第50話 『地下鉄の怪物』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第50話
『地下鉄の怪物』
○月×日。
奴らの巣に侵入してすでに三ヶ月が過ぎた。
探索隊のうち残ったのはアルファチームとベータチームだけだ。
○月×○日。
ついにアルファチームとの連絡も途絶えた。隊員の数名はネズミの声が聞こえるだけで、震えて動けなくなる。
○月××日。
奴らの鳴き声が聞こえる。すぐそこまで来ているのだろう。残った隊員と散り散りになり、私の弾薬は尽きた。もう地上に帰ることはできないだろう。
「レイさーーーーーん!!!! 見つけましたよー!!!」
「じゃあ、スイッチ入れて!!」
楓ちゃんがボタンを押すと地下通路の照明が手前から奥に順々に照らされていく。
「広いですね」
「もう先が見えないぞ」
一本道で続いていく道は、先が見えなくなるほど続いている。
依頼人である駅員は帽子を脱いで私達にお辞儀をした。
「では、私はこれで……。依頼お願いします」
「はい、お任せください!」
駅員は扉を開けて駅のホームの方へと戻った。
「じゃあ、いきましょうか」
明るくなった地下通路を私達は歩き始める。道幅は大人五人が並べるかな、くらいの広さだ。
そこまで広くない道で景色も変わらないため、一人だったらおかしくなりそうな空間だ。
「しかし、まさかこんなところで依頼をやることになるとはな」
頭の上にいる黒猫がやれやれといった表情で依頼について思い出す。
「そうね、地下鉄の駅員から依頼が来るなんて思ってもなかったよ」
今、私達がいるのは東京にある地下鉄の駅。駅員から使っていない通路から物音と不気味な声がするという理由で、幽霊の仕業だと依頼を受けた。
「しかし、本当に幽霊なんでしょうか〜?」
「ん〜、どうだろうね。通路で人影見たとか、女の人の鳴き声が聞こえたとか、そういう情報はあったけど。今のところどうなの?」
リエは私の横を飛びながら首を振って周囲を確認してみる。
「確かにオーブ的な幽霊はいますけど。楓さんレベルに霊感強くないと見えませんよ」
「いるにいるんだ……」
「いるって言っても小動物とかの霊ですよ。暗くて湿ってるから、住みつきやすいんでしょうね」
「その幽霊が原因ってこと?」
私が尋ねるとリエは首を横に振って否定した。
「違いますね。悪戯ができるほど霊力もないですよ」
しばらく通路を進むと、通路の先に鉄の扉がある。
「この先はどうするんですか?」
「この先は使われていない路線に出て入り組んでるって話よ。迷ったら危ないから入らないようにって話よ」
「あー、じゃあここで引き返しますか。今回は駅員の思い込みですね」
依頼を達成し、私達はそのことを報告するため来た道を引き返そうとする。身体を回転させ、一歩前に踏み込んだ。その時。
「アァァァ!! 助けてくれー!!」
背後から人の声が聞こえる。振り向くとそこは鉄の扉。その扉の奥から声が漏れてきた。
その声は一度きりであり、もう聞こえてくることはない。
「今のって…………」
「ああ、人の声だ。幽霊かもしれないがな」
「扉の奥から聞こえたよね」
私は扉に耳を当てて扉の向こうの様子を知ろうとする。しかし、声も物音も聞こえない。
悲鳴が聞こえ助けを求めていたため、扉を開けて助けに行きたい。しかし、向こうの様子が分からなければ下手に開けるのは危険かもしれない。
「私が見てきますよ」
リエが任せろとばかりに前に出る。
「大丈夫なの?」
「顔を出して覗くだけですよ。問題ないです」
リエが顔だけを扉に突っ込み、中の様子を確認する。首だけ突っ込んだ幽霊の背中を見つめ、かなりシュールな構図で返答を待つ。
見え終えたリエが顔を戻すと、向こうの様子を伝える。
「真っ暗で視界が悪かったですけど、何も見えませんでしたよ。幽霊らしい姿も……。
どうやら扉の向こうを見ても何も見えなかったようだ。気のせいだったのか、私は帰ろうとみんなに言おうとするが。
「うああぁぁぁぁ!!!!」
