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神様の仕組み

神様の仕組み          ルキル


 僕は、何から話すべきなのかな。

 かっこいい炎の悪魔のエンドさん、その悪魔に守られているカドさん。四つきれいなの目が僕に期待する視線を真っすぐに向けている。とても複雑な気分だ。

「まず、神様の仕組みから説明しますね。知っていることもあるかもしれませんが、補足と思って下さい。『神様』は、『本体』と『使い』と『門』の三つでひとつです。月の神様の場合、本体は僕、使いはファミド、門は二人がくぐって来た岩の門です。どれかが単体で存在することはあり得ません。『本体』は神様の意志です。『本体』はそれぞれの神様に与えられた個別の力を使うことが出来ます。僕の場合は月の石を地上で爆破したり……あんまり喜ばれることではないのでここら辺は端折ります。あと、神様本体に共通の力もあります。例えば身体はいくらでも『修復』出来ます。ただし、『修復』が追い付かないくらい破壊されてしまった時には『再成』にまわります。僕は誕生してから一度も『再成』したことはありませんが、比較的若い神様の中にはたまにいるようです」

 ここまで話しながら、僕はエンドさんがカドさんの足元をじっと見つめていることに気がついた。何か思い当たることがあるのかな。

「それから、次に『使い』です。『使い』なんて呼ばれていますが神様にとっては自分の分身です。単独で行動する神様にとって、唯一の話し相手で親友……以上の存在です」

 僕は思わずファミドの銀色のすべすべの毛を撫でた。ファミドが呼吸をする度にお腹の辺りにいるカドさんも静かに前後する。

「僕はファミドがいなければ、とっくにこの世界から消えていました。それくらい僕の一部です。使いはそうやって孤独な神様と一緒にいてくれるだけではなく、本体ほどではないけれど、力も持っています。僕のファミドはどんな場所でも駆け抜けられます。さっきもカドさんとエンドさんを迎えに行かせたから知っていますよね。それに台風のような強い風も起こせますし、怪我もある程度『修復』できます。神様ほどの治癒力はありませんが……」

 カドさんがファミドの瞼の傷を見上げている。本当に悲しそうな顔をするな。きっとファミドが傷ついた時のことを思い描いて胸を痛めているんだ。やっぱりわかるんだね。

「最後に門ですが、門の役割は『移動』です。『移動』には二種類あって、まず人間の世界、地獄、極楽の世界間の移動がひとつ。でもいつでもってわけにはいかないんです。これには縛りがあって。それは神様によって違うのですが、僕の場合は、世界間の移動は月食の時しかできません。なので例えばここから人間の世界に戻るには次の月食を待たないといけない。二つ目は同じ世界の中での移動です。これにも縛りがあって、また僕を例にすると、陸続きならばいつでも移動可能ですが、海を越えた移動はやっぱり月食の時しかできません。そんな感じです。門に感情はありません。物質、ですね。でも門がないと神様は土地に呑まれて神様ではなくなってしまいます」

 カドさんが悲しい顔で言った。

「海を超えられないって、ルキルが海を嫌っているからそんな縛りができたんじゃないよね…?」

「そんなことないです。僕と海は相性がいいんです。海の神様のことも大好きです。何で僕の門を通してくれないのかな。でも、縛りってそんなものです。好きだから何でも許されるわけではないんです……」

「良かった。ルキルくんに嫌われたら海がかわいそうだ。君を映してあんなに嬉しそうだったから」

 カドさんがほっとした顔で笑う。みんながカドさんのことが好きな理由がわかる。 僕も、もう好きになっている。

 今度はエンドさんが口を開く。

「使いや門の方が、修復できないくらい破壊されてしまったらどうなるんだ?」

「使いや門も修復できないくらい破壊されたら再成にまわします。欠片すら残っていれば神様本体と同じく再成できます。本体も使いも門も設計図ごと破壊されてしまうほどの衝撃だと消えてしまいますが。ただ、神様本体が残っていれば、そこから新しい使いと門を『作成』することはできます。逆は出来ません。使いも門も本体の設計図の複写を装飾して作られていますから」

「複写から原本を取り戻すことは出来ないということか、わかったよ。修復は俺たち悪魔もするから想像がつくが、再成は大がかりだろ。どこで、どうやってやるんだ?」

 あまり思い出したくない光景だけれど嘘はつけないので答えた。

「極楽で再成します。あそこは……用事がなければ行く必要もない所です。神様は自由に行き来できるけど、極楽に居ついている神様なんて聞いたことないですよね。地獄以上に神様が行く頻度が少ない場所です。それは、そういうことです。再成の方法は……今度でいいですか。……て、え?」

 頭に温もりを感じると、カドさんが僕を撫でていた。

 エンドさんも別に悪くないのに、

「ルキルくん、嫌な事を思い出したのか? 変なことを聞いてすまない」

 と謝っている。僕は極楽を思い出してそんなに情けない顔をしてしまったかな。

 自分の目の奥がじんわり熱くなっていることに気がつく。それにカドさんのこの手、温かくて気持ち良い。僕は神様の癖にいつもこうなんだ。

「そんな辛いことより、シロキさんのことを聞かせてよ。月の神様にこんなに探されている神様の話。俺、シロキさんの話を聞けば必ず何か思い出せるはずなんだ。こう、粉々な記憶だけじゃなく、大きい断片が落ちてきそうな気がする」

「はい」

 僕は笑顔で答えた。カドさんが頭から手を離す。名残おしかったが、やめないでなんてお願いしたら気持ち悪がられそうなので、僕は代わりにファミドの毛皮に身をうずめながらシロキさんの話を始めた。


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