第42話 『再会記念日』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第42話
『再会記念日』
夕陽が赤く染まり、少し前まで鳴いていた虫が種類を変えて、季節の変わりを感じさせる。
私達は事務所の鍵を開けて、部屋を暗くすると各々で隠れる。
「そろそろ来るはずよ」
エレベーターが止まった音がして、足音が玄関に近づいてくる。
足音は玄関にたどり着くと、インターホンが鳴るが私達は出ずにそのまま待機する。
しばらくして不思議に思ったのか。ゆっくりと扉が開いた。
「師匠? レイさん?」
不安そうに楓ちゃんが入ってくる。部屋は暗く、人の気配はするが返事はない。
楓ちゃんは警戒しながらゆっくりと事務所を進んだ。
一歩、また一歩と進んでいき、リビングへと進む。
そしてリビングにたどり着いたところで、私達は一斉に飛び出した。
突然飛び出したことに驚いたのか、楓ちゃんは私に向かって掴み掛かり、私の腕を取り拘束すると押し倒した。
「誰だァァァ!!」
「いや、待って、私!! 楓ちゃん!! 私だよ!!」
事態を理解した黒猫はテーブルに飛び上がると、消灯のリモコンを触り部屋を明るくした。
部屋が明るくなるとやっと私であることに気づいた楓ちゃんが、驚いて私から離れる。
「レイさん!? ごめんなさい、私てっきり不審者かと……」
「私もごめんね。久しぶりに来るって聞いたから、驚かせようとしたんだけど、怖がらせちゃったみたいで」
私と楓ちゃんはお互いに謝り合う。そんな私達を見てリエが笑いながら
「も〜、だから普通に出迎えようって言ったんですよ。怖がらせちゃったら意味ないじゃないですか」
「リエだって賛成してたじゃん」
全員が落ち着きを取り戻してその場で笑う。しかし、ふと気づいた楓ちゃんがリエの姿を見て固まった。
「…………え、リエちゃん?」
「はい」
「…………え、ええええええででぇぇっ!?」
ソファーで楓ちゃんはリエの隣に座り、その存在を確かめるように身体を触る。
「本当に……霊体がある。霊力もリエちゃんのものだ……」
「偽物じゃないですから〜」
リエはやられるがまま楓ちゃんに身体を触られる。その様子を見ていた黒猫は不機嫌そうな顔で楓ちゃんに怒る。
「おい、あまり触んなよ。幽霊だが女の子だぞ」
「あ、ごめんね、リエちゃん」
楓ちゃんは黒猫に言われて、触るのをやめる。しかし、リエはあまり気にしていなかったのか、
「いえ、私は大丈夫ですよ。てか、私自身も霊体を認識できるので、生きてるって気がして良かったですし」
「生きてはないけどな……」
リエ達がそんな会話をしている最中に、私は冷蔵庫からお茶とチョコを持ってみんなの元に持ってきた。
「しかし、リエちゃんがいるなんてビックリしました。僕はてっきり……」
私はみんなにお茶を渡して楓ちゃんの言葉に返した。
「私もよ。あの夜、リエが帰ってきて夢から思ったんだから」
「俺もだ」
それは楓ちゃんがまだ入院していた頃。数日前のことだ。
夜中にインターホンが鳴り、私と黒猫はうとうとしながら玄関へ向かった。
念の為チェーンをつけて扉を開ける。すると、扉の隙間から見覚えのある白い着物がうっすら見えた。
「レイさん……ですか?」
「り、リエ!?」
「私達もリエは消えたものだと思ってたから、驚いたのよ」
私は壁に寄りかかり、一口サイズのチョコを口に含んで食べる。
口の中でコリコリと鳴る中、楓ちゃんはリエに気になっていたことを尋ねた。
「なんで現世にとどまれたの? 僕は確かに……その…………」
私と黒猫はすでに話を聞いているため、静かに待つ。リエはニッコリと目を細めて頬を上げる。
「はい。私は確かに消滅しました」
それを聞き、楓ちゃんの顔を青くなる。当時の光景を思い出したのもあっただろう。ショックを受けてそうな楓ちゃんに気付きながらも、リエは話を続けた。
「国木田さんと問答をしたところまでの記憶はハッキリしていて、そこから先はモヤがかかって思い出せないんです。その後、光に包まれたと思ったら、私の身体は粉々になって消えたんです」
二度目の私達は頷きながら、話を聞き流す。
「私の身体は消えて、真っ暗な世界に飲み込まれたと思ったんですけど、何かに引き上げられたと思ったら草原で寝てて、手紙が落ちてたんです」
知ってる知ってる。と思いながら聞いていたが、私の思考は一度止まる。そして
「…………手紙!? 待ってリエ、私それ聞いてないけど!!」
「俺もだぞ。ミーちゃんも初耳だって言ってる」
私と黒猫は動揺して騒ぎ出す。後半で突然初耳の情報が入ったのだ。
私達が驚く中、リエは冷静に
「あ、言い忘れてました」
「忘れないで!! 私達は草原で起きて、ここに来たってことしか聞いてないからね!!」
リエは懐から手紙を取り出した。
「実は私、この手紙を読むまでレイさんはいないと思ってたんです。国木田さんにそう言われましたから。でも、手紙のおかげでここに帰って来れたんです」
