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第32話 『レイ、風邪をひく』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第32話

『レイ、風邪をひく』







 あるビルの3階。そこに一人の高校生がやってきた。




「朝練終わったので来ましたよー!」




 休日の部活を終えた楓が事務所に入ってくる。しかし、いつもなら返事が返ってくる事務所だが、今日は静かだ。




「あれ? レイさ〜ん、リエちゃ〜ん、師匠〜」




 リビングに行くが、ソファーにもテレビの前にも誰もいない。みんなを探して見渡していると、洗面所の向かいにある部屋の扉が開いた。




「おい、楓。こっちだ」




 そこは普段レイが使っている部屋であり、他の人には出入りを禁止している場所だ。

 そんな部屋から黒猫が顔を出す。




 黒猫がレイの部屋から出てきたことで、楓は驚いて膝をついた。




「師匠……僕というものがありながら……………」




「おい、何勘違いしてるんだ。てか、やめろ、色々誤解されるだろが!」




「じゃあ、なんでレイさんの部屋から出てきたんですか?」




「レイの奴が風邪引いたんだよ」









 楓が部屋に入ると、ベッドで寝ているレイをリエと黒猫が看病していた。




 リエは心配そうにレイの上を飛んで顔を見つめる。




「レイさん、大丈夫なんですか? 幽霊になっちゃうんですか?」




 黒猫はおでこに置いている濡れタオルを がズレていたため、咥えて位置を戻す。




「なるかよ。風邪だぞ」




「でも、タカヒロさんの死因は風邪なんですよね」




「俺のは特例だ。俺の死因は忘れろ!」




 レイの顔は赤くかなり辛そうだ。ベッドの中から機械音が聞こえてくると、黒猫が中に潜って体温計を咥えて出てきた。




「……38か。エアコン付けて寝るから悪いんだぞ」




 黒猫が軽く説教すると、レイはボソボソと返事をする。




「……だって…………暑いんだ……もん」




「はぁ、そういうことだ。楓」




 黒猫は楓の方に身体を向けると、




「来たばっかりで悪いが薬局行って風邪薬買ったら帰ってくれ。お前に移しても悪いからよ」




「師匠は大丈夫なんですか?」




「俺は問題ねぇよ。猫だしな。だが、お前はもうすぐ先輩の大会があるだろ。風邪引くわけにはいかないだろ」




 黒猫に指示されて楓は荷物をまとめると、事務所を出て行こうとする。

 すると、黒猫が部屋からまた顔を出した。




「あー、待て。こいつも連れてけ」




 そう言って部屋から出てきたのはリエ。




「こいつがレイに取り憑いてると負担もあるし。それにこいつがうるさくてあいつも寝れないよ」




 リエはずっとレイの近くを飛んで、ソワソワしていた。かなり心配していたのだろう。




「楓の霊力ならお前も取り憑けるだろ。心配なのは分かるが、落ち着くためにちょっと出てこい」




「…………分かりました」




 リエは楓に触れると楓に取り憑くことに成功する。

 すると、霊力の違いの影響か。リエの姿が少しだけ成長する。




「ちょっと身長が伸びたね。リエちゃん」




 楓よりも少し小さい程度まで身長が伸びたリエ。それでも姿は変わっても中身は変わらず、レイのことを心配そうに見つめている。




「ほら行け行け、さっさと行って来い」




 黒猫に頭で押されて事務所から二人は追い出される。

 近くの薬局に行って風邪薬を買ってくることになった。




 エレベーターを使い一階まで降りて、ビルを出る。しかし、ビルを出て敷地を出る前にリエが足を止めて事務所のある扉を見つめる。




「レイさん大丈夫でしょうか……」




「そんなに心配なの?」




「私が幽霊になった時代は病が流行って大変なことになりましたから……。特に長屋では辛い姿を見てきました」




「そっか、リエちゃんはそういう時代も体験してるからね」




 楓はリエの手を取って握る。




「でも、大丈夫。今は昔と違うよ! 風邪薬を買って早く戻ろ。レイさん待ってるよ」




「……そう、ですね!」




 二人は手を繋いで薬局のある駅の方へと歩き出した。