再び、扉の向こう側から声が聞こえてきた。今度はかなり遠くの場所だ。しかし、はっきりと聞こえてきた。
扉の向こうには何かがいる。
「どうするんだ、俺は嫌だぞ」
黒猫は早く引き返したそうに尻尾を振る。
「私もよ。暗いしネズミとか住み着いてそうだから行きたいないよ」
「迷ってもですしね。戻って駅員に報告した方がいいですね」
私と黒猫、リエが引き返すことで一致したが、それを無視して楓ちゃんが扉を開けた。
「待っててください!! 今助けに行きます!!」
そして暗闇の中へと走っていく。
「楓ちゃん!!」
「おい、止めるぞ!!」
地下の奥へと入っていった楓ちゃんを追いかけて、私達も扉の奥へ入る。
そこは地下鉄の路線であり、地面には線路が引かれている。
私は駅員から念のため渡されていた懐中電灯で足元を確認しながら、楓ちゃんを追いかける。使われていないためか、線路の上には石や瓦礫が散らばっており、走りずらい。
「なんで楓さんは突っ走るんですか」
「あいつは考えなしに突っ込むタイプだからな。リエ、お前は念のため周囲を警戒しとけ、幽霊がいるかもしれないからな」
「はい!」
線路の上をしばらく走ると、楓ちゃんが足を止める。
「はぁはぁ、やっと追いついた……」
私達は息を切らしながらもどうにか、楓ちゃんの元にたどり着くことができた。
楓ちゃんは線路の先を無言で見つめている。
「おい、楓。何やってるんだ、さっさと戻るぞ」
黒猫が説教するように楓ちゃんに声をかけると、楓ちゃんは震えた声で線路の先を指差した。
「あ、あれ……。見てください……」
私達は楓ちゃんが何を見たのか、確認するため懐中電灯で先を照らす。
ライトに照らされて赤い液体が見えてくる。
それを見て察した黒猫は、私の頭からリエの顔に飛びついてリエの視界を覆った。
「あぁ!! 何するんですか!!」
「お前は見なくて良い」
線路の上には真っ赤に染まった腕。指から肘までしか、そこには残ってなかったがどう見ても人間の腕だった。
黒猫よりも反応は遅れたが、私は楓ちゃんを後ろから抱きしめて震える声を安心させる。
そして身体を逸らして見えないようにさせた。
「なんなのよ、これ……」
「知るか。事故じゃないのか」
「でも、ここは使われてない地下鉄よ。事故なんて起こるの?」
「だから知るかよ。さっさと帰るぞ、嫌な予感がする」
私は来た道を戻るために身体を反転させる。しかし、動かしたタイミングで楓ちゃんが私から抜け出して、腕の方を向いた。
「楓ちゃん?」
動揺しているのかと思ったが、楓ちゃんは冷静に腕を観察するとあることを呟いた。
「事故じゃないです……。襲われてます」
「え?」
黒猫がリエの視界を覆っているのを確認してから、もう一度腕を照らす。最初に見た時は腕だけに注目してしまっていた。
しかし、腕のすぐそばにあるものが落ちていることに気がついた。
「銃?」
「きっとこれで何かと戦ったんです」
「そうなの?」
「僕はそう思います」
理由があるわけではなく、勘で言っているらしい。しかし、使われていない地下とはいえ、銃を持ち歩く人間がいるのはおかしい。
何かがあるのは間違いないのだろう。
だったら尚更だ。
「楓ちゃん、急いで! 早く戻るよ!!」
私は楓ちゃんの腕を引っ張ってきた道を引き返す。
走ることはしないが、無意識に早足になる。
早くこの場から立ち去りたい。その気持ちが強くなっていた。
「待て、止まれ!」
あと少しで扉にたどり着くというところで、リエに抱っこされている黒猫が叫んだ。
「どうしたの?」
「静かにしろ……。何かいる。そう、ミーちゃんが言ってるんだ」
猫であるミーちゃんが何かに気づいたようで、私達は足を止めた。そして慎重に通路の奥を照らす。
それは丁度、扉の前。そこにさっきまではなかった巨大な物体があった。
灰色で短い毛を持った軽自動車ほどの大きさのそれは、両手で何かを掴み、前歯で細かく切り刻む。
「なんですか、あれ……」
「巨大な、ネズミ……」
