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マツリ1

「良かった、消えてなかった。え? 今、歌ってました?」

 初めてマツリくんが笑顔を見せた。

 下手だったかな? 恥ずかしくなって小さく頷く。

「あなたは、ここの神様とは相性が悪いと思っていたから意外です」

「ここの神様は姿を見せてくれないから、相性はわからないな。ここの神様はどこに住んでいるの?」

「僕の……神様ですか。僕にもわかりません」

 マツリくんが困った顔をする。僕がこの子の神様なら、どこにいようが、鏡越しにいつでも会いに行ってあげるのに。

「君の知らない間に、会いに来きているのかもね」

 きっとルキルくんと同じで、僕よりずっと古い神様はめったに人間に姿を見せないんだろう。でもルキルくんも自分を慕う人間の幸せを願ってる。この子の神様だってそうに違いない。

「そうだ、これ、あなたに」

 マツリくんが照れたように、薄紫色の羽織を差し出した。

 受け取ろうと手を伸ばした僕の指先を見てマツリくんが言った。

「こんなに寒いのに指先まで血色が良いままなんですね。やっぱり神様……」

 僕が気がついてないと思っていたのか、マツリくんは口を滑らせたという気まずい顔をした。

「大丈夫だよ。僕は鏡の神様。知っているよね」

「……はい、あなた、この間会った悪魔の言っていた通りの神様だから」

 ――人間の世界に悪魔。 この子、やっぱり――

「その悪魔って、言いたくはないんだけど、僕に似ているけど僕より背が高くて、落ち着きがあって、しっかりしていそうな、冷たくて優しい目の悪魔かな」

「ああ、その通りです」

 人間の目にもそう映るんだな。僕はまた自信を無くす。

「その悪魔は僕のことを何か言っていた?」

「えっと、自分に似ているけど頼りなげで、ちょっとぼんやりした……」

「いや、そういうことではなく。僕に何か伝えて欲しいとか頼まれたりしなかった?」

「僕にあなたの門に入れてもらえと言っていました。僕には何のことかわからないんですが……」

 何を考えているんだ。人間はカドの中に入ったら身体を失って魂だけになるぞ。そんなことあいつも良く知っているはずだ。

「絶対だめだ」

 僕は静かに、でもはっきりと言った。

「えっ、僕は別にあなたが、いえ、神様がいやなら無理に入ろうなんて思ってないです」

 マツリくんが小刻みに顔を横に震わせて言った。

「ごめん、怒ってるんじゃないんだ。ただ君を僕の門に入れるのは、その、危ないから。 それに目的は? 何か聞いてる?」

「『楽しいぞ、空を飛んで色んな世界に行ける』と言われました」

「馬鹿っ」

 僕は思わず大きな声を上げた。

「えっ。あの、本当にごめんなさい」

 マツリくんが悪いわけじゃない。

「あ、僕こそごめん。大きな声を出したりして。君に言ってるんじゃないんだ。その悪魔のことだよ」

「……神様と悪魔って、仲が良いんですか、悪いんですか?」

「僕とその悪魔の関係はちょっと特殊だけど、一般的に仲は良いよ、当然。悪魔は不思議なくらい神様に心酔しているし、僕らは悪魔に憧れてる」

「何か、そういうの良いですね」

 マツリくんが目を細める。


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