第67話 『キノコは危険』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第67話
『キノコは危険』
時刻は昼を過ぎて、日が落ち始める。
「あれ? そういえば、コトミちゃんは?」
お肉もあらかた食べ終わり、やることのなくなった私は椅子を並べて横になる。そんな私と上に重なってリエもうとうとしていた。
「コトミさんですか……見てないですね〜」
欠伸をしながら首だけ左右に動かして周囲を確認したリエが答えた。欠伸と同時に身体を伸ばしたため、手が顎に当たって苦しい。
「そういえば、30分前くらいにトイレに行ってから、帰って来てない気がしますね」
「何かあったのかな〜」
山奥とはいえ、コトミちゃんは来年から大学生。もう大人になるんだし、大丈夫だろうと、そこまでは心配してない。
と、やはり心配の必要はなく。そんな会話をしてすぐにコトミちゃんが戻ってきた。
「あ、戻って来ましたね……あれ、でも、なんか変ですね」
寝っ転がったままリエがそんなことを口にする。気になった私は首だけ動かしてコトミちゃんの様子を見る。
「んぅぅ〜、そうね、なんか……変ね」
リエが上に乗っているため、はっきりとは見えないが、コトミちゃんの見た目がさっきと違う。
頭に何か刺さっている……?
「リエ、ちょっと……」
「はい?」
私はリエを退かして、もう一度コトミちゃんを見直す。しかし、やはり刺さっていた。いや、正確には生えていた。
「頭にキノコが生えてるぅ!?」
戻って来たコトミちゃんの頭にはカラフルなキノコが生えていた。
思いっきり頭から生えたキノコは、風に揺れて左右に動く。そしてコトミちゃんの表情はおかしく、目は虚で口は半開き、両手をぶらりと下げていた。
「コトミちゃん、そのキノコどうしたの?」
その様子を心配し、アゴリンさんとスコーピオンがコトミちゃんに近づく。
「俺のデーモンシザーでそのキノコ切ってやろうか?」
冗談混じりに自慢のハサミを上下させるスコーピオン。しかし、そんなスコーピオンの冗談やアゴリンさんの心配を無視して、コトミちゃんは何も返事はしない。
「本当にどうしたの?」
アゴリンさんが何かあるのかと近づいた時。コトミちゃんが動いた。アゴリンさんの距離を縮めると、顔を近づける。鼻と鼻がぶつかりそうな距離。そんなところで……。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
コトミちゃんはアゴリンさんの顔に向けて、吐息を放った。その吐息には黄色い粉が混じっており、その粉を吸ってしまったアゴリンさんは全身の力が抜けたようにだらりと両手を下げた。
「どうした? アゴリン?」
スコーピオンが心配してアゴリンさんの肩を掴んで揺らす。そして気がついた
「お前、頭にキノコ生えてるぞ!?」
アゴリンさんの頭にコトミちゃんと同じようにキノコが生えていた。
「ど、どうなってるんだ!? 怪人の攻撃か!?」
怪人が怪人の攻撃を警戒して、距離を取ろうとする。しかし、スコーピオンはすでに……
「なに!? 挟まれた!?」
コトミちゃんとアゴリンさんに左右から挟まれて逃げ場を失っていた。
想像以上にヤバそうなことになっていたため、私はリエを抱き上げて立ち上がる。そしてスコーピオンの元に行こうとするが、スコーピオンはそんな私を見て、叫び声を上げる。
「来るな!!」
「え、でも!?」
「俺はもう助からない……。レイさんは残ったみんなを連れて逃げてくれ……。これは怪人である俺の勘だが、原因を解決すれば、キノコが抜けて元に戻る!! 後のことは頼んだぞ!! がぁぁぁぁぁっ!!」
「スコーピオォォォォォンッ!!!!」
吐息を吐かれるスコーピオン。私とリエは背を向けると、振り返ることなく走り出した。
そして私がみんなに伝えることなく、現状の状況はこの場にいる原因に見えていたようで、残った全員は一斉に同じ方向へ逃げ始める。
「おい、レイ。なんだあれは!!」
