第55話 『バーチャルデスゲーム』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第55話
『バーチャルデスゲーム』
リエが眠りにつき、私と黒猫は配信を見続ける。
配信で行われているのは鬼ごっこ風の脱出ゲーム。オンラインで多人数と対戦しており、ゲームをプレイしながらコメントを読み上げている。
「おいレイ。まだなのか?」
「まだ11時半よ。起きるのは0時丁度なんだから大人しく待ってなさいよ」
最初は興味がなく軽く見ていたが、気がつけば動画を真剣に見ていた。黒猫は配信を見ているだけでは暇なようで、膝の上で尻尾をフリフリして遊んでいる。
「むにゃむにゃ〜、もう食べられないです〜」
リエが寝言を呟きながら寝返りをする。マグカップの中の飲み物も無くなったので、そろそろリエに起きてもらい、お茶を用意してもらおうと画面から目を逸らした。その時だった。
黒猫が尻尾をタワシのように太くして叫び声を上げる。
「リエ、あれを見ろ!!!!」
「え!?」
私はテレビ画面に視点を戻す。テレビ画面にはさっきまでの配信画面とは違い、配信をしているキャラクターが画面の中央に移動し、背景が暗くなる。
「おいまだ時間じゃないんじゃ!?」
私は事務所の壁に立てかけてある時計をもう一度見る。よーく見直すと……。
「…………あ、止まってた」
「おぉい!? 急いでリエを起こせ!!」
「分かってるよ!」
私は黒猫を退かすとソファーへと向かい、リエの身体を揺らす。
「リエ、リエ!! 起きなさい!!」
「やっぱ……もうちょっとだけ…………」
「起きなさいよ!!!!」
どれだけ揺らしても起きない。このままでは例の現象の時に幽霊の仕業か確認できる人間がいない。
「俺がやる」
黒猫はテーブルを伝って私の頭の上に飛び乗る。そして堂々と座り込むと、
「俺だって楓ほどじゃないが多少霊感はあるんだ。任せろ」
「あんた……………………本当に大丈夫なんでしょうね?」
「任せろって言ってるだろ、文句言うんじゃない!!」
尻尾で肩をポンポン叩いてくる。リエも寝てるし、楓ちゃんは家。こうなったら……。
「やっておやりなさい、タカヒロ&ミーちゃん!!」
「命令すな!」
黒猫と共に配信画面に目線を戻す。しかし、配信画面を見た瞬間…………。
「え、なにここ…………」
目の前が光ったと思ったら、私と黒猫は見覚えのない空間にいた。
壁も床も白く特徴はなく、サッカー場よりも大きな空間に多くの人達がまばらに散らばっている。
「ねぇ、タカヒロさん。ここって?」
「俺に聞かれても知るかよ…………。だが、一つだけ分かることもある」
黒猫は身体を回転させて私の顔を動かす。見せてきたのは近くにいる人達。
統一感のない人達が並んでおり、寝巻きやスーツ姿の人など色んな人がいる。
「あれ、スマホでランランちゃんの配信を見てたはずなのに、なんで俺こんなところに……?」
「ぐふふ、ここはどこオ? 俺いつ電車から降りたっけ? 配信に夢中になりすぎた?」
そして皆、私達と同じように戸惑っており、ハッピーランランという配信者の名前を口ずさんでいる。
「これって……?」
「皆んな俺たちと同じで配信を見てたみたいだ。どうやら厄介なことに巻き込まれたようだぞ」
「もしかして幽霊の仕業?」
「幽霊ってより、もっとヤバいやつかもな」
私は黒猫の言うもっとヤバいとは何なのか聞こうとしたが、
「あの〜。そこの白髪の方……」
近くにいた高校生カップルに話しかけられ、黒猫は咄嗟に口を閉じて猫のフリを始める。
もう遅いんじゃないかと思ったが、
「なんですか? 私は猫とは喋ってませんよ……」
「え、猫と……? あ、いえ、そうじゃなくて……」
どうやらバレていないようだ。ボロを出しそうになった私のことを尻尾で猫が叩いてくる。
「お姉さんもハッピーランランさんの配信を見ててここに?」
「そうだけど……?」
カップルの二人は顔を見合うと頷き合う。
「やっぱりそういうことなのよ」
「ああ、絶対そうだ!!」
なにやら結論にたどり着いた様子の二人。私は腰を曲げて二人と同じ高さに目線を持ってくると、ニヤリと笑顔を見せた。
