第44話 『猛獣と野望』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第44話
『猛獣と野望』
「アンタは生き残るんだよ」
一面を覆う雪景色。黒い毛皮を被った二匹の猛獣がそこにはいた。
「嫌だよ!! なんで置いていくんだ!!」
子熊が親熊に抱きつく。しかし、親熊は子熊を引き剥がし、遠ざける。
親熊は子熊を置いて走り出す。
雪の降る森の中を駆けていく。
「待って!! 置いてかないで!!」
子熊は必死に親熊を追いかけた。背中を置い、小さな身体を振って必死に追いかける。
だが、徐々に距離が離れていき、やがて親熊を見失った。
親熊とハグれてすぐ、森の奥から銃声が響いた。
子熊は音の聞こえた場所へと向かう。やがて火薬と血の匂いが漂う。
辿り着いたのは一軒の民家。
そして民家の前には倒れた親熊の姿があった。
民家の中から男達の声が聞こえる。
「今日の獲物は自分からやってきやがった」
「しかし、今日は何匹目だ? そんなに仕留めてどうする?」
「遊びよ遊び! どうせいくらでもいるんだ。何匹減ろうがどうってことねぇべ」
人を襲うピアノ。ロープを使い動きを封じた。
「ねぇ、リエ。やっぱり対話はできないの?」
「向こうに出てくる気がないと無理ですよ」
「そっかぁ」
ピアノを捕らえることには成功したが、ピアノに取り憑く幽霊を引き出すことができない。
私達はどうにか方法はないかと悩んでいると、
「ん、待ってください!! 幽霊が出てきます!!」
リエがピアノの方を見る。すると、さっきまで動こうと必死だったピアノの動きが止まり、ピアノから湯気の様に半透明のものが浮かび出てくる。
「これって……」
「そういう幽霊もいるのかよ」
私達が驚く中、ピアノに取り憑いていた幽霊が姿を現した。
それは黒い毛皮で覆われて、鋭い牙と爪を持った猛獣。身長は三メートル近く、太い腕を持つ。
「ねぇ、レイさん、これって大きめの猫ですか?」
「熊よ!! どう見ても熊でしょ!!」
「あ、熊ですか」
私達の前に現れたのは幽霊となった熊。熊は唸り声を上げ、私達に突進をしてくる。
私達は逃げようとするが、熊のスピードには敵わない。
熊の身体が私達に触れる。しかし、熊の身体は私たちを通り抜けて、触れることはなかった。
「び、ビビった〜」
幽霊である熊は私達に触れることはできない様で、私達はホッとする。
熊は一応試してみただけで、攻撃が当たるとは思っていなかった様で、私達から一定の距離を取り威嚇を続ける。
「リエ、動物の幽霊っているものなの?」
私はリエに尋ねる。
「はい。彼らだって生き物です。未練があれば幽霊になります」
「でも、今まで出会ってきた幽霊って大抵人間じゃない?」
「思考能力が高い動物であればあるほど、未練が残りやすいんです。だから人間の幽霊は多いです」
「そういうこと。じゃあ、この幽霊も悩みがあってこの世に残ってるのね」
幽霊が姿を現したが、相手が熊ではコミュニケーションを取ることができない。
この熊の幽霊がどうして現世に残っているのか。それを聞くことができない。
何か方法はないかと考えていると、黒猫が熊には向かって鳴いた。
それは挨拶をするように短い一言。しかし、それを聞いて熊は驚いた様子で唸り声を上げて返事をする。
「まさか、あんた動物と会話ができるの?」
すると黒猫はおっさんの声で答えた。
「俺じゃねぇ、ミーちゃんがだ!」
「どっちにしろ、凄いじゃない! これなら意思の疎通ができるよ!」
私とリエは黒猫が熊とコミュニケーションを取れることに喜んで二人で喜びのダンスを踊る。
私達が踊る中、黒猫は熊と会話を進め、話を進めていく。
そして会話を終えた黒猫が、深刻な声で伝えてきた。
「事情が分かったぞ」
「どんな理由ですか?」
「人に強い恨みを持っている……」
「え……」
私とリエはダンスの途中で動きを止めた。
「恨み?」
「どうやら人間に家族を撃ち殺されたらしい。しかも狩りではなく遊びでだ」
黒猫が熊から聞いた話。それは生前に住んでいた山で、人間達の間で熊狩りが流行り、その影響で仲間達は狩り尽くされたらしい。
しかし、狩りを行い、食とするのなら食物連鎖として熊も許した。だが、ある集団は度胸試しや腕試しのためだけに、仲間を狩る人間がいたらしい。
「こいつは人を襲ったことで、人間にマークされ駆除されたんだとよ」
「じゃあ、人間に復讐をしたくてこの世に残ってるってこと?」
「ミーちゃんが聞いた話だとそういうことらしいぞ」
