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第37話 『人形使い』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第37話

『人形使い』





 石上がカメラのシャッターを押そうとした時、後ろから何者かがカメラを弾く。




「俺のカメラが!?」




 首から紐でぶら下げているため、カメラは弾かれただけで無事だったが、大事なカメラを叩かれたことを怒って石上が振り返る。




「え……」




 そこにいたのは木製の人形。コマ送りのようにカクカクと関節を動かし、三人の背後に一人で立っていた。




「楓君、これはどういうことだい……。人形が動いてるんだが……」




「僕に聞くな。君の情報能力なら分かるだろ」




 人形は大きく拳を振り上げると、三人に襲いかかってきた。




「分かるわけないだろぉぉぉぉ!!!!」




 石上は頭を抱え右へ、楓はリエを抱いて左へ逃げる。




 廊下の左右に逃げ込み、人形は中心で顔を回転させて混乱する。

 そんな人形を見て、腰を抜かし壁に背をつける石上は嬉しそうに微笑む。




「幽霊やら動く人形やら、これは記事にするしかない。そのためにも……」




 怯えた石上は震えながら壁を這って、近くの棚に飾ってあった花瓶を手に取った。




「俺は帰って記事を書く!!」




 そして木製の人形に投げつける。




 花瓶の当たった人形は首を回転させるのをやめて、石上の方に顔を向けると、顔に合わせるように体を回転させる。

 そして硬い動きで石上に近づいていく。




 両手を広げ人形が掴みかかる。だが、石上も対抗して人形の腕を掴み返した。

 お互いに取っ組み合う。しかし、人形の方が力が強いのか、石上は押され始める。




「今だ、楓君!!」




 人形を抑えた石上が合図して、楓が人形に跳び膝蹴りを喰らわせる。

 人形は首が取れて胴体と分離すると、廊下を転がり動かなくなった。




「幽霊を倒したぞ!!」




 嬉しそうに動かなくなった人形の写真を撮る石上。

 楓はそんな石上の襟を掴むと引っ張った。




「何するんだ、楓君」




「今はそんなことしてる場合じゃないだろ」




「はぁ、それもそうだね」




 撮り終えた石上と共に、楓達はリビングに入った。

 リビングでは先ほど通り、国木田がソファーに座っている。




「今度こそ答えてもらいます。ここで何をしてるんですか!」




 強い口調で尋ねる石上。国木田は振り返ることはないが、その場で口を開いた。




「私はある人の命令でここにいます」




「誰ですかそれは?」




「それは教えられません」




 質問をしながら石上は目線で、楓とリエに先に行くように促す。

 出入り口は見張られているが、石上が注意を引いているうちになるべく前に進めということだ。




 楓はそれを理解して頷くと、足音を立てないようにリビングを進む。




「答えられない? それは犯罪行為に加担していると考えて宜しいのですか?」




「それは君達の自由さ、警察に通報しても構わない」





 石上が時間を稼いでいるうちに楓達は、国木田の視線ギリギリの場所まで辿り着く。

 これ以上は国木田に見つかる。




 ここで石上は知っているある情報を取り出した。




「それは神楽坂家の方に伝えてもいいということですね」




「…………ああ」




 ほんの少し、返事が遅れる。




 その反応に瞬時に気づいた石上がここぞとばかりに攻める。




「あなたは神楽坂家に恩義があるはずです。これは神楽坂を裏切ることになるんじゃないんですか!!」




「違う!! 私は!!」




 興奮した国木田が立ち上がり、後ろを向く。




 振り返った国木田を光が照らす。フラッシュに目が眩み、国木田は目を細める。




「良い一枚、頂きました」




 目を開くとそこにはカメラを下げた男子学生のみ。




「二人は……」




 国木田が異変に気づくと、出入り口に向かう足音がロビーに響く。




 あと数メートル。楓が出入り口に手を伸ばすが、




「行かせるものですか」




 天井から木製の人形が降って来て、出入り口を塞いだ。




 楓は一体だけなら逃げ切れると、判断して進もうとする。しかし、




 ロビーにバタリバタリと木材が落ちる音が鳴る。




 その光景を見ていた石上が口を大きく開けて唇を振るわせた。




「嘘だろ……」




 ロビーを包む十五体の人形。




「楓さん、これは……」




「逃げ切れないね」




 人形に囲まれた楓は汗を服の裾で拭った。

 楓はリエの手を取って顔を見ると、確認をとった。




「リエちゃん、ちょっと無茶するけど大丈夫?」




「無茶……? 大丈夫か……な」




 リエの許可を貰った楓はリエをおんぶすると、屈伸をして石上に叫んだ。




