三つ目の血4
鏡の地獄に入ると俺はシロキを連れて真っすぐに祈りの鳥のいる湖に向かった。
その道は三日前に通った時と変りなく、少し安心する。と、微妙な下り坂でシロキがずずずっと間延びした音を立てて滑り、背中を地面につけて、雪の上で回転した。
「おい、大丈夫か」
駆け寄って、腕を取る。
「うん、大丈夫。滑っただけ」
この間のこともあるので、こいつが急に転んだり、しゃがみこんだりするのは心臓に悪い。
「お前、滑ったり転んだりしないようにできるだろ……神様なんだから。どうして人間みたく歩くんだ」
「そういえばそうだね。お前に心配して欲しくて、無意識に人間ぽく振舞う癖がついちゃってるかも知れないな」
言っていることは多少腹が立つが、仰向けのまま、久しぶりにいたずらっぽく笑うシロキを見て嬉しくなる。
「勘弁してくれよ。今日はもう少し湖の近くに座って話したいんだ……あの白い鳥をお前に良く見て欲しい。水、怖くないか?」
起き上がり、手で全身の雪を振り払うと、シロキが無邪気な顔で俺を見た。
「お前が押したり、引きずり込んだりしなければ平気だよ」
やっぱり以前のシロキみたいだ。カドが心配なのはわかるが、たまにこうして門の外に出してやらないといけない。
「ここに座ろう」
祈りの鳥に手が届きそうなほど湖に近い場所を指して、俺は言った。柔らかい新雪の上に座るシロキの動作は水に羽を下ろす祈りの鳥にそっくりだ。
俺がどう切り出して良いか迷っている間、シロキも何も言ず、ただ、涼し気で柔らかい目線を青い湖に向けていた。
「あの鳥は俺が作ったんだ」
シロキが俺の顔を見る。濁りのない白目がいつも通りきれいだ。
「うん」
「お前、俺に引き渡している魂の罪を知っているか」
シロキの目が冬の太陽の光を反射し、周囲の雪と同じ強さに輝く。
「弱さ……だと思ってる」
「自分を殺した人間の魂なんだ」
シロキの表情が固まった。
「お前の答えはある意味合ってるよ。弱い、でも弱さはやり直しもさせてもらえないほどの罪なのか? いや、お前を問い詰めるのは筋違いだな、悪い」
「ごめん……ちょっと待って。やり直せないってどういう意味?」
そうだった、その事を話しにここまで来たんだ。




