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第43話 『恐怖の肉食ピアノ』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第43話

『恐怖の肉食ピアノ』





 スーパーで買った冷凍の焼き鳥を電子レンジで温めて、昼ご飯として食べる。

 テレビを眺めて優雅なひと時を過ごしていたが、そこで事件が起きた。




「ちょっと待ってください」




 最後の一つになった焼き鳥を食べようとすると、リエが止めてくる。




「なによ?」




「レイさん何個食べました?」




「三つだけど」




「私も三つです……」




 リエに睨まれながら私は食べようと口に近づけるが、リエがまたしても止めてくる。




「待ってください!!」




「だからなによ」




「私子供ですよ。恵んでくれても良いんじゃないですか?」




「あんたいつも子供扱い嫌がるじゃない」




「ワタシ、ソレ、タベタイナ」




「カタゴトで言っても嫌よ」




 食べようとするたびに止めてくるため、ここは決着をつけないと落ち着いて食べられないと、私は皿の上に戻した。

 そしてリエに提案する。




「じゃあ、勝負しましょうよ」




「勝負ですか?」




「そう。私とリエでジャンケンするの。それで勝った方が食べられる。それで良い?」




「良いでしょう」




 勝負に乗ってきたリエ。私とリエは立ち上がると向かい合い、拳を向けあった。




「良い? 一回勝負よ」




「はい。早くやりましょう」




 さてジャンケンを始めようという時。私はリエにあることを伝えた。




「私、チョキ出すから。勝ちたいなら、グー出すことを勧めるよ」




 リエに揺さぶりをかける。そしてリエに言い返す暇を与えずに、




「ジャンケン、ポン!!」




 すぐさまジャンケンを始めた。




「え、え!!」




 動揺したリエが焦ってグーを出す。




「私の勝ちね」




 そのグーに対して私はパーを出していた。

 私の勝利である。




「レイさん!! ズルイです!!」




「騙される方が悪いのよ。人を信用しちゃダメなのよ〜」




 私は勝ち誇りながら焼き鳥を頬張る。リエはムッとした表情で皿を片付け始めた。




「おい」




 リエが皿を持って台所に行くと、窓際にいた黒猫が私のことを呼ぶ。




「なに?」




 焼き鳥を食べ終わり、その場で黒猫に尋ねるが黒猫は答えない。

 面倒くさいと思いながらも私は皿を片付けるついでに窓の方へと向かった。




 皿を持って黒猫のいる窓へ向かう。黒猫は視線で外を見るように促してくる。

 私は黒猫の指示に従って外を見ると、表の道路を見覚えのある少女が歩いていた。




 赤い髪に制服を着ている。女子高生だと思うがこの辺の制服ではない。




 誰だか思い出せないが、黒猫に聞いても答えてくれる気配がないため、私は一人で考え込む。




「レイさーん。牛乳どこですか? この前買ってた瓶のやつ〜」




 だが、思い出す前に私はリエに呼ばれ、諦めて台所に向かった。




「奥の方にあるでしょ」




「どこの奥ですか?」




「あー、右上?」









 時間が過ぎて夕方頃。




「お待たせしました〜!!」




 部活を終えた楓ちゃんが帰ってきた。




「あ、楓ちゃん。やっと来た」




 私達は着替えを終わらせて、いつでも出かけられる準備をしていた。

 その様子を見た楓ちゃんは不思議そうな顔をする。




「どこかに行くんですか?」




「依頼よ。楓ちゃんが帰ってくる1時間くらい前に依頼があったの、夜じゃないと出来ない依頼だったから楓ちゃんを待ってたのよ」




 事情を理解した楓ちゃんはバックを置き、必要最低限なものを持つと、早速私たちと共に事務所を出た。







 電車に揺られて二十分弱。私達は事務所から少し離れた街に来ていた。




「日も沈んで暗くなりましたね」




 街灯の辺りを頼りに住宅街を進む。黒猫を抱いたリエは空を見る。空には月が浮かんでいた。




 先頭を歩く楓ちゃんは後ろを向くと、後ろ歩きのまま私に聞いた。




「それで今回の依頼ってどんな依頼なんですか? 夜じゃないといけないらしいですし」




「依頼人はある家の主人よ。その家にはグランドピアノがあるらしいんだけど、21時になると動き出して人を襲うらしいの」




「ピアノが人を襲う……。そんなことあるんですか?」




