第77話 『テレポート』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第77話
『テレポート』
レッドと加藤さんが戦う最中。裏門付近では京子ちゃんとシスターが戦闘を続けていた。
シスターは槍で京子ちゃんを突き刺しにしようとするが、京子ちゃんは左右に身体を動かしてあっさりと躱す。
さらに避けてすぐに木刀を横に振って、攻撃を仕掛けてきた。
自身の身体を1メートルほど、後ろにテレポートをさせて回避を試みる。これで木刀を避けたら、リーチの長い槍で攻撃できる。
しかし、後ろにテレポートをするのを予測していたように、京子ちゃんは一歩深く踏み込むと、テレポートしたシスターを木刀で殴り飛ばした。
木刀の威力は重力級のボクサーをパンチを超え、ショットガンの破壊力に匹敵する。
そんな馬鹿みたいな威力の打撃を受けたシスターは、大きく後ろに吹き飛ばされる。
意識を失いそうな中、シスターはダメージを軽減させるため自身の身体を何度もテレポートさせる。同じところを行ったり来たりした後。吹っ飛ばされた衝撃が弱くなってから、地面に倒れ込むようにテレポートする。
地面に槍を突き刺し、血反吐を吐きながら立ち上がる。しかし、立ち上がったとしてももうこの女性に勝つ手段はない。
実力の差を圧倒的。勝機は無く、今すぐにでも白旗を上げたい。
しかし、それができないのは……。
「ここまで強くても……あの人に……は、勝てない」
喋るたびに喉がヒリヒリと痛み、鉄の味が舌に染み込む。
シスターはボソリと喋りづらそうにしながらも、口を動かした。
わざと聞こえるように呟いたのだろう。それを感じ取った京子ちゃんは木刀を向ける。
「誰の話だ?」
「…………」
しかし、言いたいことだけ口にしてそれ以上は喋らないシスター。
捕まえて喋らせるべきか……。どうするかと京子ちゃんは思考を巡らせる。
だが、考えている間にシスターは動き出した。
フラフラの身体に鞭を打って、近くに落ちていた煉瓦を京子ちゃんの頭上にテレポートさせる。
落下して京子ちゃんの頭をかち割るのが狙いのようだが、京子ちゃんは木刀を一振りして頭上に現れた煉瓦を粉々に砕いてしまった。
もう勝てないと判断したシスターは、テレポートで自身の身体を京子ちゃんから離れた位置にテレポートさせる。
しかし、短時間に何度も能力を使ったことで、さほど遠くへ移動することはできずに、門から数歩進んだところにある木の下まで飛ぶのが精一杯だった。
シスターは疲労で息を切らし、ダメージもあり限界に近い。
トドメを刺そうと、京子ちゃんがシスターに近づくために走り出そうとした時。シスターの奇行に足を止めた。
シスターは自身の左目に手を当てると、指を手の中に突っ込んで目玉を抜き取った。
「っ!? 何してるんだ!!」
目玉を取り出したシスターは、痛みで歯を食いしばりながらも「は、はは……」と渇いたような笑い声を出す。
そして京子ちゃんに取り出した目玉を投げつけた。
木刀で目玉を砕いても良かったが、シスターは攻撃というよりも投げ渡すように、優しく投げたため京子ちゃんは目玉を受け取った。
まだ暖かく湿っている。そんな目玉を投げられ、京子ちゃんはなんのつまりなのかと、疑問の目でシスターを見る。
しかし、シスターは何も言わずに、無くなった左目の位置を手で押さえて、顔を半分隠す。
そして残った手で槍を動かすと、槍の先端を使い、地面にある形を掘る。手が震えていて線がブレているが、
「三角……? どういう意味だ!!」
「…………」
「どういう意味だと!!」
京子ちゃんが駆け寄ろうとすると、シスターは小さく口を開く。そして、
「……助け、て」
そう言った後、槍を京子ちゃんに向けて投げ飛ばした。
「っ!!」
シスターの言葉に一瞬油断しかけたが、木刀で槍を弾いて防ぐ。そしてそのままシスターの元まで特攻しようとしたが、シスターの姿が、
「いない……。槍は注意を引くためか」
奇襲を仕掛けてくるかと、周囲を見渡してみるがシスターの姿はない。
「逃げた……か」
緊急離脱用の力は残していたのか。もう目で見える範囲にはシスターの姿は見えない。
さらに、
「京子ちゃん!? 加藤さんが!!」
遠くからシスターと京子ちゃんの戦闘を見ていた私達。二人の戦闘が終わって一安心。そう思ったが、
「レイ、あれ見ろ!!」
黒猫が私の頭を叩いて、加藤さんが倒れている場所を見るようにせかしてくる。
「なによ……」
レッドを支えながら黒猫に言われた通り、加藤さんのいるはずの場所を見ると、そこには加藤さんの姿はなかった。
「加藤さんが逃げた!?」
「違う。さっきのシスターが連れて逃げたんだよ。アイツが警察に捕まって取調べされれば、情報が漏れるからな。回収したんだろ」
「そういうこと……」
京子ちゃんも呼び合流する。京子ちゃんはかすり傷ひとつなく、無傷な状態だ。
「その赤いやつは無事か?」
