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幽霊に追われる1

 そこには一つの黒い影があった。ナイトが僕らと黒い影の間に素早く割り込みながら言う。

「シロキ、悪いがマツリを連れてカドの所まで行ってくれ」

 影、僕たちが幽霊と呼んでいるそいつが、躊躇うようにナイトから距離を取って後ずさる。こいつらある意味、鏡の悪魔が苦手だもんな。それに別に強くはない。ただ、マツリくんの魂に触れさせなければいい、一度でも触れさせてしまうと人間の魂は内側から壊されてしまう。

 背後はナイトに任せて、僕はマツリくんと捕まらないように走ろう。カドの待つ岬の方へ身体を向けると、数十体の幽霊が進行方向に現れた。

 僕は空中に無数の鏡の破片を浮かべ、全てを幽霊に向かって突き刺した。顔から足先まで全部を強く深く抉った。鏡の割れる音がして幽霊が消える。

「昔と違って容赦しなくなったな」

 エンドが少し驚いた目で言う。

「いつまでもお前の知ってる弱い神様じゃないよ。これは僕の罪でもあるから」

 僕はマツリくんの手を握って走り出した。あいつら何体いるのか見当がつかない。

 後ろを振り返るとマツリくんの顔面は蒼白だが表情はしっかりしていた。二重の魂の子だもの、大丈夫だ。

 更に後ろを見るとナイトが鏡の破片をまき散らし、幽霊を振り払いながら雪道を走っていた。

 走りながらっていうのが、なんだか凄くかっこいい。僕もやってみようか。

 やろうと思えば僕にだってできる。でもナイトみたく絵になるだろうか。

「おいシロキ、何見てんだ、前向けよ。お前自分の足元も見えてないだろ」

 ナイトが冷めた目で僕を見返す。

「シロキさん、ありがとうございます」

 突然、真後ろからマツリくんの声がし、直後に足元にもぞもぞした感触を覚える。

「何これ?」

 小さな薄茶色の毛玉が尻尾をちぎれんばかり振りながら、僕に向かって飛び跳ねていた。

「え、ちょっと、今は、来ないで」

 僕が避けようと右往左往するほど喜んで纏わりついてくる。

「ジョン! 邪魔しちゃだめだよ。その子、僕と兄さんが飼っていた犬です。秋にいなくなってしまって。戻ってくるように鏡の短冊にお願いしました。叶えてくれんたんですね」

 確かにあの中にそんな願いがあった気がする。

 ジョンをかわしながらよたよたと何とか走る。

「お前、ふざけてるのかよ。こんな時に犬とじゃれたりして、余裕だな」

 ナイトの声がした。顔を見なくても呆れていることがわかる。

 幸い周囲に幽霊は見えなくなっていたが、カドのいる岬はまだ先だ。またどこから現れてマツリくんを奪われるか知れない。

「ふざけてなんかいないよ」

 どうして僕はいつもこう恰好つかないんだろう。

「ジョン、来い」

 え? ナイトが当たり前のように犬の名前を呼ぶと、犬は僕の足元から声のする方へ向かった。

「家に帰ってろ」

 ナイトの命令に犬が横道にそれ、坂を下って行った。あいつ、ジョンのことも手なずけてるのか?

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