第35話 『悪霊から逃げ切って』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第35話
『悪霊から逃げ切って』
コインが弾かれる。そのコインは巨大な骸骨の頭蓋骨を貫き、骸骨は地べたに倒れた。
コインを親指で弾きそれをキャッチして、それを繰り返しながら男性は骸骨の目の前に立つ。
「残念だったな……お前の夢は亡き妻の生まれ変わりを探すこと。しかし、それを叶える前に諦めちまったか」
コインを持った男性は懐から拳銃を取り出すと、骸骨の頭蓋骨に向けて二発撃ち込んだ。
弾丸を受けた骸骨は、黒いモヤとなり薄くなると、跡形もなく消滅した。
「……終わりましたね」
女性のような声をした金髪の男が、持ち場から離れて合流。それを追うようにパイナップルヘアの男性も屋上から飛び降りて合流した。
コインで遊ぶ男性は眉間に皺を寄せる。
「終わったか……俺はそうは思えないがな……」
男性の言葉を聞き、合流してきた二人も緊張感を持つ。
「やはりこの悪霊は人為的に引き起こされたものと考えてるんですか?」
金髪が聞くとコインの男性は頷く。
「十兵衛は心の弱い幽霊じゃない。人為的な何かがなければ、悪霊化なんて考えられるか……」
落ち着いた口調で喋るが、コインは普段よりも高く打ち上げられており、その手は震えていた。
「そうだ。ご飯食べましょ、まだ食べてなかったですよね」
近くにある牛丼屋に入り、三人は空いていたテーブル席に座る。
奥にコインを持った男性とパイナップルヘアが座り、向かいに金髪が座った。
注文を終えて三人は牛丼が完成するのを待つ。
その間、金髪がコインの男性に聞いた。
「さっき人為的な何かって言ってましたが、悪霊を作ることなんてできるんですか?」
金髪の疑問にコインをキャッチしてから答える。
「可能だ。だが、簡単なようで難しいことだ。幽霊だって意思を持ち成長する。その幽霊を化け物に変えるんだ、簡単にできるかよ……」
「なら、どうやって……?」
「さぁな。難しいが不可能ではない。それに俺は今朝の事件も今回の件と関係してると考えてる」
パイナップルヘアはおでこに指を当てて考えたのち。どの事件か思い出す。
「公園での殺人事件っすか」
「ああ、その事件だ」
それを聞いた金髪は難しい顔をする。
「確かに悪霊の居場所と事件現場は近いですが、関連性はありますかね?」
「遺体の損傷から短時間であそこまでできるのは、普通の人間じゃない。そうなると術師や不死者の可能性も考えられるが、海の件もそうだ。悪霊を操ろうとしてる奴らがいる。俺はそう目をつけている」
コインの男性はそこまで言った時。
「おー、なかなかやるじゃねーか」
コインの男性の背後から突然褒められる。三人は驚いて声の聞こえる方を向くと、そこにはコートを羽織った男が牛丼を片手に食事をしていた。
「月兎か。なぜ貴様がここに……」
「俺は飯を食っちゃいけねぇのか? ひどいなぁ、最近の人間は……」
月兎はご飯を口いっぱいに入れて、美味しそうに頬張る。美味しそうに食べる姿を見ていたパイナップルヘアが腹を空かせて唾を飲んだ。
コインの男性は月兎を睨みつけると、月兎に問いかけた。
「お前は何か知ってるのか?」
「いーや、知らない」
それを聞いたコインの男性は不機嫌になり嫌味を言う。
「役立たずが……。そういえば、あの狼に見つかったみたいじゃないか、俺たちの情報は正しかったか?」
「情報……? ああ、北方の軍事基地か。あそこはハズレだ。俺の部下を向かわせた時に遭遇してる」
「そっちに例の物があったか」
話しているうちに店員が牛丼を持ってきて、コインの男性は達のテーブルに注文の品を置く。
金髪とパイナップルヘアが箸を割って食べ始める中、コインの男性だけは手をつけず話を続ける。
「じゃあ、どこで見つかったんだ? 俺たちだってお前の居場所は見つけられないぞ」
月兎は最後の一口を食べ、それから答えた。
「偶然だよ」
「偶然?」
「運命ってやつなのか……。会う気がなかったわけではない。でも、俺からは会うつもりはなかったぜ。自身で突き止めて来るのを待っていたからな。だが、運命には逆らえない」
話を聞いていたコインの男性は呆れて箸を手に取ると、箸を割って食事を始めた。
月兎は空になったコップに水を注ぎ、一口で水を飲み切ると、
「話を戻そうか、お前の目のつけてる通り。悪霊を操ろうとしてる奴らがいるぜ」