リエが取り出した手紙を私は手に取ると内容を読む。
そこには私達のことであろう。友人は生きていると書かれており、居場所に帰るように促されていた。
「誰からだったの?」
「分かりません。私が起きたら私の手元に落ちてたんです……」
その手紙を書いた人がリエをなんらかの方法で助けたのだろう。
一言でも感謝を伝えたいが、誰だか分からなければ言いに行くこともできない。
私はリエに手紙を返す。
「ま、その手紙の持ち主が分かったら感謝しないとね」
「はい!」
リエは手紙を大事そうにしまう。
「何よりリエちゃんが無事で良かったよ。またよろしくね。リエちゃん」
楓ちゃんがリエに手を伸ばして握手をする。二人が握手をしている様子を私は見守るが、黒猫はそっぽを向くと窓の方へ行き、何か独り言を呟いたが聞き取ることはできなかった。
リエと楓ちゃんは久しぶりに再開したため、近況報告などで盛り上がる。二人が話していると、インターホンが鳴った。
楓ちゃんが立ちあがろうとしたが、私は手を前に突き出して止める。
「良いよ、私が行ってくるから」
私は玄関の方に向かう。すでに扉の先から香ばしい香りが漂ってきて、何が来たのかは分かっていた。
扉を開けるとピザの箱を持ったスコーピオンがいた。
「ピザのお届けに来ました」
私は驚いて一瞬固まるが、すぐに状況を理解する。
「あ、バイト?」
「はい。アジトの資金の問題で……。っと、そうじゃなくて、こちら注文のピザです」
私はピザを受け取り、玄関に置いておいたお金を渡す。
「ピッタリですね。ありがとうございます。あ、後こちらもどうぞ」
スコーピオンはピザの箱をもう一箱渡す。
「え?」
「アゴリンちゃんから色々大変だったって聞きましたから。サービスです」
スコーピオンはお辞儀すると荷物を持って階段を降りていく。
なぜアゴリンさんからその情報が伝わったのだろう。
確か京子ちゃんとアゴリンさんは仲が良かったが、いつの間にスコーピオンとアゴリンさんが仲良くなったのか。
疑問に思いながらも聞くことできず、少しモヤモヤする。
しかし、行ってしまったものは仕方がないので、私はピザを持ってリビングに戻った。
「あ!! 良い匂いですね」
匂いに反応して楓ちゃんが立ち上がる。
テーブルにピザを置き、箱を広げる。二つピザがあるため、リエが不思議そうな顔をする。
「あれ、頼んだのって二個じゃなかったですか?」
「サービスだって」
「へぇ〜、気前の良い人がいるんですね」
リエに理由を話している中、楓ちゃんは台所に向かい、皿やコップを持ってきてくれた。
「ピザなんて久しぶりですよ。なんですか、今日は記念日かなんかですか?」
「ん〜、ま、そんな感じね。久しぶりにこうしてみんなで集まれた、再開記念日よ!!」
街外れの森林。執事服を着た男性は傷だらけの身体を引き摺っていた。
「悪霊のコントロール……。やはり難しいですね…………」
木を支えにしながら進むと、進行方向の先から金属が弾かれる音が聞こえ出す。
「……なんの音でしょうか」
何度も何度も弾かれる音。その音の方向へ進むと、森林の先にスーツ姿の男性がコインを弾いて遊んでいた。
「待っていたぜ。国木田 治」
「あなたは……何者ですか」
男性はコインを投げるのをやめると、懐から警察手帳を取り出した。
それを見た執事服の男性は急いで反対方向に逃げようとするが、逃げ場にはすでに金髪とパイナップルヘアが囲み、完全に包囲されていた。
「大人しく捕まりな。そうすれば手荒な真似はしない」
スーツの警官は執事に投降するように伝える。しかし、執事は疲労し切った身体を無理やり動かし、スーツの警官に襲いかかった。
拳を握りしめて殴りつけようとする。だが、拳は簡単に避けられて、両肩を掴まれると腹に膝蹴りを喰らった。
執事は腹を抑えて地面に蹲る。
「手荒なことをさせるなよ……」
警官はしゃがみ込むと、執事の髪を掴み上げて、目線を合わせる。
「それともここで拷問して欲しいか? ここならルールもないしな。お前が仲間の情報を吐くまで本庁じゃできないようなことをするのもできる」
警官は執事を睨みつける。そしてその目を見る。
意識を失いかけてピントの合わない瞳。しかし、まだ輝きを失っておらず、朦朧とする意識の中、執事があることを口にした。
「……私が……お嬢様を……………守るん……」
だが、そこまで口にするが、執事はエネルギーが尽きたように意識を失い、全身の力が抜ける。
意識を失ったことを確認し、スーツの警官は執事から手を離す。
そして手を叩きながら立ち上がった。
「こいつは病棟に連れてけ。それも警備の厳重な」
金髪とパイナップルヘアに命令し、二人は執事に手錠をかけて連行していく。
スーツの警官は連れて行かれる国木田を見送りながら、頭に手を置いてため息を吐いた。
「…………お嬢様……か。神楽坂家の娘のことだよな……伝えるべきか。…………これは切り札の使い方だな」




