第89話 『エンド』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第89話
『エンド』
京子ちゃんの木刀が振り下ろされる。しかし、その木刀は私達の前方で振り下ろされて、私達に当たることはなかった。
しかし、木刀を振った時の風で私の髪がふわっと上がる。それだけの威力の一撃だ。当たっていたら本当にやばかった。
「って、あれ?」
京子ちゃんの振った木刀の風を浴びてから、なぜか身体の自由が効くようになった。木刀を振り終えた京子ちゃんは肩に木刀を乗せてニヤリと笑ってフェリシアへと目線を向けた。
「この程度の呪い、私が解除できないと思ったか?」
ドヤ顔の京子ちゃんにフェリシアはぐぬぬと悔しそうに声が漏れる。
そんなフェリシアに余裕の表情を見せ、京子ちゃんは私達のことを横目で見ると、
「霊宮寺さん達は離れてて。そろそろ私も本気を出す」
「はい!!」
京子ちゃんのおかげでフェリシアから解放され、自由に動けるようになった私達は、さっさと京子ちゃんから離れて部屋の端へと移動する。
フェリシアとの戦闘が激しくなるから離れていろ。というよりも、私から離れろという風に感じ取れ、それだけ自信がある様子。
どれだけ力の差があるのかはわからない。だが、私から見ても京子ちゃんは圧倒的有利な戦闘を続けている。
宙を待っていたフェリシアは、京子ちゃんの態度に腹を立てたのか。声を低くして胸の隙間から小瓶を取り出した。
「この手は使いたくなかったがァ。やるっきゃないなァ」
その小瓶の中には赤い液体が入っている。ドロっとしていてまるで……。
「これはトマトジュースだァ」
「トマトジュースかい!?」
血液かと思ったが、トマトジュースだったようだ。羽が生えて牙も生えているフェリシアの姿は、まるでドラキュラのような雰囲気で血を取り出してもおかしくなかったのだが。
「俺はとある人物の遠い血縁にあたる。その血が薄くなり混ざったことで、その家系ごとに感情が昂った時や血液を摂取した時、または特定の匂いを嗅いだ時に力を発揮するようになったァ」
フェリシアは説明をしながら小瓶に入れられたトマトジュースを飲み干す。すると、フェリシアの全身の筋肉が成長していき、身体が倍以上に膨れ上がった。
「その中でも俺はビタミンCを摂取することで、肉体を強化することができる。この身体能力は大型のトラすら捻り倒せるほどだァ。早乙女、お前にこの俺が止められるかァ!!」
翼を羽ばたかせて勢いよく突進をするフェリシア。急降下での速度に合わせ、トマトジュースで強化された腕。それで京子ちゃんを殴り潰すつもりだ。
あれだけの加速に丸太のように太い腕から放たれるパンチ。あんなものを食らえば、京子ちゃんですらどうなってしまうかわからない。
「潰れろォォ!!」
京子ちゃんを射程に入れたフェリシアは拳を振り下ろす。しかし、
「消えたァ!?」
拳を振り下ろすと同時に京子ちゃんは姿を消した。ターゲットを失った拳は勢いを止めることができず、そのまま地面に激突。
ビルの床を割って下の階まで貫通された。
「ど、どこに!?」
片腕を床に埋めたまま、フェリシアはキョロキョロと首を動かして京子ちゃんを探す。しかし、フェリシアの視界には京子ちゃんの姿は見えない。それもそのはずだ。
京子ちゃんはフェリシアの頭上にいたのだから。
フェリシアのパンチを肉眼では追えない速度で躱し、そして一瞬のうちにフェリシアの頭上に飛び上がっていた。
私の目線からはほぼテレポートのようにしか映らない光景。何が起こったのかも理解する前に。
フェリシアは木刀で殴られて顔面を地面に叩きつけ、私が気づいた時にはフェリシアは倒されていた。
私が認識できたのは、顔面を地面に叩きつけるフェリシアとその頭上で木刀を振り終えた京子ちゃんの姿。
フェリシアが意識を失って倒れると、京子ちゃんはフェリシアの上に立ち、余裕そうに頬を上げた。
その姿を見て私は両手を上げ、
「勝ったッー!!」
っと、喜びの声を上げた。それに続き、楓ちゃんやリエも喜ぶ。
なんだか分からないが強そうなやつを全部京子ちゃんが倒してくれた。
これでもう狙われることもなくなり安心。黒猫もホッとしている様子だ。
