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鏡の使い4

 やっぱりシロキさんは神様たちに人気があって、どの神様もシロキさんに会うと嬉しそうに、うやうやしく手を取って挨拶をした。   

 それを見て、俺は自分のことのように誇らしくなる。俺の大事な神様が大切に扱われている。

 魂が運ばれてくる度に、俺は鏡の一部を開放し、それを中に通す。 

 俺の中に、土地の神様から行先の印を付けられた魂の炎が溜まっていく。

 俺の鏡の立方体はどんどん膨張していった。

「カド、大丈夫?」

 俺と門の熱量を合わせても本体のシロキさんほどではないが、近い力がある。だからシロキさんが平気なあいだは全く問題ない。

「うん、もう少しでしょ? これから人間の世界と地獄を往復をした後に、シロキさんと夜の山を走り回れるほど元気だよ」

 気をつかわせないように言ったつもりなのに、シロキさんが泣きだしそうな顔をする。

「泣かないでよ、まだ土地の神様がいる。俺の神様の弱い所、見せたくない」

「ごめん、お前が恥ずかしいな」

 シロキさんが無理に笑う。違うよ、シロキさん。そういう切ない顔が好きだから人間にも他の神様にも見せたくない。


 魂の受け渡しが終わると最後にシロキさんが俺の中に入ってきた。

 一歩足を踏み込むと、天井を見上げ、シロキさんが溜息混じりで呟いた。

「ああ、本当にきれいだね」

 確かに。咎の魂ばかりだというのに。俺の鏡の天井に漂う魂の群れは本当に美しい。

「さ、カド、移動させるよ」

 移動は神様本体の意志だ。俺と門はシロキさんの望んだ所へ行くだけだ。

「地獄、久しぶりだな」

 そして俺たちは魂を乗せて上昇し、一気に地獄まで移動した。

 人間には勘違いしているやつが多い。地獄には堕ちるのではなく昇る。人間の世界より清らかで、正しい世界に行くのだから上昇して当然だと思うのだが、自分達が一番底の住人とは認めたくないものかも知れない。

 月を通り越し加速する俺たちを見て宇宙からきた舟、などと思っているやつも少なくないようだが、殆んどが地獄から来た門だぞ、と教えてやりたい。シロキさんはと言えば「夢を壊したくないよ」と笑って勘違いさせたままにしている。

 空を覆いつくすような広大な地獄が近づき、俺は鏡の空間を地獄の中央穴の大きさに合わせた。

 地獄は、巨大な正十二面体のようなもので、側面を十の地獄が囲み、上の面が極楽、下の面が人間の世界へ通じる無の空間だ。

 そして、その真ん中に全ての面に接する大穴、中央穴がある。

 空間ごとすっぽりと地獄の中心に収まると、シロキさんが次々に俺の内側から各地獄への扉を開いた。扉を開くというより、シロキさんが指示した場所の鏡が液体のように溶けて、指定された魂の大群が排出されていく。

 シロキさんは扉をいくつも開けて、複数の魂の群れを同時に動かす。それが魚の群れが、ぶつからず泳いでいる海の中ようで、俺は好きだ。

 良く間違えずに操るよな、涼しい横顔で魂を振り分けているシロキさんを見てそう思っていると、

「僕が適当にやっていると思ってない?」

 シロキさんが聞いてきた。

 ほんの少し思ってはいたが、シロキさんは感情が行動に反映されやすいので、大事な役割の間に落ち込ませる訳にはいかない。

「思ってないよ。信じてるよ、俺の神様だもの」

 シロキさんの目尻が下がって、心なしか魂の振り分けに勢いがつく。褒められるとわかりやすく、やる気を出すので扱いやすいけれど、誰かに良いように利用されないかと心配でもある。

 そうして全ての魂を、浄化されるべき地獄に送り届け、俺たちは夜明け前、人間の世界へと戻った。



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