「石上君、君も早く逃げた方が良い。これは予想以上にヤバそうだ!」




「言われなくてもそうするよ!!」




 石上は廊下の奥へと逃げていく。人形の数体が石上を追おうとしたが、国木田がそれを止めた。




 そして国木田の命令で全ての人形が、標的を定める。




「リエちゃんは絶対に渡さない」




 リエを背中に抱える楓を囲む人形。人形達はタイミングを見計らって同時に飛びかかって来た。




「来ました!!!!」




 楓は高くジャンプして人形の頭を足場して、次々と人形達を飛び越える。

 後ろになるリエは驚いて大きく口を開けて叫ぶ。




「ギャァアヤァァァァァァ!!!!」




 人形を飛び越え、方位を抜け出すと、人形の集団から距離を取った。

 リエと楓は嬉しそうにガッツポーズを取る。




 国木田はソファーに腰掛け直し、余裕の態度で伝えた。




「包囲を抜けて嬉しいのは分かりますが、出口から遠ざかってますよ」




「あ……」




 楓は言われてやっと気づく。人形から逃げるのに必死で、出口から遠ざかってしまっていたことに。




 それならと楓はロビーを見渡した。




「出口なら他にも……」




 ソファーで寛ぐ国木田は教えてくる。




「ないですよ。この収容所は出口は一つ。ここ以外には出れるところはありません」




 これが真実から分からない。しかし、下手に逃げて行き止まりで逃げ場を無くす方が危険だ。




 楓はリエを背負ったまま、この場でどうにか凌ぐ方法を考えようとする。

 しかし、考える暇も与えず、人形達が次々と襲いかかって来た。




 楓は身体能力の高さを生かして、襲いくる人形達から身を躱す。

 だが、楓の運動能力でも数の多さには敵わず。



「っぐ!?」




「楓さん!?」




 人形のパンチを顔に喰らい、楓はロビーを転がった。転がった衝撃でリエを放してしまい、リエと楓はバラバラになる。




 楓は立ち上がると、急いでリエの元に駆け寄ろうとするが、人形が二人の間に入り、合流の邪魔をして来た。




「退いてください」




 楓は一体の人形を蹴り飛ばすが、一体を倒しても意味はない。すぐに新しい人形が邪魔をしてくる。




 リエもドーム状のバリアを貼り、人形に近づかれないようにしようとするが、霊力が足りずにすぐにバリアが消えてしまう。




「やめてください! 放して!!」




 リエが捕まると、楓も囲まれて身動きが取れなくなり、人形に捕らえられてしまう。




 二人は両腕を人形に抑えられ、身動きが取れない状態でソファーの前へと連れて行かれた。




「リエちゃんを捕まえて、何をする気ですか!!」




 楓は暴れながら正面にいる執事に叫ぶ。暴れることで楓を抑える人形の力が強くなり、楓の腕に激痛が走る。




「うぐっ…………」




「やめてください!! 楓さんにそこまでする必要はないじゃないですか!!」




 隣にいるリエが止めるように言う。すると、国木田はリエの言葉に素直に従い、人形に力を緩めるように指示を出した。




 薄暗いロビーに隙間から月明かりが入って来て、ソファーの前を照らした。

 国木田の顔の半分が照らされて、ピエロのような見た目になる。




「どうやら私について幾つか調べがついているようですね。あのカメラマンの仕業でしょうか……しかし、まだ知らないことがある」




 国木田は姿勢を正し服を整えると、リエのなどを見る。




「君の友人、……白髪の女性と、スキンヘッドの方は始末しましたよ」




「え……」




「あなたが寝ている間に、捕らえ同じように監禁したのですよ。ここには当時使われていた道具も沢山ありましたから、苦労はしませんでした」




 リエは隣で人形に捕まっている楓のことを見る。

 楓も驚いた様子で目を見開いていた。




「楓さん……」




「……嘘……だよ。そんなこと……」




 そう思いたかった。だが、楓は石上から連絡を受け取ってすぐに事務所を出て、さっきここに到着した。

 その間、レイには一度も出会っていない。




「真実さ、それに……」




 国木田は人形にソファーの下に隠してあった刀を投げ渡す。

 受け取った人形は楓の前に行き、人形の四体がそれぞれ腕と足を掴み、そしてもう一体が楓の口を塞いだ。




 楓はバレようとするが、人形にガッチリと固められて動くことができない。

 リエは人形に捕まったまま、楓を心配する。




「楓さん!! 何をする気ですか、やめてください!!」




 楓の前にいる人形が刀を振り上げる。




「楓さん、逃げてください!!!!」




 叫び声がロビーに響き渡り、真紅の液体が飛び散る。

 楓の頬を液体が流れ、ロビーは水の滴る音だけが残った。




「楓……さん…………」




 リエはその光景を見ていることができず、視線を逸らす。

 月明かりに映る人形の影を追い、身体を震わせた。




「その子は奥の部屋に捨てておいてください」




 人形に連れられ、楓は廊下の奥に連れて行かれる。ロビーとは近い、明かりが入り込まない廊下に入ると、すぐに楓の姿は見えなくなった。




