第60話 『拝借様』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第60話
『拝借様』
「皿戸画駅〜、皿戸画駅〜」
心地の良い揺れにうたた寝をしていた私は、駅のアナウンスに目を覚ます。
「ふぁ〜、今は……」
私は電車の窓から駅名を見て顔を青ざめる。
「やば!! リエ、起きなさい!! 着いたよ!!」
「ふぁあっ、なんですか?」
「だから目的地に着いたんだって!! 早く降りないと降り過ごしちゃうよ!!」
荷物とリエを両肩に乗せて、私は電車を駆け降りる。どうにか間に合い、降り過ごすことはなかった。
電車を降りて駅に降りた私達を囲む景色。それは一色の緑。まさに森、森、森!! 山奥のど田舎だ。
「やっと着いたんですね」
「ええ、ここが皿戸画村よ」
私達がやってきたのは、皿戸画村よ。なぜ、こんなところに来ることになったのか。
それは物語を三日前に戻すことになる。
忍者の依頼を終え、一週間ほどの時間が経過した事務所に一本の連絡が入った。
それはアゴリンの紹介で私達を知った、宿のオーナーからの連絡。最近村で起きている怪奇現象の相談であった。
依頼ということで部屋をタダで貸してもらえることになった私達は、旅行気分で行くつもりだったのだが。
「それにしても楓さんとタカヒロさん、残念ですね」
楓ちゃんは部活の練習試合で来れなくなり、宿はペット禁止で猫は留守番になった。
宿に着いた私達は早速宿のオーナーに挨拶をする。
宿のオーナーは老夫婦であり、空いている部屋に紹介した後、宿の食堂を使い依頼について話をすることになった。
「それで依頼でしたけど。拝借様ってなんですか?」
電話で話を聞いた時に言っていた拝借様。それが今回の騒動にいる存在だ。
「はい。この村には昔から拝借様という伝承があるんです……」
拝借様。それはこの村で伝わる民間の神だ。あらゆる地方の神から、幾つもの力を借りることで、自身の力を得て土地神となった。
人々は神となった拝借様を称えて祀ったが、ある時問題が起きた。拝借様に力を貸していた神々が、自力で神域に到達したわけではない拝借様に怒り、貸していたものを奪い返したのだ。
それにより拝借様は力を失い。神からも見放された妖怪となった。
妖怪となった拝借様だが、地位を諦めたわけではなく。復帰のためにまた力を借りて権威を取り戻そうとした。
それは神だけにとどまらず。人間からも力の拝借を行い。寿命の短い人間は返してもらうことはできず、そのまま借りられた状態で生涯を終える。
「つまり借りパク様ってですね」
「はい。そして拝借様は何度も封じられ、復活を繰り返しました。そして明治初期に封印されたはずの拝借様は、またしても復活したんです」
「それでその拝借様って何を借りパクするんですか?」
「特に決まりはありません。視力や聴力、手足など、その生物から一つずつ。何かを貰っていくんです」
老夫婦も夫は片足、妻は片目を奪われているようで、杖や眼帯をしている。
他の村人達は何かしら奪われている様子だった。
話を聞いた私はひっそりとリエに相談をする。
「リエ、どうにかなりそう?」
「どうでしょう……。これだけの人間に干渉できるってことは、かなりの実力があるのは確かです。私達だけでどうにかなるかどうか」
「そうよね〜」
話を聞いた感じ、かなりヤバそうな感じだ。
私とリエだけでどうにかなる存在とは思えない。今更、楓ちゃんがいないことを後悔する。
「霊力は感じるから幽霊ではあるのよね?」
「はい。まだ悪霊にもなってないですね。力の強い幽霊って感じです」
「力の強い幽霊か〜」
幽霊の仕業で、かなりの実力があるのは確実だ。
私は依頼人の目を見ると、素直に伝えた。
「すみません。私と力じゃどうにもなりそうにないです」
無理なものは無理だ。こういう時は素直に伝えるのが肝心だ。無理をして危険な道を進む必要はない。
世界にはお兄様のような力の強い霊能力者もいる。この依頼はそのような人に頼んだほうがいい。
「そうですか。話を聞いてくれてありがとうございます」
「いえ、お力になれなくてすみません」
「良いんですよ。拝借様の恐ろしさは私たちの方が知ってますから」
依頼の件は許してもらえた。その後、依頼はやらなくても良いが、一日だけ泊まっていくことを勧められ、私は一晩だけ宿に泊めてもらうことにした。
夕食を終えて、私は部屋に戻る。部屋にはすでに布団がひかれており、私は飛び込むように横になる。
「リエ〜、楓ちゃんがいたら拝借様どうにかできたかな〜?」
私は横になったまま、窓際にいるリエに目線を向ける。
「楓さんでも厳しいかもですね。多くの村人を襲って、力を蓄えてるんです。低級の悪霊よりも遥かに上ですよ」
