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マツリ4

 急な石段を登って後ろを振り返ると街並みが夕日で淡く輝いていた。人間が建てた朱色の門の下で僕はマツリくんを待つことにした。

 ナイトの言葉の意味をずっと考えていた。マツリくんをカドの中に入れること、それは人間にとって身体を失う事。一方で魂はカドから出ない限り永遠守られる。完璧な悪魔にさえ、一定の条件下では弱点があるが、カドには一つもない。ガジエアでも壊せないし、もちろん人間がどんな道具を使っても小さな傷一つ付けられない。

 カドの中のものは、僕かカド自身が扉を開けない限り外の世界から完全に隔絶される。ナイトはマツリくんの魂をそこまでして守りたいのか。確かに人間なら一時的に身体を失っても、地獄に魂を連れて行けばどうにかなる。

 悪魔は人間の魂を浄化し、地獄から再び元の世界へ返還している。悪魔によって返還された人間は、堕ちていく過程で新しい身体を生成される。身体なら取り戻せる。

 でも、そこまで干渉はしない約束だろう? 一体どうして欲しいんだよ。 やっぱりあの子はあの時の……

 がさりと後ろの草むらで音がして振り返ると大きな耳の痩せた狐が僕を見ていた。僕と目が合うと狐はゆっくりとお辞儀をして、木々の間に消えた。僕はファミドのことを思い出し少し微笑む。

「シロキさん、何を笑ってるんですか」

 マツリくんの声がした。

「ああ、マツリくん。今ね、月の神様の使いに似た狐がそこにいて、ちょっと思い出してた」

「月の神様? シロキさんそんな凄い神様とも知り合いなんですか? 使いって天使みたいなものですか?」

「そう、月の神様。確かに凄いよね。本当なら僕なんかが簡単に会える神様じゃないよ。天使か、良くわからないけど、神様はみんな使いが大切で、しょっちゅうどっちが本体かわかんなくなってるよ。君の神様もそうなのかな」

「さあ、どうだろ」

 マツリくんが困った顔をして首をかしげる。

「月の神様もね、僕のことをお兄さんと思ってくれているんだ。君みたいだ、かわいいよ」

「神様と僕が似てるんじゃなくて、シロキさんがお兄さん体質なんじゃないですか」

 今度は少し顔を赤らめ横を向いてしまう。

 冬の短い夕刻、落ちる陽が陰影をつけて、忙しく表情を変えるマツリくんを際立たせている。今回が最終か……でもどうして……

 うっかり本人に言わないようにしないといけない。

「シロキさん、歩きながら話しましょう。今日は僕のお兄さんのふりをして歩いてくれますよね」


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