 薬局があるのはスーパーの通りを少し進んだ先。商店街の手前だ。




 スーパーの前を通っていると、二人の前を見覚えのある人物が現れる。




「あ、あなたは……」




 黒髪のお姉さんは買い物袋を持って、スーパーからの帰りの様だ。




「えっと、早乙女さんですよね」




「おー、美少年。覚えててくれたんだな」




 笑顔を見せる京子。彼女はリエに手を伸ばすと、頭に手を乗せた。




「ちびっ子幽霊もデカくなったな」




「…………ちびっ子」




 楓の霊力で少し成長して内心喜んでいたリエだが、京子にちびっ子呼ばわりされてショックで固まる。




「っんで、霊宮寺さんはどうしたんだ?」









 事情を説明すると、京子は頭を掻きながら、




「それで美少年に取り憑いてるのか……。コトミが治ったと思ったらな…………」




 買い物袋から長ネギを取り出すと、それを楓に手渡した。




「風邪を引いたらネギが一番だ。私は用事があるから行けないが、今度見舞いに行くって言っといてくれ」




「ありがとうございます。これでレイさんもすぐ良くなりますよ」




 京子と別れて薬局に向かって再び進み出す。




「楓さん、ネギ臭いです」




「僕も嫌だよ〜、でも手渡されたんだから手で持つしかないよ〜」




「薬局で大きめの袋を貰わないとですね…………」




 道の先に薬局が見えてくると、路地から二メートル近い巨漢のマッチョが出てきた。




「ん、君は……」




「あ、マッチョの先輩の方!」




 現れたのは前に呪いのダンベルで依頼に来た二人組のマッチョの先輩の方。

 マッチョはマッチョと言われて嬉しかったのか、笑顔でポーズを決める。




「そうだろぉ、俺の筋肉輝いてるだろ!!」




「いつ見ても良い筋肉してますね!」




 楓が褒めるとさらにマッチョは嬉しいのか、ポーズを決めるが、それと同時に楓がネギを持ってることに気がついた。




「そういえば、君はなんでネギを持ってるんだ?」




「それがですね……レイさんが…………」




 楓が事情を説明すると、マッチョは申し訳なさそうな顔をする。




「それはすまない。引き止めてしまって……。そうだ、レイさんにこれを渡してくれ」




 そう言ってマッチョが差し出したのはポロテイン。




「風邪の時はプロテインが効くぞ」




「……プロテイン」




 マッチョは自身の筋肉に見惚れながら、去って行った。




 楓とリエは再び、薬局に向かって歩き出す。




「楓さん、プロテインって本当に風邪効くんですか?」




「あの人だけだと思うから。気にしなくて良いよ」




「それもそうですね……」




 薬局に到着した二人は風邪薬を手に取ってレジに向かう。

 小さな薬局で普段は混まないのだが、今日は前に二人ほど並んでおりレジが止まっていた。




 楓とリエはレジが動かない原因はなんなのか気になり、レジの方を覗くと、ウサギのカチューシャを付けたメイド服を着た女性が店員にしつこく電話番号を聞いていた。




「あなたの筋肉良いわねぇ、電話番号教えてよ〜」




「やめてください! 他のお客さんが待ってますから」




「え〜、教えてくれるまでやめなーい。てか、私のことはモエちゃんって呼んでよ〜」




「本当にやめてください。店長呼びますよ」




 揉める店員と客。迷惑客を発見した楓とリエは見つからないようにスッと物陰に隠れた。




「ちょっとお客さん何やってるんですか」




 他の客に呼ばれた店長らしき人が黒淵を控え室へと連行していく。




「待って〜、せめて連絡先を……!」




「警察に連絡して。怖い思いした後で悪いけど、レジ続けて俺が警察来るまで見張ってるから……」




 黒淵の姿が見えなくなり、レジが回り始める。




「どうします? 楓さん……」




「見なかったことにしようか……」




 無事に風邪薬を購入して、袋も貰い二人は事務所に帰る。




 スーパーの前を通り過ぎて、事務所のあるビルが見え始めたところで、楓が前を向いたままリエにあることを尋ねた。




「……リエちゃん、聞きたいことがあるんだけど、良いかな……」




「なんですか?」




 楓はリエの手を少しだけ強く握りしめる。その感触からリエに楓の真剣さが伝わってくる。