楓ちゃんに抱っこされた黒猫が説明を求めてくる。しかし、私がわかるわけもない。
「知らないよ!! あんたこそ、知らないの!?」
「知るか!!」
やはりというか、黒猫も知っているわけがない。そんな中、京子ちゃんが走りながら
「もしかしたらだが、キノコ神様かもしれない」
「なんですかそれは?」
「この山にいたとされる神よ。恐らくは妖が神として崇められてただけだと思うけどね」
バーベキュー場が見えなくなり、辺りが木しかない場所で、私達は円形になって京子ちゃんの話を聞く。
「数日前に雨があったでしょ。その時に祠がズレて封印が解除されたんだ。コトミ達を戻すためには、キノコ神様を封印し直す必要がある」
封印ってそんなこと言われても……。封印の方法がわからない。
すると、私の疑問を代弁してくれたかのように、楓ちゃんが質問する。
「封印ってどうやるんですか?」
「簡単だ。祠の位置を戻せば良い。そうすれば、キノコ神様は力を失う」
「なら、早く行きましょう!! 皆さんを元に戻さないと!!」
気合を入れて楓ちゃんが拳を握りしめる。そんな楓ちゃんの士気の上昇に反応するように、魔法少女達も気合を入れて、それぞれ拳を握りポーズを決める。
「そうね、こういう時こそ、ヒーローの出番ね!!」
「そうやな、私達が祠をチャチャって戻してやるぜ」
「ヒーローの出番ってことですわね」
そうだ。こういう時こそ、ヒーロー達に任せれば良い……。私達はゆっくりと魔法少女達から距離を取る。
「どうしたんですか……皆さん…………」
嫌な予感がした魔法少女達は引きずった表情で、後ろを振り返る。すでに背後にはキノコの生えたコトミちゃん達が立っていた。
「あ……」
三人の魔法少女達はキノコの生えたコトミちゃん、アゴリンさん、スコーピオンに捕まる。そして両手で顔を掴まれて、顔を近づかせられると……。
「い、いやァァァァァァァァァァ!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁっ…………」
魔法少女達の勇気ある犠牲のおかげで私達は逃げることができた。
ありがとう魔法少女──あなた達のことは忘れない。
魔法少女を生贄に、寄生されたコトミちゃんから逃げた私達は、さらに山奥へ逃げ込む。
「姉さん、その祠ってどこにあるんだ?」
走り疲れて息を切らした私の背中を摩りながら、スキンヘッドが京子ちゃんに聞く。京子ちゃんはマッチョ達と辺りを警戒しながら、問いに答える。
「この山の頂上だ。そこに祠がある」
京子ちゃんはそう言って山の天辺を指で示した。
山の頂上はまだまだ先、今いるところで半分というところだろうか……。そんな話を聞いて私は座り込んだ。
「もぉぉ〜だめぇ……」
「私もです〜」
私と同じように疲れ切ったリエが、私の膝を枕にして寝っ転がる。
疲れて休んだ私たちを見て、黒猫が睨みつけてくる。
「お前ら、何やってんだよ」
「しょーがないじゃない……疲れたんだから……。てか、アンタはずっと運んでもらってるじゃない」
そう、黒猫は楓ちゃんに抱っこしてもらっている。アンタには言われたくない。
私の状態からスキンヘッドとマッチョ達。男共が相談を始める。
「このままみんなで行動しててもいつかは追い付かれる」
「なら、筋肉のある男性陣が祠を戻し、女性陣は残った男性陣が守るっていうのはどうだ?」
「よし、なら二チームに分かれるか」
相談を終えると、スキンヘッドが中心となりチーム分けを始める。そして……
「祠を戻すのは、マッチョと姉さんのトリプルゴリラチーム。残った俺と楓は霊宮寺さん達を守る。それで良いな」
というチーム分けになった。
同じチームになったことを、黒淵さんが喜んで興奮しているが、とりあえず無視する。
まぁ、楓ちゃんがいるだけでこっちとしては守ってもらえるから構わない。しかし、
「誰がゴリラだァァァァァ!!!!」
ゴリラチームと呼ばれて怒った京子ちゃんが、スキンヘッドを木刀で殴り飛ばした。飛ばされたスキンヘッドはぶつかった木を三本ほど倒して止まる。