「なーにが分かったの?」
「お姉さん、怖いです」
カップルの二人は話し合いをした後、私達に教えてくれる。
「僕達、ハッピーランランさんファンでいつも配信を追っていたんです。でも、ある時から不思議なことが起きて……」
恐らくは加藤さんの言っていたホラー現象だろう。
「それで僕達なりに調べてたんですけど。きっとハッピーランランさんに恨みを持った人間が、ハッキングをして僕達に催眠をかけたんです。それで僕達を誘拐してここに……」
カップルは自信を持ってそう伝えてくる。そういうことも可能なのかもしれない。
私が信じそうになった時、黒猫が耳元で呟いた。
「違うな。催眠術の類ならバクのこともあるから、可能かもしれない。だが、誘拐なんて大袈裟なことをして騒ぎにならないはずがない。何よりリエもあの場に寝てたんだ」
「じゃあ、なんなのよ。私達はこうやって気づいたらここにいたのよ」
そう、どうやって移動したにしろ。私達はここにいるのだ。なんらかの方法で運ばれたのは確かなのだ。
「俺の霊感じゃどこまで信じるべきかは分からねぇが、この空間自体に霊力を感じる」
「さっき幽霊よりもっとヤバいやつって言ってなかった?」
「ああ、並の霊力じゃない。それが一つ……二つ…………いくつか感じるんだ」
黒猫は耳を立てて周囲を探るようにしているが、ハッキリとしたことは分からないのだろう。それ以上の情報は出さない。
「お姉さん? どうしたんですか?」
黒猫と話していると、コソコソしていることで疑問に思ったのか、カップルが不思議そうな顔をしている。
「いや、なんでもないのよ。ははは〜」
適当に誤魔化してやり過ごせたかなというところで、部屋全体に聞こえるように大音量で音楽が流れ出す。そして聞き覚えのある声が音楽と一緒に聞こえてきた。
「みんなぁ、元気かな〜」
明るい声でハキハキと……。その声の聞き覚えは私だけでなく、この空間にいる全員が聞き覚えがあるようだ。
「この声って!?」
「まさか、ランランちゃん!?」
そして分かりきった答えを示すため、部屋の壁が動き出すと、ステージが現れてそこに現実ではいないはずの人物が現れた。
「みんなのアイドル。ハッピーランランだよ〜!!」
それはピエロのコスプレをした女性の姿。そう、配信に映っていたキャラそのものだった。
彼女は舞台の上から私達に向けて笑顔で手を振った。
「ランランちゃんだ!! 本物のランランちゃんだ!! 嘘だろ!!」
「嘘だろ、俺たちに会いに画面の中から来てくれたのか!?」
会場がざわめき出す。当然だ、ここにいる全員が彼女を応援するファン達なのだから……。
興奮するファン達にランランは笑顔であることを伝える。
「皆んな〜違うよー! ランランがみんなの元に来たんじゃないよー!!!!」
ランランは大袈裟に身体を動かして言葉を伝える。身体を左右に振り、全てのファンを意識するように動かすと。
「みんながランランの元に来たんだよ……」
ランランは可愛い顔をしているが、私には一瞬ギョッとするような恐ろしい表情をしたように見えた。
「え、俺達がランランのところに?」
「もしかしてランランだけじゃなくて、もしや二次元嫁にも!!」
この状況で喜べる人が凄い。
しかし、全ての人たちが喜んでいるわけではない。それは一部の人たちであり、殆どのファン達は事情を聞こうとしたり、元の場所に戻りたがったりしている。
人々の声がかき消し合い、なにを言っているのか分からないような状況だ。そんな中、ランランのいるステージの後ろに画面が現れて、ランランの姿が映し出された。
そしてスピーカーから大音量で、ランランの声が再生される。
「皆んな、いろーんな言いたいことはあると思うの。でも、その前に私の話を聞いてほしいな!」
ランランの声が流れると、ガヤガヤしていた空気が一変し、皆口を閉じる。
「私ね。皆んなの愛を確かめたいの。君も、君も、そこの君も!! 私のことがだーいすきなのは知っているよ! でもね、私ってすっごく疑いやすい性格なの」
ランランはステージの上をあっちに来たりこっちに来たり、動きのある話し方を進める。