特大サイズのネズミは、両手で人間を鷲掴みにして捕食していた。
恐怖から手が震え、私は懐中電灯でネズミの顔を照らしてしまう。
それに反応し、ネズミは首をひねっとこちらを見た。
「…………」
ネズミがこちらを見つめ、私達は石のように固まった。動かなければ見逃してくれるかもしれない。そんな期待をしてだ。
ネズミは持っていた死体を投げ捨てると、姿勢を低くしてこちらに身体を向けた。
それはまるで獲物を狙うような…………。
「逃げろォォ!!!!」
黒猫が叫び、私達は百八十度身体を動かし、ネズミのいない方向へと走り出した。
「追ってきてるの!?」
私は振り返るのが怖くて、リエに抱き抱えられている黒猫に後ろの確認をお願いする。
「追ってきてるぞ!! もっと、もっと早く走るんだ!!」
真っ暗闇の中を必死に走る。楓ちゃんは本気で走れば前を走れるはずなのに、私達を守るために一番後ろを走ってくれている。
「リエちゃん、あれって悪霊? 僕にはそうは見えないけど」
「はぁはぁ、悪霊ぽくはないです!! というか、幽霊でもないです!!」
除霊の依頼で来たはずなのに、幽霊よりももっと得体の知れないものに追われることになるなんて、誰が予想したか。
「何か方法はないか、このままじゃ追いつかれるぞ!!」
リエに運んでもらっている黒猫は、後ろの様子を見てそんなことを言う。
一人だけ走っていないのだから、お前が作戦を考えろ! と言いたいところだが……。
「思いついた!!」
「なに! どんな作戦だ!!」
「あんた猫でしょ、あんなネズミやっつけちゃいなさい!!」
「無茶言うな!! サイズが違うわ!!!!」
このまま逃げ続けていてもいつかは捕まってしまう。どうにか、どうにかしなければ!!
「…………面倒な奴らだ」
全速力で走っているといつの間にか線路の前方に人影が現れる。
スラットした長身の身体に、片手には採掘用のピッケルを持っている。
ネズミから逃げる私達はその男性とすれ違う。男性はすれ違い様に私に四角い何かのついたネックレスを投げ渡した。
「このまま走れ、そうすれば奴らの基地がある」
この男性が何者なのか。何をするつもりなのか分からないが、私達はとにかく走る。
振り向くことをせず、走り続けていると後ろから叫び声が聞こえてきた。
後ろを見ていた黒猫が後ろの光景を見て呟く。
「戦ってやがる……」
「え!?」
「……止まるな。勝つとは限らない……。だけど、なんて奴だ、あの化け物と渡り合ってる……」
振り返ることはできなかった。黒猫の言葉も理解する暇もなく走り続け、この時はまだネズミが後ろにいると思っていた。
しばらく走り続けて、黒猫が止める。
「もう追ってきてない。走らなくて大丈夫だ」
「……え!! あ、本当だ」
足を止めて息を整える。どれくらい走っただろう。もう今いる場所がどこなのか分からない。
「リエ、放してくれ」
「はい」
黒猫はリエの肩に登ると、呼吸を乱して腰を曲げ、膝に手を置いている私の頭に飛び移る。
「はぁはぁ、なんで、今……はぁはぁ、乗るのよ……」
「ちょっと気になるものがあってな。お前、すれ違った時に何か渡されてたよな」
「あ、これのこと?」
私は握りしめて湿っているネックレスを、懐中電灯で照らす。
「なんだこれ、四角い部分になんか書いてあるな」
そこにはアルファベットで文字が彫られている。
「これって…………」
ネックレスを見て、これがなんなのか分かりかけた時。私達を強い光が照らした。
「そこに誰がいるのか!!!!」
眩しく腕で目元を隠す。はっきりとは見えないが、数人の集団がライトでこちらを照らして向かってきている。
「中佐!! 一般人二名を発見しました!!」
ライトで照らしてきた集団は私達にライトを向けて囲むと、私と楓ちゃんの腕を後ろで組ませて拘束する。
そしてその中から中佐と呼ばれた人物が私達の前に出る。
癖のある髪の毛を後ろで纏めている黒人女性。女性は鋭い眼差しで私達のことを睨みつけた。
「なぜ、一般人がここにいる!! 何者だ、お前達」