 楓が消え、国木田は立ち上がるとリエの元に近づく。そしてリエの頭の上に手を置き、笑顔で話しかけた。




「あなたの目的を教えてください」




 頭に置いた手から震えが伝わってくる。それは恐怖か悔しさか。

 だが、国木田が求めているのは、その感情ではない。




 震えた様子で幽霊は答える。




「私は漫画を…………描きたい」




 だが、国木田は笑顔で否定した。




「違いますよね。あなたの話は牢獄で聞きました……」








 この世に生を受け、長い年月を孤独に過ごした。




 生前の記憶は暴力。




 母は団子屋の娘だったが、借金に追われ売られ、私を産んだ。




 母は私が憎かったのだろう。私の顔を酷く嫌い、事あるごとに殴った。




 暗い部屋に閉じ込められ、空腹感が無くなった時。私の身体は透けていた。




 そこからは誰からも認知されず、時代の変化を感じながら、私は土地に縛られた。

 そんなある時に現れたのが、ある人だった。








「君のペンも折り、ノートも破いた。それでも君は砕けなかった」




 国木田はリエの髪を引っ張り上げて、幽霊の顔を見る。強制的に目線を上げさせられた幽霊は、見たくもない顔を見るしかなかった。




「君の望む事は…………」




 幽霊の身体から黒いモヤが漏れてくる。




「平和な日々。孤独を忘れる仲間との生活。それは今、この私によって奪われたのです」




 黒いモヤが溢れ出ると、幽霊の少女を包み込む。




「来ました!!」




 国木田は素早く後ろに下がり、人形に幽霊を放すように指示を出した。

 幽霊はその場に浮遊し、黒いモヤと融合する。そして繭のような黒い塊になった後、再び膨張し、大きく高く成長していく。

 成長した物体は天井を突き破り、天へと伸びる。




「この街に来て二回目の成功です。こうも早く成功するとは……」




 両手を広げ涙を流し、狂喜を露わにする。




 執事の前にはロビーの天井を突き破り、月を見上げる巨大な黒い女性が座っていた。

 胴体と腕が以上に長く、細い脚は身体を支えることができないようで地面にをお尻につけている。




 女性は長い腕を月に向かって伸ばす。しかし、月は遠く、どれだけ伸ばしてもその手が届く事はない。




 国木田は楓を運ばせて残った人形を、自身の周囲に集めると守るように包囲させる。

 そして胸ポケットから十字の付いたネックレスを取り出すと、それを女性に向けて掲げた。




「悪霊よ、私の命令に従うのです!!」




 呼ばれた悪霊が月を見上げるのをやめて、執事に顔を向ける。

 長い胴体を折り曲げて、国木田に顔を近づける。国木田は十字を悪霊に向け、悪霊を支配しようとする。しかし、




「…………」





 悪霊は長い手を天に突き上げ、執事に向けて振り下ろした。




「っ!!」




 悪霊の一撃で建物が揺れる。老朽化に悪霊の発生で壊れかけていたロビーの天井は崩れ落ち、見上げれば夜空が見えるほど、ぽっかりと穴が空いた。




「失敗ですか。この制御の仕方は本当にうまくいくのでしょうか……」




 振り下ろされた悪霊の手の下には瓦礫しかなく。ロビーの奥に頭から血を流し、人形に引き摺られた執事が立っている。




「仕方がありません。あのがしゃどくろのように反抗するのなら。諦めるしかありませんね」




 国木田は人形に指示を出し、撤退を試みる。しかし、出入りに瓦礫が投げ飛ばされて、出口を塞がれた。




 国木田が悪霊に視線をやると、瓦礫を投げたのは悪霊のようであった。




「逃がさないということですか。術師の私は良い餌ですしね……」




 人形を自身の周りに展開させ、身を固める。だが、相手は悪霊だ。この方法が通じるとは思えない。




 国木田は死を覚悟して悪霊と向かい合う。




「お嬢様……。私は先に御両親の元に」




 悪霊が手を振り下ろす。すると残っていた全ての人形が吹き飛ばされた。

 悪霊が手を伸ばし、抵抗のできない国木田を鷲掴みにする。




 悪霊は国木田を持ち上げると、顔の近くまで持ってきて目の前で国木田を凝視する。

 悪霊の目は虚で絵の具でぐちゃぐちゃに塗ったように纏まりがない。




「食べるなら食べなさい。私は身体は食べられても魂までは飲み込まれません」




 最後の覚悟を決める。もう助からない。




 だが、悪霊は国木田を食べることはせず、大きく振り上げると遠くに見える山に向けて国木田を投げ飛ばした。

 何キロあるのだろう。その距離を数秒で到達する。




 国木田が消え、悪霊はゆっくりと動き出す。足を引き摺りながら、建物から出ようとする。

 多くの人のエネルギーを感じ取り、それを吸収しようと、その身体を引き摺る。




 そんな悪霊に向け、建物の中かな叫んだ。




「リエちゃん!!!!」







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