こうして悪い奴らは全滅しました。めでたしめでたし……となるのかと思ったが。
「はぁはぁ、姉さん……フェリシア様を倒すとはな。やるなぁ」
先ほど京子ちゃんに倒されたはずのスキンヘッドが、頭を抑えてふらつきながらも立ち上がった。
「……アンタがここまで強かったなんて。想定以上だ」
スキンヘッドはふらふらの状態なのに両拳を握りしめ、戦う姿勢を示す。
「フェリシア様から離れてもらおうか……」
京子ちゃんに踏みつけられているフェリシアを救出するつもりなのだろう。あれだけの力の差を感じながらもスキンヘッドはジリジリと距離をつめる。
「その人は世界を変える英雄となる人だ。俺はその人を……守るんだッ!!」
京子ちゃんに向けて現在出せる全力のパンチを放つスキンヘッド。ふらふらとはいえ、腰の入ったパンチだ。それなりの威力とスピードがある。
しかし、京子ちゃんは木刀であっさりと受け流すと、パンチが外れて無防備になったスキンヘッドの頸を肘で殴りつけた。
「ッヴ!?」
スキンヘッドは白目を剥き、フェリシアの隣に倒れる。意識はあるが、ダメージが大きいようでもう立ち上がることができず、立ち上がろうと力を入れてもすぐに崩れ落ちてしまう。
「フェリシア……様……………」
何度も立ち上がろうとして立てないと分かったのか、スキンヘッドは地面に突っ伏しながらフェリシアに手を伸ばす。
地面を這いながらその手はフェリシアの手へ届く。
しかし、フェリシアは完全に意識を失っており、スキンヘッドが触れてもぴくりとも動かない。
私達はなんと声をかければ良いのか分からず、彼らの様子を見守る。フェリシアに乗る京子ちゃんはスキンヘッドの目線の先に、木刀を地面に突き立てる。
「何が世界を変えるだ。お前は自分がしたことを分かってるのか!!」
倒れているスキンヘッドに向けて怒鳴る京子ちゃん。それに倒れた状態のスキンヘッドは、そのままの姿勢で、
「分かってるさ……。俺はダチを生贄にしようとした。アンタや兄貴に言いつけられてたことを俺は破ったんだ……」
「なら……」
京子ちゃんが何か言おうとした時、スキンヘッドが遮った。
「だがよ、それでもやらなくちゃぁいけない時がある!!」
スキンヘッドの勢いに京子ちゃんは出しかけた言葉を出すのをやめた。
「姉さん、アンタの弟は俺を拾ってくれた恩人であり、俺の目指す場所だった。しかし、運命ってのは残酷だな、俺から目標は消えちまった」
京子ちゃんの弟は事故で亡くなっている。スキンヘッドの言っている人物は彼のことだろう。
「俺はアンタや兄貴のようになりたかった。俺達を守ってくれたアンタらのような強い人間にな」
もう本当は立てないはずだ。立てないはずなのに、ふらつきながらもスキンヘッドはゆっくりと立ち上がった。
片目は閉じ、残った目も半開き、足はプルプルと震えて立つのが奇跡のような状況だ。
スキンヘッドが立ったことで、京子ちゃんは地面から木刀を抜き取る。
「俺はその人を守る……。そう決めてんだァ、退けよ、……退きやがれ!!」
さっきほどのキレはない。私でも避けられそうなふらふらなパンチ。ゆっくりと向かうスキンヘッドの拳は、フェリシアの上に立つ京子ちゃんの頬に当たった。
威力はなく、頬をぷにっとしただけ。そうなることを分かっていたから京子ちゃんも避けなかったのだろう。
パンチを放った後、スキンヘッドはそれが最後の足掻きだったのだろう。全身の力が抜けて前のめりに倒れる。
倒れかけたスキンヘッドを、フェリシアから足を下ろして京子ちゃんは抱きしめて受け止めた。
京子ちゃんに支えられているスキンヘッドは手をぶらりとさせて、目を閉じている。微かにあった意識もこれで完全に失ったようだ。
京子ちゃんはスキンヘッドを倒れているフェリシアの横に寝かせる。二人を見下ろす京子ちゃんは、二人に目線を向けたまま、
「霊宮寺さん達は先に帰っててくれ。後は私が片付けておく……」
あれから約一ヶ月。例の事件のあったビルは解体された。
あれ以降、リエが狙われることもなくなり、私達は今まで通りやってくる依頼をこなしていく。
「レイさん、今日の依頼大変でしたね!」
「そうね〜、まさかロボットに幽霊が取り憑いてるなんて〜」