背を向けてコインの男性に告げた。
「誰だ?」
「だぁかぁらぁ、知らないって言ってるだろ。俺は万能じゃねぇんだよ」
「お前の伝手なら分かるんじゃないのか?」
しつこく詰問される月兎が呆れながらも、前方にいる相席の男に尋ねる。
「分かるか?」
相席の男は大盛りの牛丼にチーズを乗せて、卵とキムチをトッピングしていた。
大盛りの牛丼を食べる手を止めると、
「そう言うのは専門の回線を使って欲しいんだけどなぁ。顔バレしたくないし……。ま、目星はついてるぜ」
「だとよ」
予想以上に情報を掴んでいそうな相席の男に、月兎は少し驚いた様子だ。
情報を何か掴んでいそうな男性に目をつけたコインの男性は、月兎に命令する。
「吐かせろ」
しかし、月兎は無言のまま動くことはしない。諦めたコインの男性は食べている途中の二人の部下に命令をした。
二人の部下は嫌そうにしながらも、逆らうことはせず。箸を置いて席を立つ。
そして奥にいる男性の元へと向かおうとしたが、月兎が横に腕を伸ばして止めた。
「そういうのは好きじゃない」
月兎が金髪とパイナップルヘアを睨みつけると、二人はその眼差しに恐怖を感じて、無意識に後ろに下がってしまう。
だが、恐怖に飲み込まれた二人とは違い。コインの男性は後ろにいる月兎に告げる。
「俺達は正義のために動いている。そのためなら拷問だってする。手を退けろ、月兎……。邪魔をするなら貴様でも容赦はしない」
月兎は大きくため息を吐いた後、席を立ち上がった。それに続いて相席の男性も食事を終えて立ち上がる。
二人が立ち上がったことで、金髪とパイナップルヘアは懐に手を入れて、いつでも武器を取り出せるように構えた。
月兎は椅子をテーブルにしまいながら、コインの部下に伝える。
「そう身構えるな。やる気はないからよ」
そして月兎とその付き添いは、金髪とパイナップルヘアの合間を通り、レジで会計を済ませる。
店員は怯えながらも騒ぎ立てることはなく。他の客も静かにことを見守っている。
会計を終えた月兎は店の扉を開けると、最後に振り向き、
「悪いことでもやるっていう厨二宣言するならよ。情報屋にでも連絡取れよ」
連れの男に肘で突かれながら出て行った。
金髪の男性はコインの男性に確認をする。
「どうします。追いますか?」
男性はコインを飛ばして手の甲でキャッチすると手で見えないように隠す。そして金髪に尋ねた。
「裏か表か、どっちだ?」
悪霊から逃げ切った私とリエ、そして執事はベンチで休んでいた。
「なんで、悪霊に追われてるんですか?」
私が尋ねると執事は答える。
「悪霊は性質上、力を持った人間、または多い場所に寄せ付けられます。なぜか、悪霊が存在を保つために必要なエネルギーだからです」
執事の説明を聞いたリエはあることを聞いた。
リエの姿は執事には見えているようで、霊感のある人物らしい。
「じゃあ、あなたは力を持った人間ってことですか?」
「ま、そんなところです。役に立たない貧弱な力ですけどね」
そう答えた執事は立ち上がると、ベンチにつけていたお尻を軽く叩く。
「しかし、まぁ、人間とお友達の幽霊ですか。……少し酷なことになりますね」
執事は私達に背を向けたまま、そう呟いた。それとほぼ同時に、雲に隠れていた夕陽が赤い光を放ちながら執事を照らした。
真っ赤に染まった執事は首を曲げて顔を向けた。そして目を細めてニコリと笑う。
「申し訳ありませんが、あなた方を引き剥がさせてもらいますよ」
「え?」
私とリエが突然の発言に戸惑う中、後ろから木製のものが擦れてぶつかる音が鳴る。
私とリエが振り向くと、そこには人間サイズの木製の人形が二対、背後に立っていた。
「なにこれ……」
背後に現れた人形は私とリエのことを掴むと、私をベンチに押し付けて、リエを掴み上げる。
「何するんですか! やめてください!!」
リエは抵抗して暴れるが、木製の人形を殴ってもびくともしない。
私もベンチに倒れさせられて、身体を人形に押し付けられて、身動きが取れなくなる。
「リエ!!」
「レイさん!!」
私とリエはお互いのことを心配し合い、名前を呼び合い無事を確認する。
しかし、私は押さえてけられて、リエの姿は見えず声だけでしか、存在を確認できない。
「あなた、なんのつもりなの!! 警察呼ぶから!!」
私が執事に叫ぶと、執事はネクタイの位置を整えて姿勢を正す。
「警察ですか。幽霊を攫われた、そう通報なさるつもりですか。そんな通報イタズラ扱いですよ、それにもし警察が動いたとしても私は捕まりません」