「スキンヘッドォォォォォ!? …………気絶してる……」
スキンヘッドは鼻から血を流して気絶している。自業自得といえばそうなのだが……。
京子ちゃんはそっぽを向いて腕を組む。だが、チーム分けを変えることはないし、意見としては賛成らしい。
「大丈夫ですか?」
スキンヘッドを心配して、楓ちゃんが駆け寄る。すると、スキンヘッドはムクっと立ち上がった。
「大丈夫だ……」
「復活はや!?」
まぁ、その復活の早さは楓ちゃんの力だろうが……。
チーム分けも終わり、祠を戻すのは京子ちゃん達に任せて、私達は寄生された人々に襲われないように隠れられる場所を探す。
「どこか、隠れられそうなところは……」
私達は周囲を見渡すが、木や草だらけであり何も見当たらない。
「私はレイちゃんと一緒なら、キノコが生えても良いわよ〜」
「私は嫌よ」
こんな状況だというのに、黒淵さんはしつこく絡んでくる。腕に絡みついてくる黒淵さんを引き剥がそうと、私は黒淵さんの身体を押すが、意外と力のある黒淵さんに私は負けて引き剥がせない。
そんな中、ふと、黒淵さんがキョロキョロし出すと、
「あら、何か聞こえるわね」
それと同じくして黒猫も耳をピンとさせる。
「来るぞ。奴らだ……」
黒淵さんと黒猫は同時に同じところを向く。そこは草むらの生い茂る林の中。
「誰もいないよ……?」
しかし、そこに人がいる気配はない。あるのは本当に草木のみ。しかも草むらに隠れるにしても、この高さじゃ隠れきれないし、木のそんなに太くはない。
「気のせいだったんじゃないですか?」
楓ちゃんが草むらを見てそんなことを言う。私も同感だ。黒淵さんと猫が同時に反応したのは、偶然だろう……。
しかし、気のせいだと認めたくないのか。黒淵さんは慎重に草むらに近づいていく。
「そんなことないわよ。私のセンサーは完全に……」
そして背伸びをして草むらの中を覗いてみた。だが、何も見えないのか、反応がない……。
「やっぱり何もなかったんじゃ……」
「違う…………っ!! 上だ!!」
黒猫が叫んだ時、上にある木の枝に足を引っ掛けて、美津子ちゃんがぶら下がって現れた。
「やっぱり私のセンサーは正しかったんだ!!」
黒淵さんが喜ぶのも束の間。美津子ちゃんは逆さになった状態で、黒淵さんの顔を掴む。
そして黒淵さんに向かって息を吹きかけた。
「黒淵さぁぁぁん!!」
「モエちゃんで…………しょ………………」
黒淵さんの頭にもキノコが生えて、操られてしまう。まさか、魔法少女が上から現れるなんて……。
「早く逃げないと!!」
私達は急いでこの場から逃げようとする。しかし、
「もう遅いな……」
黒猫が悟ったようにそう口にすると、木の上から魔法少女達が降りてきた。
現れたのは詠美ちゃんとセナちゃん。美津子ちゃんと新しく操られた黒淵さんを加えれば、四人に囲まれた状態だ。
「完全に逃げ場がないですよ!!」
私とリエ、黒猫と楓ちゃん、スキンヘッドは、完全に囲まれてしまった。
「どうしましょう、どうしましょう!?」
リエが私の肩を掴んで揺らして助けを求めてくる。しかし、そんなこと言われてもどうにもできない。
ハンパ諦め状態でいると、楓ちゃんが黒猫を私に渡してきた。
「ここは僕たちに任せてください」
「ああ、その通りだ。霊宮寺さん、アンタは逃げな」
そして楓ちゃんとスキンヘッドが前に出る。
「楓ちゃん、スキンヘッド……?」
「僕達が突破口を開きます。師匠を連れて、逃げてください」
「俺達も後から追うからよ。振り返らずに走りな」
思いっきりフラグを立てまくる二人。だが、今はそれしか手段もない。
「分かった。ここは任せたよ」
「はい!!」
私は黒猫を頭に乗せ、リエの手を引くと真っ直ぐ走り出した。もう振り返ることもせず、ただひたすらに真っ直ぐと……。
「私達は逃げ切れましたが……楓さん達は……」
逃げ切ることに成功し、洞窟を見つけた私達は洞窟の中に身を潜めていた。
楓ちゃん達のおかげで逃げ切ることはできたが、もう私たちを守ってくれる人はいない。
「これからどうする? このまま隠れているつもりか?」