「だから私、皆んなが心配してくれると思って、あることをしたんだ」
すると、ステージの上にいるランランの首がありえない方向へと回転し始める。
あらゆる方向から悲鳴のような声が聞こえてくる。これを見たらトラウマになるだろう。
「レイ。お前は大丈夫なのか?」
「だって本物の幽霊うちにいるじゃない」
「それもそうだな」
ランランは首が逆さになった状態で会話を再開する。
「でも、まだまだ足りないの。皆んなの愛がもっと、もおおおぉぉぉぉおおおぉっと欲しいなぁ」
そう言った次の瞬間。ステージの後ろにある壁とモニターを突き破って何かが登場する。
それは五メートル以上ある巨大に、それに見合うサイズのナタを持った巨人。
「私のためになら死ぬ気になれるよね?」
ランランが笑顔で首を傾げる。それと同時に巨人は手を伸ばすとステージの前の方にいた一人の男性を摘んだ。
そして指で持ち上げてステージにいるランランの前に持ってくる。
「この人は私のプロデューサーさん、加藤さんって言うんだ〜」
ステージに上げられたのは、私達も知っている人物。加藤さんだった。
加藤さんは摘み上げられると、身体を震わせて何度も謝って怯えている。
「この人はね。皆んなが私のことを心配してくれてるのに、どこぞの霊能者に依頼しようとしたの」
巨人は加藤さんを摘み直すと、両肩を挟むように持つ。そしてジワジワと握る強さをキツくしていく。
痛みに耐えかねて目を瞑り、大きく悲鳴を上げる。その声が会場全体に広がっていく。
「私、皆んなの愛を感じてたいの。ファンの皆んなが本当に、私のことを愛してくれてるのか、私気になるなぁぁぁ〜」
ランランの悪魔のような笑顔が画面に映し出され、集められた人々はその映像を見て、ざわめき出す。
怖がるものや恐れるもの、負のイメージを感じるものたちが多い中。たまに
「あれがランランちゃんの真の姿。興奮しますなぁ」
危ない人もいた。
私は周りに見つからないように、ひっそりと黒猫に相談する。
「ねぇ、今言ってた霊能者ってもしかして……」
「俺たちのことだな。だが、まぁそれ以上に……」
黒猫は視線を巨人に移す。
「あれは悪霊だな」
「え!? 悪霊!!」
「なんだやっぱり人形やロボットだと思ってたのか? これだからお前はいつまで経っても……」
またガミガミ始まった黒猫。面倒くさいので無視して、ランランの話に戻る。
ランランは愛だなんだと言いながら、加藤さんを痛めつけると巨人に命令し、地面に叩きつけさせる。
痛みで苦しみ動けずにいる加藤さんを嘲笑うと、ランランはファン達に向けてこう告げた。
「私への愛が足りないとぉぉぉ」
巨人はナタを振り上げると、
「こうなっちゃう!!」
加藤さんに突き刺した。最初は陸に上げられた魚のように、暴れていた加藤さんだったが、ナタが突き刺さると完全に動きが止まった。
「ランランちゃん……」
私の近くで先ほど話しかけてきたカップル達が怯えて抱き合っている。
他のファン達も恐怖で倒れるものや動揺する人が出る中、ランランは配信の時と変わらない様子で事態を進める。
「ランランの視聴者参加型のゲームの時間だよ〜!!」
ランランが指パッチンすると、指からハートが出てきて空中を飛び、モニターに接触する。
するとモニターの映像が切り替わり、ルール説明の映像になった。
「ルールは簡単。この巨人ちゃんから捕まらないように逃げて、ハート、スペード、クローバー、ダイヤの旗を集めること、集めることができれば〜」
身体を縮こませてギューっと小さくなると、力を溜めて高くジャンプして大の字に飛ぶ。
「私への愛で元の世界に帰してあげる。でも、もし巨人に捕まったら……」
ジャンプを終えて着地したランランは、巨人に命令を出す。すると、ナタに加藤さんを突き刺したまま持ち上げて、ファン達に向かって加藤さんを投げ飛ばした。
肉塊は一部のファンにぶつかると、そのファン達の体を貫通し、多くの被害を出す。
「キャァァ!!!!」
悲鳴が響く中、ランランは目を輝かせると、
「愛が足りないとこうなっちゃう。でも、私信じてるから、皆んな私に愛があるって!!」