何事もなかったように時間は過ぎていき、節分やひな祭りでヒーローやマッチョと会う機会はあったが、京子ちゃん達は顔を出さなかった。
仲間だったスキンヘッドの裏切りに、ビルの後始末。
私達のところにも彼らの事件について調査がしばらく大変だった。その彼らと近かった京子ちゃん達はもっと大変だったろう。
そうしてまた時は過ぎ。
「もうだいぶ暖かくなって来ましたね〜」
窓際にパイプ椅子を持って行き、日向ぼっこしているリエがだらけた顔する。
「さっき川の方を散歩してたら桜も咲いてたしね。もう春よね」
私は台所で紅茶を淹れながらリエの独り言に返事をする。
「レイさん、花見やりましょ〜、私お団子食べたいです!!」
「いや、花より団子食べる気満々じゃない!!」
紅茶を淹れ終えた私は、マグカップを持ってソファーへ向かう。ソファーでは黒猫が丸くなって寝ており、私はその横に座った。
「そうね〜、花見もいいかもね」
私が座って返事をすると、
「なら早速やるか!!」
背後から女性の声が聞こえた。私は首を上げて声の主を確認すると、
「京子ちゃんにコトミちゃん!!」
そこには楓ちゃんが中に入れたのだろう。京子ちゃんとコトミちゃんがいた。
「久しぶりね!」
私は久しぶりの再会にテンションが上がる。コトミちゃんもぺこりとお辞儀して挨拶をする。
「久しぶりです。霊宮寺さん、ずっと連絡できなくてすみません」
「良いのよ、でもどうしてたの?」
「私は受験があったので忙しかったのと、彼が逮捕されたことでちょっと色々と……」
「そう……」
ニュースでは報道されなかったが、スキンヘッドやフェリシアが捕まったことはタカヒロさんから聞いていた。
フェリシアは悪霊を取り込むことで力を蓄え、その力を世界中にアピールすることで国家を作ろうとしていたらしい。それにスキンヘッドも賛同し、彼女の側近として守っていたようだ。
京子ちゃんは木刀を肩に乗せると、玄関の方へ親指を立てる。
「花見、やるんだろ!」
「今すぐに!?」
「ふふふ、私はそのつもりで来たんだ。すでにメンバー集めは終わってる。というか、そのせいでしばらく会えなかったんだけどな」
「集め終わってる?」
私は疑問に思いながらも、コトミちゃんに急かされて準備を始めた。
そして支度を終えた私達は京子ちゃんがすでに準備を終えたという花見スポットへ向かった。
「レイさ〜ん。こっちだ!!」
花見の会場に着くと、そこにはすでにブルーシートに座り、お酒を飲んでいるレッドやスコーピオン達の姿があった。
他にもマッチョや魔法少女、いつもの面々がいる中。
「来たかァ。お前達」
その中で一番お酒を飲んで顔を真っ赤にしている、赤い髪に牙の生えた人物。
その人物を見て私とリエ、黒猫に楓ちゃんは同時に叫ぶ。
「「「「フェリシア!?」」」」
そしているのはフェリシアだけではない。
「俺もいるぜ」
そこにはスキンヘッドの姿があった。
「なんであなた達が!? 捕まったんじゃ……」
「姉さんのおかげで少し色々あってな。監視付きだが……短時間なら外出が許可されてるんだ」
なぜだか分からないが、そういうことらしい。しかし、スキンヘッドと京子ちゃんは仲直りをしたのか、今まで通りに接している。
事情を理解したところで私達も花見に参加する。
花が散る中、皆で夜まで騒ぎ過ごす。一年にも満たない期間だが、ここまでの人達と出会った。
一人の幽霊との出会いから始まり、ヒーローやマッチョ、暴走族に、ラスボスぽいやつまでそんな人達との出会いをもたらした。
唐揚げを頬張りながら天を覆う桜を見上げる。一面を覆う桃色の世界。
この一面を覆う花が散り、季節が変われば、全てが始まった夏が訪れる……。
プロペラの回転する音。船内が揺れ、私は目覚めた。部屋はベッドと小物が置ける程度の小部屋。私が起き上がる、銀髪の長い髪が私の身体を追って背中に張り付く。
窓から見えるのは一面を覆う雪景色。先程までいた森とは世界が一変している。
「………………なんだろ……う。不思議な夢を見ていた…………みたい…………」
時計を見るとセットしておいた時刻の5分前になっていた。私は時計を止めて普段の戦闘服へと着替える。
「少し早い……けど。隊長も……準備終えてる……はず」
私は部屋を出て仲間の元へと向かった。




