三つ目の血1
三つ目の血 ナイト
カドが門と融合してからというもの、シロキはめっきり表情が乏しくなった。たまに話かけると、びくっとして「ごめん、ぼんやりしていた。あ、僕はいつもこうだよね」そう言って弱々しく笑う。そして片時もカドから離れない。
言葉だけならば以前と変りないようだが、今は本当に一日中、顔も身体もぴったりと鏡の床や壁に押し付け、薄っすら涙を浮かべてすがりついている。途方に暮れている様子があまりにも痛々しい。
俺も独りでいるのがいやだったのと、罪悪感から鏡の地獄へは戻らず、ほとんどの時間をシロキのそばで過ごしていた。
あの頃のカドは意識がはっきりしている時間と錯乱の時を繰り返していて、シロキとは別の意味でかわいそうだった。
意識のはっきりしている時間は、落ち込んでいるシロキを慰めるように鏡の波で優しくその身体を包む。シロキはこれはこれで更に痛々しいのだが、喜んでその波に触れては、手の中からこぼれ落ちるのを見て嘆く。
カドはその涙を鏡に絡めとっては「シロキさんは涙まできれいだね」と昔と変わらない声で言う。
それまで扉が開く時くらいしか、鏡が溶ける様子を見たことがなかったので、これほどまで滑らかに優しく波を立てることが出来るなんて思いもしなかった。
カドという意思を持ったからかも知れない。シロキに悪いと思いつつ、俺も包まれてみたいな、と思っていた。
カドの調子の悪い時は悲惨だった。
あれだけ悪魔の血を呑んだのだから、直ぐに修復するものだと俺もアドバンドも楽観的に考えていた。
だが、実際は修復と融合が完了するまで一年近くかかり、その間カドはずっと、身体と魂が内側から砕かれるような痛みに苦しめられた。
鏡の門が呻き、蠢き、カドが痛みに襲われるたび、俺は蜘蛛を助けた男が落としていったガジエアで自分を切り、血を与えた。
シロキはその状況にいつまでも慣れず、初めてのように泣き、自分の血を流したように弱るので、俺も二重に辛かった。
この頃、俺が疲れた頭で、絶対に気を抜かないように気にしていたことがたった一つある。ガジエアを肌身離さないことだった。
シロキが鏡に映る自分の姿をじっと見ている時、俺は胸騒ぎがして仕方なかった。鏡にに映るあいつの目がカドと一緒に消えてしまいたいと訴えていた。
「お前、消えないでくれよ」
ある日たまらなくなって、そう声をかけた。




