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鏡の使い3

 シロキさんがしつこく俺を振り返りながら見えなくなった。

 本当に『役割』までは戻って来てくれよ。

 今日は初日だ。シロキさんは土地の神様たちに人気があるから、シロキさんが居なかったらみんながっかりする。

 これから約一ヶ月、シロキさんと俺は土地の神様から人間の魂を受け取り、地獄に運ぶことを毎晩繰り返すことになる。

 それが俺たちの『役割』だ。土地の神様は一年間『判別』してきた人間達の魂を晩秋から初冬にかけて鏡の神様に託す。

 土地の神様、とは敢えて人間の世界に永遠に留まることを選択し、極楽にも地獄にも移動しようとしない神様だ。

 土地の神様は魂だけになった人間を、自分の元に集めては『判別』をしている。『判別』とはその人間の魂を地獄の浄化に送るか、極楽に送るかを決めること、更に言えばどの地獄に送るかを決めることだ。

 例えば怒りが罪の原因ならば炎の地獄に、嫉妬が生んだ罪なら水の地獄に、といった具合に。ただ『判別』はここまでだ。

 どれほどの回数の浄化が必要かは、それぞれの地獄の悪魔が『判定』をして決める。月の神様や海の神様のような太古の神様が『判別』をしているというのは聞いたことがないから、土地に愛着のある神様が無数の魂を相手に頑張っているに違いない。

 一応シロキさんも『判別』はできる。ただ、影響が強すぎるので好んではやらない。他の神様は魂を覗き込み、魂の色、咎の色を見るだけだが、シロキさんの場合、鮮やかに相手の心を映し、覗き込んだ相手にもそれが反射される。

 なので闇の強い人間だと自分の中の悪意に魂ごと破壊されてしまうし、自分を善人と思い込んでいる人間でさえ発狂してしまう。

 神様や悪魔相手には何度かやったことがあるらしいが、「あれは判別じゃなくて、何を考えてるのか本当にわからない時に、仕方なくだよ。それに神様や悪魔が自分の心の内を見ても、きれいだな、程度にしか思わないよ。壊れたりしないもの」と言っていた。一応相手を見てはいるんだと思う。

 シロキさんは、判別済みの魂を土地の神様から預かると、俺の中に誘導する。魂は質量というものから解放されているとはいえ、毎回その数は無数だ。

 シロキさんが俺を門と融合したおかげで、俺は鏡の立方体をいくらでも拡張できる。門というより箱だよな、と俺自身がいつも思っている。形状は変化できるので、門の形になってもいいのだが、どうせ面倒臭がりのシロキさんを運んで移動することになるのだから、いつも立方体でいる方が都合がいい。それに俺の中に入っていればシロキさんは安全だ。


 西日が落ち切る直前にシロキさんが戻ってきた。

 約束に余裕を持って行動する性分の俺は自分の神様とはいえ、いつもシロキさんにハラハラさせられている。

 遠くから魂を引き連れた土地の神様の行列が空を渡ってくるのが見える。

「間に合った」

 くったくない笑顔でシロキさんが言った。

「シロキさん、髪」

「え?」

 前髪がぐしゃぐしゃだ。今日はいっぱい走り回ったんだな。身体を草や石に細かく傷つけて走るのはどんな感じだろう、とぼんやりと思い描く。

 視線を感じるとまだ髪を乱したままのシロキさんのきれいな目があった。

「僕は必ずお前に……」

 魂の群れの音が膨らみ、シロキさんの声が呑み込まれた。


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