使いの誓い1
使いの誓い エンド
「ごめんな、ほとんど俺の愚痴を聞かせただけだな……あとお前、優しいんだな、ありがとう」
「あ、すまない」
俺は握っていたナイトの手を慌てて離した。
それを見て、苦しそうな顔で聞き入っていたカドとルキルくんの口元が少しだけほころんだ。
話の間ずっと、この悪魔がかわいそうで仕方なかった。
俺にはアドバンドも他の仲間もいて、浄化した魂を人間の世界に還す時は喜びを感じる、そんな日々しか知らなかった。なんならカドが来てからはそんな毎日に更に幸せまで増えた。俺は贅沢だ。
こいつは一人で悲しみを抱えていた時間が長過ぎる。そう思っていたら無意識に手を重ねてしまった。 ナイトは驚きも嫌がりもしなかったが、もしかしたらシロキさんのような奔放な神様がそばにいたから慣れているだけで、本当は迷惑だっただろうか。
「僕は――」
さっきから無口だったルキルくんがゆっくり言った。
「僕は、ナイトさんと同じ気持ちです。馬鹿は死なないと治らないんです」
ルキルくんらしくない冷たく、完全に突き放した言い方だ。
「ルキルくん、どうしたんだ?」
思わず尋ねた。カドもナイトもルキルくんに視線を向けている。
「いえ、あの……鏡の世界だけそんなに残酷なのは、やっぱり納得がいかなくて。ナイトさんはまだ、シロキさんが鏡の地獄に魂を送り続けたこと、怒っていますか?」
「全然怒ってないよ。疑うことをしないあいつは、知らなかっただけだ。気がつけと思ったり、隠しておきたいと思ったり、俺が自分勝手だったんだ。何を考えているのか解らない悪魔に付き合わされて、あいつもいい迷惑だったろうな」
苦笑いをするナイトにルキルくんがほっとした表情で言った。
「良かった……シロキさんはずっとあなたに憧れていたから」
「そうなのか? あいつ、やっぱり変わってるな」
ナイトは淡々とした口調で言う。
「カド、お前はずっと知っていたのか? 鏡の地獄が自殺した人間の魂を壊して極楽に送っていたこと――いや、やっぱりいい」
隣のカドを見ると目が半分閉じかけていた。
睡眠が必要な使いにとっては、そろそろ限界かも知れない。ファミドも銀色の毛皮にふわふわした雪を乗せて寝息をたてている。
「どうしていいの? 別に具体的に知っていたわけじゃないよ。でもナイトはいつも悲しそうだったから、何となくはわかってた。助けたかった」
とろんとした表情でカドが答える。
「そうか――。それから、言いたくないならいいんだが、お前、蜘蛛を助けた男を恨んでいるか?」
「え? どうして? あいつは何も悪くないだろ。ナイトに同情した優しい半分の悪魔だよ」
カドの言葉に俺は物凄くほっとする。カドがずっと恨みを抱えていたら……と考えたら無性に辛くなったのだ。
「お前、そろそろ疲れたろ、真夜中だ。少し寝ろよ、起こしてやるから」
俺の言葉に瞼を閉じた直後、はっとするような大人っぽい声で、カドがはっきりと言った。
「俺は極楽を壊すよ」