「例えば?」
「霊力で見れば、プールにいた悪霊さんよりは確実に上ですね」
「それはヤバいね」
「だからここはさっさと帰って正解ですよ。私達じゃどうしようもないです」
リエの言う通り。被害を増やさないためにもここは退いた方が良い。
しかし、私は他に霊能力者を紹介できるわけじゃないし、どうしようかと悩んでいると、窓から外を見ていたリエが声を上げた。
「あっ!!」
「どうしたの? トイレ流し忘れたの思い出したの?」
「やめてください。というか、幽霊はトイレ行きません。……そうじゃなくて!! いたんですよ!! 例の拝借様が!!」
「え!!」
私は勢いよく起き上がると、四つん這いで這って窓まで行く。そして窓から外を覗き込んだ。
「どこにいるのよ?」
「あそこです!! あそこ!! 向かいにある建物の看板」
リエが指示する場所に目線を向けると、そこには黒い衣装に身を包んだ女性がこちらを覗いていた。
私はその女性と目が合い、咄嗟に姿勢を低くして隠れる。
「ね! こっち見てない!!」
「見てますね」
「もしかして狙われてる!?」
「狙われてますね」
さっさと帰ろうと決断した時に限って、こうやって出くわす。なんてタイミング悪いんだ。
私は怯えて隠れているというのに、リエは窓から外をじっと見ている。
「あんたいつまで見てるのよ!! 早く隠れなさいよ!!」
「もう遅いですよ」
リエは隠れる気がないし、様子が気になった私は窓からもう一度覗き込む。すると、拝借様は笑顔で手招きしていた。
「めっちゃ怖いんですけど……」
「大丈夫ですよ。なんか話ほど凶悪な感じはないですし、ちょっと話に行きましょ」
「え、え〜」
結局、リエを一人で行かせるわけにもいかず、私も宿から出て拝借様の元へ向かった。
「やっと来たわね。もぉ〜コロッケ冷めちゃうじゃない」
拝借様の元に着くと、両手にコロッケを持っており、出会った瞬間コロッケを渡してきた。
「え?」
「この村の名物よ。来たなら食べてきなさい」
「は、はい」
無理やり渡されて、私とリエは受け取る。私は貰って大丈夫なのか。確認を取るようにリエに目線を送るが、リエは気にすることなくすでに食べ始めていた。
「ここじゃ、人目があるわ。すぐそこに公園があるからそこに行きましょ」
拝借様の案内で公園に着くと、私たちは並んでベンチに座った。腰を落とすと、拝借様は首を横にして私達の方に顔を向ける。
「あなた達。夏目ちゃんの友達でしょ」
「え!? なんで夏目さんのこと知ってるの!?」
突然、夏目さんの名前が出て、私は驚いて食べかけのコロッケを落としかける。しかし、リエが落ちる前にキャッチしてくれた。
「レイさん。残り食べて良いですか?」
「あんた…………あー!! もう良いよ食べて!!」
この状況で食欲のない私は、リエの様子に呆れてコロッケをあげる。
リエを放置して私は拝借様の方に向き直る。
「なんで夏目さんのことを……」
「私、夏目ちゃんとは古い仲なのよ。この前、夏目ちゃんから手紙が来てあなた達のことが書いてあったわ。でも、男の子と猫がいないわね?」
「彼らには留守番してもらってて。私たちしか来てないのよ」
「あら、それは残念。せっかくだから会ってみたかったんだけどね。まぁ、良いわ。あなた達、夏目に呪いの品々を返しにいったね」
呪いの品々とは、呪いのダンベルや呪いのビデオのことを言っているのだろう。それらは呪いを解除した後、その品を返そうとしたが、管理できないため預かって欲しいと渡された。
お兄様に渡したいのだが、なかなか会えておらず。呪いの品は未だに事務所の棚に飾ってある。
「はい。でも、預かって欲しいって渡されましたけど……」
私はそのままの事実を拝借様に伝える。話の感じからして、すでに夏目さんの連絡で事情は知っているだろう。
呪いの話を終えると、拝借様は立ち上がり、私とリエの前に移動する。拝借様の立っている時の私よりも高く、2メートル以上ある。そんな幽霊が前に立つと壁のように感じる。
「私の話は村人から聞いたわね?」
「はい。もっと怖い幽霊かと思ってたけど、実際会ってみるとまともな幽霊ね」
「村人の話は真実で、昔は私、力を得るために人を襲っていたもの……」
私は真実と聞き、ほとんど変わることはないが、怯えるように深く座って少し距離を取る。
何か奪うつもりで接触してきたのか。怯える私とは対照的に、リエは拝借様に顔を近づけると、
「昔はってことは、今は?」
「もうやってないわ」
私はホッと肩を下ろす。私が襲われることはないようだ。
「夏目ちゃんのおかげよ。あの子のおかげで、私は正気を取り戻すことができた」
