三つ目の血2
「え? ごめん、何て言ったの?」
青白い顔の頬に、涙の跡が薄く残る、恐ろしく美しい表情でシロキが俺を見た。俺はシロキを抱き寄せる。こんなことをしたのは初めてだった。
「ええっ? どうしちゃったの? 僕がお前を責めているとでも思った? そんなことあるわけないだろ。安心して」
シロキは勝手な解釈をして、逆に俺を慰めるように優しく包み込みこむと、そっと背中を撫でくれた。
――本当に神様だったんだな。こんな近くに神様がいるのに、なんでもっと早く甘えなかったんだろう。神様が一番喜ぶこと、それは甘えられることだ。神様共通の性質だ。守ってやらなくちゃなんて、どうしてそんな馬鹿なことを考えていたんだろう。
少しだけシロキのせいにして良いなら、こいつがいつも弱々しい顔を見せるせいだ。
あんなのを見たらこっちがしっかりしなくては、と思ってしまうのは当然だ。
人間の世界でも敢えてあんな表情をしているのだろか。
神様は頼りにならないだとか、やっぱり神様にお願いしようだとか、身勝手な人間に頼られ過ぎないように、そうやって均衡を保っているのかも知れない。
人間が性懲りもなく地獄に舞い戻ってくるのは悪魔のせいだ、と誰かが言っていたけれど、甘やかしている神様のせいでもあると思う。
――色々考えるのに疲れてきた。今はただ、少しだけ何も考えずに休みたい。
「ねえ、僕のそばで休むといいよ」
シロキはそう言って俺の身体を離すと自分の隣に横たえさせた。ああ、神様は願いを叶えてくれる。俺の安心する距離を保って、肩に微かに、でもちゃんと感じられる重さで手を置いて、ただそばにいてくれる。願って、信じていれば良かった。俺は目を閉じた。
何時間そうしていただろう。
初めて本当の休息を味わったような、満ち足りた気分でいると、ふいに鏡の門が開く気配がして、俺はゆっくり身体を起こした。
「お前たち、今日は顔色がいいな」
水の悪魔のシスだった。
カドが融合を始めてから数日に一回、アドバンドとシスが交互に鏡の門を訪れて、シロキとカドを見守ってくれている。
正直、助かっていた。俺がいなくても問題はないだろうが、たまには鏡の地獄の様子を見に行きたい。 本当を言うと、祈りの鳥に会いに行きたい。
だが、カドがまたいつ苦しみ出すかわからない状況では何時間も鏡の空間を留守にするわけにはいかなかった。カドにはまだ悪魔の血が必要だ。