 楓ちゃんは私に質問してくるが、私が分かるはずもない。私の状況を察したリエが、代わりに答えてくれた。




「おそらくはそのピアノに幽霊が取り憑いてるんです。人を襲っているということですから、かなり凶暴な幽霊のはずです」




 リエの言葉を聞いて私は唾を飲み込んだ。




「ね、ねぇ、凶暴ってことは、ヤバかったりする?」




「それは危険ですよ。悪霊化してないのは目的があるためですし、そのためならなんでもするかもですね」




 話を聞いていた黒猫は逃げ出したそうな顔をしているが、リエに抱きしめられているため逃げられない。

 私も同様で逃げたいが、ここで逃げるわけにもいかず、例のピアノのある家に向かった。




 しばらく歩き、私達は街の中では大きめの屋敷にたどり着いた。

 私は家主から借りた鍵を使い、中へと入る。




 楓ちゃんは家の中に誰もいないことを確認すると




「依頼人はどうしてるんですか?」




「娘さんと今夜は別の場所に泊まるらしいよ。私達も仕事しやすいからそれで構わないけどね」




 私達は早速、例のピアノのある部屋を目指す。中に入ると多くの楽器が置かれた専用部屋の中心にグランドピアノが置かれていた。




「あれか……」




 リエに抱かれていた黒猫はジャンプして降りると、私達にあることを提案する。




「動き出すかもしれないなら、縛っとくのはどうだ? そうすれば動けないだろうし」




「それもそうね。みんな手伝って」




 ロープを探してピアノを縛りつける。縛りつけ終えた私達は時間になるまで、家の中で待っていた。




「今何時ですか?」




 ふわふわ浮遊しているリエがピアノの上で私に尋ねる。私は腕時計を確認すると、




「8時ね。あと1時間で動き出すはずよ」




「まだ1時間前ですか」




 暇そうに空中を飛び回るリエ。

 私はピアノに触れるがまだ動き出す様子はない。普通のピアノだ。




「レイさん、リエちゃん。まだ時間あるみたいですし、僕コーヒー買ってきますね」




「うん。私のもお願い」




 楓ちゃんも暇だったのか。黒猫にちょっかいを出して遊んでいたが、立ち上がると近くのコンビニに買い出しに行った。




 楓ちゃんを見送り、私は扉の近くの壁に背をつけて座り込んだ。飛び回っているリエを見ていると、黒猫が近づいてくる。




「隣、良いか?」




 楓ちゃんから解放された黒猫は、私の隣に座った。

 隣でちょこんと座った黒猫だが、話しかけて隣に座ってきたというのに何も喋らない。




 普段なら何も言わずにやってくるから、何かあるのかと思っていた私はもどかしくなり、




「なによ?」




 目線は動かさず、リエだけを見ている。黒猫も同様だ。顔を合わせる様子はない。




「…………」




「何か言いなさいよ。用があるんでしょ」




「……なぁ、夢じゃないよな」




「何が?」




「今の状況が」




「ピアノが動くことについて?」




「そういうことじゃねえ!! …………こうしてまた、みん……………リエといることだよ」




 黒猫が何のことか説明を追加して、私は何の話か理解した。




「……夢じゃないよ。だっているじゃない」




「………………なぁ、レイ。お前は……」




 黒猫がそこまで言いかけたところで、突然ピアノが音を奏でる。




「なんだ!?」




「リエ、あなたが鳴らしたの?」




 私と黒猫は立ち上がり、空中を舞うリエに聞く。しかし、リエは首を振って否定した。




「いえ、違います」




「……ってことは」




 ピアノが演奏を始めると、メロディに合わせてグランドピアノの上にある屋根の部分がパカパカと動こうとする。




「突然動き出すなんてな。縛っといて正解だった」




「ええ、動こうとしてるみたいだけど、動けないみたいね」




 ピアノはロープで縛られており動くことができない。

 突然動き出して驚いたが、縛っておいて良かった。




「しかし、なぜ動き出したんだ。まだ時間には早いはずだろ?」




「そうよね。そのはずだけど……」




 私は腕時計を確認する。腕時計の時間は一時間前。さっき見た状態から全く動いてなかった。




「……止まってた」




「おい!! 何やってんだ!! ……ってことはもう9時ってことか!!」




「そういうことになるね」




 私達は三人でピアノを囲む。縛って動けないピアノだが、近づきすぎることはせず、一歩退いた位置で様子を見る。




「リエ、どうなの? やっぱり幽霊の仕業?」




 私はピアノを警戒しながらリエに聞く。するとリエは頷く。