ミーちゃんのおかげで熊の状況は分かった。しかし、人間への恨みとなるとどうしたら良いか、分からない。
「ねぇ、リエ」
私はリエの肩を叩き、耳元で話す。
「未練が無くなればあの世に行くのよね。じゃあ、人間を襲わせればいいっことなの?」
「何怖いこと言ってるんですか……」
「いや、やらないよ。でも、それしか方法はないのかなってさ」
「あるにはありますよ。未練が無くなれば良いんです。人間への恨みの感情が無くなれば、この世に留まる理由は無くなるはずです」
「その手があるのね!!」
私は作戦を思いつくと、黒猫に翻訳をお願いする。そして熊の前に立った。
「人間が憎い気持ちはわかるよ。でも、ずっとそうしていても仲間だって寂しいはずよ」
私は熊に手を伸ばす。
「私達人間を信じて。あなたの復讐を誰も望んでないのよ」
昼の出来事が頭をよぎるが良いだろう。
私は言い切った感を出すが、熊はそっぽを向いた。
「なんでそっぽを向くのよ!」
「なになに……お前は特に胡散臭い、そこの猫に取り憑いてる人間の次に胡散臭い…………って、それ俺のことか!?」
「タカヒロさんが胡散臭いの分かるけど、なんで私もなのよ!!」
「おい!!」
熊の言葉が引き金で私と黒猫が喧嘩を始める。引っ掻き、髭を引っ張り、私達が戦い合う中、リエがため息を吐いた。
「熊さん。あなた、わざとやりましたね」
リエが喋りかけると熊はそっぽを向く。なんとなく言葉の意味を理解したのだろう。
「恨みがあるって話でしたけど、本当はそこまで人を嫌ってないんじゃないですか?」
熊はそっぽを向き続ける。
リエが説得を試みる中、扉が勢いよく開く。
「戻ってきましたぁ!! ……ってあれ? どういう状況ですか?」
戻ってきた楓ちゃんが現状を理解できずに困惑している。
「あ、楓さん!!」
リエが楓ちゃんが戻ってきたことに気づき、楓ちゃんの方を見る。楓ちゃんもリエに状況を聞こうと見る。
すると、リエの後ろに三メートル近い熊が唸り声を上げて居座っていた。
楓ちゃんは走り出すと、リエに叫ぶ。
「リエちゃん、しゃがんで!!」
「え?」
リエが言われた通り姿勢を低くする。楓ちゃんはリエの頭上を飛び越えて、熊に蹴りを喰らわした。
「グォォォァァッ!!」
「熊ァァァァ!!」
熊は痛そうな悲鳴を出しながら吹っ飛んでいき、地面を転がる。
楓ちゃんは熊を蹴り飛ばした後、見下ろして人差し指を向けた。
「僕の友達に手出しはさせない!!」
「楓さん、やりすぎです!! それにこの熊さん、襲えないので襲う気なかったですよ!!」
「え?」
リエは楓ちゃんに状況説明を始める。私と黒猫は楓ちゃんの行動で熊への同情で、喧嘩する気がなくなり静かに待つ。
「そういうことか。いやぁ、ごめんクマ」
「語尾みたいになってます」
楓ちゃんは頭に手を乗せて適当な感じで謝る。熊は結構なダメージだったのか、グダっと身体の力を抜いて寝そべっている。
「それで熊は復讐した後何がしたいクマ?」
「楓さん、その語尾みたいなものハマってるんですか?」
熊はそっぽを向くと、何か唸り声を上げた。しかし、動物の鳴き声だ。聞き取れるはずもない。
私は黒猫を連れて二人の元に行く。
「俺がミーちゃんに頼んで翻訳しよう」
熊と話した黒猫は熊の言葉を翻訳する。
「恨んでいたのは、事実だとよ」
それを聞き、リエは確信する。
「やっぱり目的が変わったんですね!」
「どういうこと? リエ」
私が聞くとリエは答える。
「幽霊になるには現世に強い未練があり、霊力を一定数持っているかというのが条件です。他にもいくつかありますが、重要なのはそこです」
「そうね。熊は人への恨みよね」
「はい! でも、恨みよりも強い未練が現れると上書きされるんです。つまり死後にできた未練です」
黒猫が熊に確認を取ると、リエの推測で正解のようだ。
「でも、未練が変わったって。一体どんな?」
「それの理由はこれなんでしょうね」
リエはそう言って部屋に置かれたピアノに目線を映す。
「唯一その熊さんが取り憑くことができた物。これに関する未練ってことですね?」
リエが答えを聞くように熊の顔を見る。目線の動きで何を言っているのか分かったのだろう。
熊はゆっくりと頷いた。
リエは熊の前に立つ。熊と並ぶと小さいリエの身体は、普段よりも小さく感じる。
楓ちゃんはリエを心配に見つめているが、私と黒猫はリエを信じて行かせる。
「聞かせてください。あなたの未練を」
リエは熊の前に立つと笑顔を見せる。
熊は顔から視線を逸らすが、熊が視線を逸らしている間、リエは何も言わず、そのまま待つ。