京子ちゃんは心配するようにレッドを見る。レッドはか細い声で
「問題ない」
と言い張るが声にハリがないし、結構なダメージなのだろう。
「救急車を呼びましょう」
「そうだな。そうするか」
私の提案に京子ちゃんも賛成して救急車を呼ぼうとする。しかし、レッドが私の携帯を奪い取って止めた。
「やめろぉ」
「何やってるのよ!? あんたその傷なのよ、治療しないと!!」
「救急車を呼ぶと学校に迷惑がかかる。こいつを呼んでくれ」
レッドはスーツの中から手帳を出して私に渡す。そこにはヒーロー組織の電話番号が記載されていた。
「ヒーロー専用の治療チームがある。これなら事件は終わったとして処理できる。学園祭を終わらせるのは学生君達が可哀想だからな……」
「はぁ、分かったよ」
シスターもいなくなったし、あれだけ京子ちゃんにボコボコにされたんだ。また現れることもないだろうし、レッドの言う通り、ヒーロー組織に事件の処理は任せて、大ごとにしなくても良いのかもしれない。
連絡をすると、すぐにヒーロー組織の車が駆けつけてレッドを回収していった。
車が来たタイミングで魔法少女達も戻ってきて、巨人の悪霊が倒されたという報告も聞けた。
「まさか、楓ちゃんの学校に遊びに来て、こんな事件に巻き込まれるなんてね」
「まぁ、原因はこいつだがな」
私と黒猫の目線はリエに向く。すると、リエはソワソワとして焦り出す。
「確かに狙ってましたけど!? 私何もしてませんよ、なんで私ばっかり狙われるんですか!!」
「あんた実は特別な力を持ってるとか、そんなんなんじゃ……?」
「ありませんよ!! あったら嬉しいな!! とか思いますけど、ありませんから!!」
まぁ、リエが狙われる理由は分からないが、これ以上問い詰めても何も出てこないだろう。
「そういえば、京子ちゃんさっきから何か握ってるけど、何持ってるの?」
リエを問い詰めるのをやめた私は、京子ちゃんがシスターとの戦闘を終えてから何かをずっと握っていたことに気づく。
効かれた京子ちゃんは嫌そうな顔をして目を逸らす。
「あー、見ないほうがいいと思うが……」
「なによ〜、良いものなの? 見せなさいよ〜!!」
私は京子ちゃんの肩を揺らして迫る。なかなか見せようとしなかった京子ちゃんだが、
「はぁ、分かった。後悔するなよ」
ため息を吐くと、私達の目の前に手を出して開いて見せた。すると、そこには、
「……これって……………」
そこには目玉があった。
「シスターが突然目ん玉を抜き取ったんだ」
「…………………っ!?」
私とリエは顔を横にしてしゃがみ込むと、溢れ出るものを口から吐き出した。
「だから見ない方がいいって言ったろ……」
「そういうものだと……思わないじゃない」
私とリエは目玉を見てやられているというのに、黒猫は目玉をじっと見つめて考え込む。
「アンタ……よくそんなグロテスクなもの、ずっと見てられるね……」
「ですね……タカヒロさん。凄すぎです……」
私とリエがそんなことを言っていると、黒猫はやれやれと尻尾を振る。
「お前らなぁ、地下鉄で持ったヤバいもの見ただろ」
「あれはある程度覚悟があったから大丈夫だったのよ!! 不意打ちは無理よ!!」
私は言い訳をするが、黒猫は私の話を聞かずに京子ちゃんに話しかける。
「この目ん玉、何か意味があるんじゃないか?」
「ネコ、お前もそう思うか……」
「ネコじゃない。ミーちゃんだ。ああ、逃げる力があったのに、これを残して行く意味がわからん」
「あのシスター。他にも様子がおかしかったんだ。地面に三角形の何かを書いて……」
「三角と目玉……何か繋がるのか……?」
黒猫と京子ちゃんが真剣に語り合うが、私とリエは話について行くことができず。二人の話を身体を左右に揺らしながら聞き流す。
「何話してるんでしょうね〜」
「ね〜」
「お前ら考える気がないならどっか言ってろ……」
黒猫に怒られて、私はリエと共に端っこで蟻の観察を始める。そこまで怒らなくてもいいのに。
「リエさん、見てください!! 飴玉ですよ、誰かが捨てた飴玉を蟻が運んでます」
「アンタ、蟻から盗み食いしちゃダメよ」
「そんなことしませんよ!!」
黒猫達の話が進み、私達も蟻の観察に飽きてきた頃。校舎の方からアナウンスが聞こえてくる。
「これから校内でのライブが始まります。ご覧になる方は体育館にお集まりください」
アナウンスが流れ終えて、私とリエは立ち上がる。
「そろそろ始まるみたいですよ!!」
「そうね。色々あった後でそんなことしてていいのかってなりそうだけど……まぁいっか、見に行きましょうか」
私はリエを連れると、シスター達の正体について話し合っていた黒猫を回収する。
「おい、まだ話は……」
「アンタの弟子のライブよ。見に行かないとあの子泣くよ」
「…………マジで泣きそうだな。……分かったよ。また今度話すか」
黒猫を頭に乗せて、私達は校舎へと入っていった。