「はい。霊力を感じます。でも、対話をさせてくれません。私の力では無理矢理引き摺り出すこともできませんし…………」




 そういえば、前にも似たようなことがあった。

 幽霊がいることは分かっているが、リエや私達の力ではその存在を認識することができない。




 あの時はテレビを使ったが、この場にはそれがない。当時の様にはできないだろう。




「どうにかする方法はないの?」




「そうですね。取り憑いてるものを破壊するという方法もありますが……」




「依頼人の所有物だから、それは無理ね」




 方法を相談していると、黒猫が何かに気づく。




「おい。あのピアノロープを破こうとしてるぞ!!」




「え!?」




「ほら、あそこ。角の部分を使ってロープを切断しようとしてる」




 黒猫に言われ、私とリエがピアノを見ると、ピアノの角の尖った部分をロープに擦り付け、ロープを切断しようと頑張っていた。




「で、でも大丈夫よね……。流石に切れたりなんか……」




 と言っていたら、プチンと切れた音がしてピアノを縛り付けていたロープが破けた。




「嘘でしょ!?」




 切られたわけではなく、ピアノが暴れた影響でロープが耐えられなかっただけだが、それでもピアノが自由になってしまった。




 ピアノは蓋の部分をパカパカさせると、そこを口の様にして噛み付く様に襲いかかってきた。




 ピアノは一番近くにいた黒猫に噛みつこうとする。多く蓋を開け、一口で噛み砕こうと飛びつく。




「おいおいおいおいおいおい!!!! ミーちゃんだけは見逃してくれぇぇ!!」




「タカヒロさん!!」




 黒猫の願いも届くはずはなく、ピアノが近づく。だが、私は真っ直ぐに黒猫の元に駆け寄り、黒猫をスライディングして抱きしめると、ギリギリのところでピアノから逃げた。




「大丈夫ですか? レイさん」




「大丈夫っていうか、大丈夫じゃないっていうか……」




 ピアノから逃げた私と黒猫はリエの元に合流する。




 私の胸の中で黒猫の鼓動と呼吸を感じる。凄く早くなっており、ビビっていたのが分かる。

 黒猫はそんな状態で私に向かって、




「おい、レイ。泣いてるのか?」




 私を顔を見て揶揄ってきた。




 あんな大きなものが襲ってくるんだ。怖くない方がおかしい。




「あんただって、鼓動が早くなってるじゃない!」




「……これは気のせいだ」




 私と黒猫はお互いに弱っている姿を見て、揶揄い合う。

 その後、黒猫は吹き出す様に笑い出した。




「なんで笑ってるのよ」




「お前の情けない姿を見て、おかしかっただけだ」




 黒猫はそう言って目を瞑ると深呼吸をする。そして私の腕を伝い、私の頭の上に乗った。




 黒猫が私の上に乗るのは久しぶりだ。

 あの夜以来だろうか。




「例は言わないぞ」




 黒猫はそう呟くと、私とリエに指示を出す。




「レイ、リエ。俺の言う通りに逃げろ。良いな」




 ピアノは大きな身体を動かして、こちらに正面を向ける。そしてまた噛みつこうと準備をしている。




 文句を言っている暇はない。




「分かったよ。言う通りにすれば良いんでしょ」




 ピアノが突っ込んでくる。大きく蓋を開けて噛みつこうとしてくる。




「右の柱まで走れ」




 ギリギリで黒猫が指示を出し、私達はそれに従って逃げる。




「ギリギリすぎるのよ。もっと早く言いなさいよ」




「そうじゃないと上手くいかないんだよ。そのまま引き付けて、向こうと柱まで走れ」




 黒猫に言われた通り、ピアノを連れて私達は部屋中を走り回る。




 部屋の中を何度も何度もクルクル周り、私は足が疲れてくる。




「そろそろ限界……」




 私がヘトヘトになってくると、黒猫はピアノの方向を見て




「頃合いだな」




 そう言ってピアノの方へと飛んだ。




「え!? タカヒロさん!! ミーちゃん!!」




「何してるんですか!!」




 私とリエは黒猫の行動についていけず、ただ黒猫を止めようと手を伸ばす。




 だが、黒猫がピアノの前に立ったというのにピアノは動けず、その場で蓋を上下させる。




「え、これって……」




「最初に結んだロープ。それがまだ絡まってたからな。最初に固定させるために柱に巻き付けてたのもあってすぐに出来た」




 ピアノの足にロープが絡まっており、それは部屋の左右にある柱に8の字に絡まり、ピアノの動きを制限していた。




「さてとこれで無事に捕獲できたな」







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