙が伝う。シロキさんといい神様はよく泣く。
「あれは何でしょうか?」
顔を上げたルキルくんが俺たちの後ろを指さした。遠くに青く光る球状のものが浮かんでいるようだが、ここからでははっきりわからない。
「近寄ってみよう」
カドが言うや否や球体の方が近づいてきた。
空間が縮小されていく。引き寄せたと言った方が正確だ。
「カドさん、僕の門がつぶされない程度で止めて下さい」
「大丈夫。形状変態は自分の身体を動かすのと同じだから間違わない、安心して」
昔はよく失敗したと言っていたのに、ずいぶん努力したのだろう。目の前に来た球体を囲んで俺たちは一瞬言葉を失った。
丸い大きな水槽のようなその中は、水色がかった透明の液体で満たされていた。
――そして、その中央にシロキさんの魂があった。直ぐにシロキさんの魂だと気がついたのはそれが銀色に燃えていたからだ。神様の魂の美しい白銀。人間の赤い魂とは全く違う、世界を照らす、発光する魂だ。それが薄くて丸い透明の膜に包まれ,、青い球体の中で輝いていてる。
「シロキさんの魂、本当にきれいだ。いつまでも見ていられる。ガジエアで破壊された時はバラバラだったと思います。こんなに戻ったんだ……もう直ぐ表面も滑らかになって再成完了しそうですね。信じられますか? これ以上きれいになるんですよ。でも極楽に行かずに再成できるなんて、やっぱり凄いな。この水槽は……どうしてここに」
水槽にすがりつき、その表面をゆっくりと指でなぞっていたカドが顔を上げた。
「俺知ってる……この水槽、マツリくんの魂の中にあった青いガラス玉みたいなやつだよ。もちろん魂に入っていたくらいだから、こんなに大きくはなかったけど。それにシロキさんの奪ったガジエアはどうしたんだろう。俺はシロキさんが極楽で再成するって言ってたから、一緒に持って行ったものだと思ってたけど。魂がここにあるってことは、極楽には行かなかったんだよね。でも、もうどうでもいいや、シロキさんがこんなにきれいに再成してくれているなら」
ルキルくんも水槽に頬をすり寄せて頷く。
「僕もです」
カドとルキルくんの気持ちはわかるが、俺は不安を拭えない。この青い球体がマツリくん兄弟の魂の中にあったものなら、シロキさんは最初からこの中で再成できること知っていたってことか。
神様本体が消えたら使いも消える。自分が消える危険を冒すことなく、カドに身体を譲る絶好の機会だと考えたんだろう。
鏡の神様は、本当は危険な賭けなどしないのではないか。シロキさんがカドに見せている頼りない神様の姿は本物だろうか。シロキさんが奇跡の神様と呼ばれている意味は何だ。
本心を隠しているんじゃないだろうか。俺たちに教えるのが早いからか、守るためか、それとも――