執事は頬を上げて不気味な笑顔を作った。
「なぜなら私は警察に追われても、捕まってませんから」
この時、私はやっと思い出した。
出かける前に黒猫と話しているときに出た話題。
『犯人の見た目は30代前半の男で、長身の執事……。』
近くの公園で起きた殺人事件。その犯人の容姿。
この執事はその情報に一致していた。
「あなた……まさか」
私は執事と新聞に載っていた人物が同一人物ではないかと気づく。
しかし、気付いたところで動くことはできず、騒ぎ見守ることしかできない。
「その幽霊をこっちに連れて来なさい」
執事は人形に命令してリエを近くまで運ばせる。そしてリエの顎を指で持ち上げて、顔を確認した。
「可愛い嬢ちゃんですね。しかし、これもあの人の命令、そしてお嬢様のためです」
執事はポケットの中からUSBのような小さな箱を取り出すと、その先端をリエの首元に刺した。
「なん、……ですか……これ…………」
刺されたリエは力を失いぐったりとして、人形に支えられた。
「リエに何をしたの!!」
「大丈夫。今は眠らせただけです。目の前でやるのは酷ですからね。私だって失う気持ちは分かります」
執事はそう言うと、人形にリエを担がせてこの場から去ろうとする。
私は人形に押さえつけられているが、暴れてどうにか抜け出そうとする。
「リエ!! 起きてリエ!!」
しかし、私は抜け出すことはできず。名前を呼んでもリエの返事は聞こえない。
「リエぇ!!!!」
足音が離れていく中、突然私を押さえ付ける人形がいなくなり、私は身動きが取れるようになる。
「おい、何やってんだ、テメェ……」
自由になった私は何が起きたのか確認するため、見上げて人形のいた場所を確認する。
そこには人形を蹴り飛ばし、ベンチの背もたれにうんこ座りをするスキンヘッドの男がいた。
「スキンヘッドォォォォォ!!!!」
私は鼻声で涙を流しながら、現れた救世主の名前を叫ぶ。
「スキンヘッドは名前じゃねーよ!! …………っと、ふざけてる場合じゃないよな」
スキンヘッドは背もたれからジャンプして飛び降りると、地面に転がる人形の首関節のところに着地し、胴体と首を踏みつけて切断する。
「霊感の弱い俺にはモヤしか見ねぇが……やばい状況ってことは分かった」
スキンヘッドは私に手を伸ばし、私の腕を掴むとベンチで寝っ転がる私を立ち上がらせる。
「さてと、霊宮寺さん。ここであんたに質問だ。あの人形が抱えてるモヤ、あれは姉さんが言ってたあんたの友達で間違いねぇな」
「ええ、でもなんで……」
「兄貴の恩人が困ってんだ。放っておくことはできねぇよ」
スキンヘッドは右拳を左拳で包み込んで骨を鳴らす。
「おい、そこの執事。その幽霊を放せ。今放すならぶん殴るだけで許してやる」
鋭い眼差しで睨むスキンヘッド。そんな怖い顔で睨まれたら、私なら怯えて動けなくなる。
しかし、そんな目線を向けられても、執事は冷静にこちらに身体を向けた。
「私に勝てるおつもりで?」
「はぁ? お前こそ俺にッ…………!?」
突然横から殴られたスキンヘッドはよろめく。しかし、スキンヘッドはすぐに体勢を立て直すと、口から出る血を腕で拭って殴って来た相手を睨む。
「まだいるのかよ……」
そこには木製の人形が五体ほど並んでいた。
スキンヘッドは私を守るように立ち、背を向けて告げる。
「霊宮寺さんは俺の後ろに……」
人形が一斉に襲いかかってくる。スキンヘッドは襲いくる人形を殴り飛ばすが、相手は人形。殴ってもダメージはなく、すぐに立ち上がってくる。
「なんなんだ、この人形……なんで動くんだよ……」
五体の人形を同時に相手していたスキンヘッドだが、流石に押され始める。
そんなスキンヘッドの様子を見て、執事はやれやれといった表情をし、
「では、私はこれで……」
そう言って深く礼をした後、背を向けて去ろうとする。
「霊宮寺さん、ここは……っぐ!? ……さきに!? ……っ!!」
殴られながらもスキンヘッドは五体の人形を止めて、先に行くように促す。
私はスキンヘッドに感謝しながら、執事を追う。
「リエぇぇ!!!!」
頭に強い衝撃を受ける。深く痺れるような感覚。視界が歪み、身体の力が抜けた私は地面へと倒れていく。
「霊宮寺さん!! まだいるのか、何体いるんだ!!!!」
遠くからスキンヘッドの声が響く。
視界が暗くなり、私の意識は世界から拒絶される。