「夏目さんが?」
「あの子のおかげで私は元の幽霊に戻れた。あの頃の私は暴走気味だったからね」
今と昔で姿が違うのだろうか。それに村人の言っていた拝借様と今の拝借様はかなり違う存在のように感じられる。
話で聞いた拝借様は、狂気のようなものがあり、人から力を奪って神になろうとしてる怪しい存在のように感じた。しかし、今の拝借様は話もできて、昔を後悔しているようだ。
「何があったの?」
私が尋ねると、拝借様は背を向けて顔を見せないようにする。そしてボソボソと聞き取れない言葉を口にする。
「拝借様?」
私が声をかけると、肩をビクッとさせて上下させた。そして興奮気味だったのか、呼吸を整えると、背を向けたまま、先ほど聞き取れなかったことを、もう一度話し始める。
「私は神に恋をしたのよ。それはそれは美しい神様だったわ。月から舞い降りたその方は、男女問わずの多くの人から好意を持たれ、私もその人に惹かれた一人だったわ」
「そんなにモテてたんですか!!」
「ええ、交際をめぐって五人の権力者が来たことがあったわ。結局、誰に興味を持ってもらえなかった。そしてそれは私も同様。年月が過ぎると、彼は月へ帰ってしまった」
拝借様は寂しそうに空を見上げた。
「彼の居場所はここじゃなかった。当然よ。神には神の居場所がある。だから私も神になろうとした。彼に会うためにね」
「だから、人を襲ってたよね……」
「ええ、でも、神になることはできなかった。人が神になることなんて不可能なんだわ」
「それで諦めたの?」
「いいえ、諦めきれなかった。本当は分かってたけど、諦められなかったの。そんな時、夏目ちゃんと会ったわ。あの子に止められて、私はやっと諦めることができたの」
拝借様は振り返ると、私とリエに向き合う。そしてお互いに目を見合うと、拝借様は懐から箱を取り出した。
手のひらサイズの木箱で、古いもののようだが手入れが行き届いており、綺麗な状態だ。その箱をリエにも見える高さまで下げると、ゆっくりと開く。
「あなた達が来たら、私たちと思ってたものよ」
そこには黒い髪の毛が一本保管されていた。
「なにこれ?」
「神の髪よ」
「「神様の!?」」
私とリエが驚いて声を上げると、その声で髪が飛んでいきそうになる。拝借様は急いで箱を閉じて、大切に保管する。
「なんでそんな貴重なものを……」
「神様が寝ている時に、ひっそりと抜き取ってそれを御守り代わりにしていたわ。でも、神の力かしら、それが私を暴走するきっかけになったの」
寝ている間に神を抜かれる神様。結構間抜けな神な気がする。
話を聞いていたリエは、怖がるように箱から距離を取る。
「暴走って何があるんですか……」
「神の妖気みたいなものね。酔っ払っちゃったの。しかも力を与えられたみたいにね」
「じゃあ、そんなもの受け取ったら私も……」
「それはないわ。今は夏目ちゃんのおかげで封印できてる。夏目ちゃんの村には封印を得意とする妖怪が住み着いていみたいなの、その妖怪に頼んで、神の力を押さえ込んでるわ」
夏目さんの村にそんなすごい妖怪がいたなんて……。私が知っているのだと、あそこには河童がいたくらいだ。
何の役にも立たない河童が……。
「なんでそんなものを私達に?」
「夏目ちゃんの呪いと同じよ。私じゃ管理できないわ。あなた達ならどうにかできるでしょ」
夏目さんはどんなことを拝借様に伝えたのだろうか。
しかし、まぁ、これも呪いの品と同じだ。お兄様に渡せばいいだけのこと。
「分かったよ。預かるよ」
私は拝借様から箱を受け取る。神様とはいえ、人の髪の毛が入った箱を受け取るとちょっとどころか、かなり気持ち悪い。
「助かるわ。それでもう一つお願いがあるんだけど……」
「はい?」
拝借様のもう一つの願い。それはご飯を作って欲しいというものだった。
夏目さんから聞いていたのだろう。
なんだったらそれがメインというくらいだった。神云々の話よりも、こっちの方が楽しそうに拝借様はしていた。
その後、拝借様の誤解を村人に伝え、私とリエは事務所に帰った。
「帰ったよ〜。二人と一匹〜」
私とリエが扉を開けて事務所に入る。すると、リビングからただならぬ、怖いオーラが流れ込んできた。
私とリエは廊下を進み、リビングに向かうと、そこには二人と一匹の影が見える。
「師匠〜」
「タカオジさん……」
黒猫を睨む二人の人物。楓ちゃんと……見覚えのある少女の姿。赤い髪に服装からして女子高生だろう。だが、見覚えはあるのだが、名前も出てこないし、どこで会ったか思い出せない。
私とリエが廊下でポツンと立ち尽くしていると、黒猫が私たちの存在に気づき、声を上げた。
「帰ってきたか!! レイ、助けてくれ!!!!」