黒猫が洞窟の外を見張りながら私に訊ねる。
「隠れているのが一番良いでしょ。京子ちゃん達に任せれば良いのよ」
黒猫的にはここで隠れていないで、私達も祠を目指すべきだと言いたいのだろう。私達に魔法少女達が現れたということは、残りのコトミちゃん達三人は、祠を守りに行ったということだ。
京子ちゃん達が無事だとは限らない。ならば、私たちで祠を戻しに行くべきだ。黒猫が言いたいことはそんなところだ。
しかし、そんなリスクは犯したくない。見つかって捕まれば、その場でアウト。洞窟から出ないで潜んでいれば、それは絶対にないのだ。
何よりも向こうは、ゴリラチーム。ほぼ無敵の陣形と言って良い。あのチームが負けたなら、人類はキノコに征服されるだろう。
「なんか揺れてませんか?」
洞窟の奥にいたリエがそんなことを言い出し、怯えるように私の元へと駆け寄ってきた。
確かに揺れているような……。
「これはヤバい奴らだな……」
外を警戒していた黒猫は、私の肩に飛び乗ってすぐに逃げるように指示を出す。私は嫌な予感がして、急いで洞窟の外へ向かう。
「来るぞ来るぞ来るぞ!!」
洞窟を出て振り返ると、洞窟の岩を素手で掘り進み、マッチョ達が洞窟から現れた。
揺れていたのはマッチョの二人が穴を掘っていたからだ。そして二人の頭には……。
「この二人がやられたの!?」
キノコが生えていた。
「逃げろ!!」
「言われなくても逃げるよ!!」
私は黒猫とリエを連れて、全力疾走を始めた。すぐ後ろをキノコの生えたマッチョが追ってくる。
私は走りながら叫ぶ。
「なんで居場所がバレたのよ!!」
「そんなの決まってるだろ、鼻が効くやつが敵になったからだよ」
私達の逃げる方向。そこにはキノコの生えた黒淵さんがいた。
そういえば、猫と同じくらい早く、人の接近に反応していた。黒淵さんはなんらかの理由で、人の居場所がわかるのだろう。
「前だけじゃないです!!」
「囲まれてる!?」
気がつけば、すでに逃げ道は塞がれており、私はキノコの生えた集団に囲まれていた。
「もうだめだぁぁぉぁ!!」
足を止めて私は頭を抱える。逃げる手段はない。何より囲んでいる中には楓ちゃんもいるのだ。
どんなに頑張って逃げても、楓ちゃんに追いつかれてしまう。
「レイさ〜ん、助けてくださ〜い!!」
リエの手が私から離れて魔法少女達に連れ去られる。
「うぉっ!? やめろ〜!! ミーちゃんに触れるな!!!!」
頭にいたはずの黒猫はマッチョの二人と黒淵さんに捕まった。
「リエ!! タカヒロさん!!」
私は二人に手を伸ばすが、その腕を横から出てきた手に掴まれた。
「か、楓ちゃん……」
私を捕まえた楓ちゃん。そのまま両腕を掴まれて完全に拘束されると、楓ちゃんの顔が近づいてきた。
もうダメだ……。私も頭にキノコが生えるんだ……。
すでにリエと黒猫は吐息を吐かれて、頭からキノコが生えている。もうすぐ私も仲間入りする……。
楓ちゃんが大きく息を吸い……吐こうとした時。
山の頂上から強い衝撃音。そしてそれと同時に頂上から風が吹き荒れた。草木が揺れて、その衝撃の強さを物語る。
風が吹き終えると、
「あ、あれ、僕は……」
楓ちゃんの頭に生えていたキノコが、ポロリと抜けた。そしてそれは楓ちゃんだけでなく、みんなも同じように、キノコが抜けていく。
「私は確か……」
「レイさん!! 良かった!! 祠が戻されたんですよ!!」
みんな元に戻り、私はホッとして全身の力が抜けたように倒れる。そんな私をすぐさま、楓ちゃんが気づいて支えてくれた。
「大丈夫ですか? レイさん」
「ありがとう、楓ちゃん」
バーベキュー場に戻ると、京子ちゃんと残りのメンバーがすでに戻っていた。
「皆、元に戻れたみたいだな」
「京子ちゃんが祠を戻してくれたの?」
「ああ、途中でキノコ神様が邪魔をしてきたが、木刀でぶっ倒しておいた」
流石は名のある霊能力者だ。邪魔をされても問題なく倒してしまう。
「さてと、みんな無事に戻れたことだし、続きをやりましょうか」