痺れを切らした熊が視線を戻して、リエの顔を見た時。リエは口を開いた。
「私達は幽霊の助ける仕事をしてるんです。私達を信じてください。さっきレイさんも言ってたじゃないですか、人間を信じてくださいって」
黒猫がリエの言ったことを翻訳して熊に伝える。すると、熊は観念したようにお尻を地面につけて胡座で座った。
そして黒猫に何かを伝える。
「なんで言ったの?」
「分かったってよ。さっきの奴や猫の人間よりは信用できそうだってよ……」
黒猫が熊の言葉を翻訳する。そして熊の言葉に引っ掛かりを感じた私とタカヒロさんは叫んだ。
「「誰が信用できないって!!」」
熊が幽霊になってから数十年が経ち、街が栄えて人々の生活は豊かになっていった。
幽霊となった熊は事あるごとに憎しみを晴らすように、人々に恐怖を与えてきた。
だが、ある時、音を聞いた。
それは心の安らぐメロディ。悲鳴しか聞いて来なかった熊にとって、初めて聞く曲は全てが浄化されるような気持ちだった。
気がつけば、どれだけ人々を苦しめようと、熊の心は満たされることはなく。
ただもう一度、あの曲を聴きたいという思いだけが残っていた。
そんな時に聞いた。思い出の曲、それがこの家から流れてきていた。
「人間を襲っていたのは、ある意味のSOSだったのね。人を襲っても成仏できない。しかし、この家であれ以降その曲が流れない」
「未練が変わって戻っているかも……その気持ちと、自分の存在を知らせて助けを求めていたみたいです」
押入れの中に身体を突っ込み、いくつかの楽譜を見つけてくる。
「この中に例の曲があるかもしれないのね……。でも、私はピアノは弾けないよ」
「僕も無理です」
私と楓ちゃんはピアノを弾くことができない。すると、リエが手を上げた。
「私できますよ」
「本当に!?」
「屋敷にいた頃、暇だったので練習したんです。あんまり上手くはないですが……。でも、私だけの力じゃピアノに触れられません」
「あ、そっか。じゃあ、どうしたら良いの?」
そうしてリエの提案で出来上がったピアノに触れられる方法。それは……。
「なんで私が椅子なのよ」
「高さが足りないですし、レイさんが私が押した場所を追って押してくれれば、鳴らせるはずです」
「すっごい面倒なことになってるんだけど……」
私が嫌そうな顔をしていると、楓ちゃんが楽譜を持ってピアノの前に置く。
「僕が楽譜を取り替えます! 任せてくださいね!!」
「レイ、頑張れよ」
楓ちゃんと黒猫に見守られながら、熊のために演奏を始めた。
一曲目、二曲目はハズレで熊の求めている曲ではなかった。だが、
「これだ!!」
三曲目を弾き始めると熊と話していた黒猫が叫んだ。
私とリエは思わず、弾くのを止める。
「この曲が熊の求めてた曲?」
「ああ、そうみたいだ。最後まで聴かせてやれ! そうすれば、未練がなくなるはずだ」
私とリエは共同作業で曲を奏でる。最初はなかなか上手く行かなかったが、徐々に慣れてきて上手く行き始める。
「もう少しで終わりです!!」
もうすぐ終わり。そこまで来た時だった。
私の膝の上に座るリエ。その髪の毛が私の鼻の中に入った。
「はっはっハックション!!!!」
私はくしゃみをしてしまい、最後に押すところを間違えてしまった。
しまった。そう思ったが……。
「え?」
熊の身体が透け出して、透明になり天へと登って行く。
「え、なんで……今ので良いの!?」
「もしかして最後まで聴いたことはなかったんじゃないですか……。だから勘違いしてこれが合っているものだと……」
私は熊に手を伸ばす。
「待って今のは違うの!! もう一回、もう一回聴かせるから帰ってきてェェ!!!!」
しかし、私の言葉を熊が理解できるわけもなく。そのまま消えてしまった。
私は両手で顔を覆う。
「もし天国へ行ったらあの熊に怒られる」
「お前は地獄だろ」
「あんたもよ」
除霊を終えた私達はそのまま解散して、翌日除霊が成功したことを依頼人に伝えた。
「ありがとうございます。それでどんな幽霊が?」
「そうですね。熊です」
「クマ……ですか」
依頼人には家族がおり、リエと同じくらいの大きさの女の子がそれを聞いて喜びだす。
「クマさん!! 可愛い!!」
「ええ、可愛かったよ。音楽が好きな熊さん」
私は昨日見つけた楽譜を娘さんに渡す。
「そうね。その熊さんが好きだった曲。練習して弾いてあげて、そしたら熊さんも喜ぶから」
「うん!! ……あれ、でも最後の部分、なんか変だよ」
「あ、それね。こっちの赤い方が熊さんが聴きたい曲だから。熊さんに聴かせる時はこっちね」
「分かったー!!」