「前に師匠とレイさんから悪夢の話を聞きました……。僕、その時居なくて……ごめん」




「良いんですよ。タイミングが悪かっただけです。そういう時もありますって」




 リエは笑顔で返す。しかし、楓にとって話の本題はこれからだった。




「……その時聞いたんだけど。悪霊の夢を見たんだよね」




「……はい」




 夢の話が出て、察したリエは覇気のない声で返事をした。それで楓の不安は確信に変わった。




 楓は足を止めると、リエの前に立ち顔を見る。身長差は少しだけのため、視線は殆ど変わらない。




「リエちゃん…………もしかして。悪霊に……なるの?」




「………………」




 リエは下を向いて楓から視線を逸らす。そして答えることはなく、ただ地面を見つめた。




「リエちゃん…………。ごめん、僕…………」




 楓は謝り、リエに言った言葉を取り消せないにしても、どうにか元気になってもらえないか考える。

 しかし、話を変える前にリエは楓に質問をする。




「なんで、そう思ったんですか……」




 楓は答えるべきか迷ったが、ここであやふやにするわけにもいかないと、決意を決める。




「首なしライダーさんの時。僕がリエちゃんに聞いたよね……」




 首なしライダー。それは前に事務所に来た依頼で除霊した幽霊だ。

 事故の時に無くした彼女へのプレゼントを探して、幽霊になった暴走族の総長。




「あの時、ライダーさんがあのままネックレスを見つけられなかったらどうなるのか聞いた時、リエちゃん、考えない方が良いって答えた……それって悪霊になるかもしれないからなんだよね」




 リエは頷く。




「リエちゃん、どうしたら良いの? 僕が力になれることを教えて!! 嫌だよ、リエちゃんが悪霊になるのは!」




「……私にも分かりません」




 リエは答えると事務所に向かって歩き出す。




「レイさんが待ってます。行きますよ」




「待ってリエちゃん」




 楓はリエを追って並んで歩く。




「リエちゃん、待ってよ。なんで悪霊にならなくっちゃいけないの! リエちゃん悪いことしてないじゃん!」




 リエは先に進みながら答える。




「悪いことをしたから悪霊になるわけじゃありません。ただ、悪霊は幽霊の成れの果てってだけです」




「幽霊の…………。じゃあ、どの幽霊も……?」




「その可能性を持っているらしいです。でも、何がきっかけで悪霊になるのか、私には分かりません」




 事務所の前に辿り着き、後はエレベーターに乗って上に行けば事務所に着く。




「じゃあ、いつ悪霊になるかは分からないの?」




「はい。10年後か1年後か、もしかしたら明日かもしれません」




 エレベーターのボタンを押すと、一階にいたのかすぐに扉が開いた。




 二人は乗り込んで3階のボタンを押した。




 エレベーターが動き出し上に登っていく。リエは隣に立っている楓の手を握った。そして扉を向いたまま告げる。




「……楓さん。お願いして良いですか。きっと私が悪霊になったらレイさんは悲しんじゃいます。出会ってからまだ数ヶ月しか経ってないけど分かるんです」




 閉められた隙間から、思い出が漏れてくる。

 屋敷で出会って、山に行って海に行って、見たことない景色、感じことのない思い。




 3階に到着して扉が開くと、妄想から現実に戻ってきた。




「私とレイさんは似てるんです。だから…………その時は私を…………」




 リエが良い詰まっていると、楓が一歩前に出て先にエレベーターから出ると、リエの手を引っ張ってエレベーターから出した。

 そして笑顔で振り向く。




「無理」




 そう言った後、手を離すと、楓はリエに優しく抱きついた。




「ごめんね。僕がこんな話を始めたのに……。でも、無理だよ、友達を傷つけるなんて」










 扉を開くと玄関で猫が座って待っていた。




「遅かったな、お前ら……」




 鋭い眼差しで睨んでくる黒猫。二人は苦笑いをする。




「師匠、実は行く途中で早乙女さんやマッチョの先輩と会いまして、お見舞いの品を貰ったんです」




 楓が貰ってきたものを見せると、黒猫は袋を置いていくように指示をした。




「楓、お前は風邪が移ると悪いからさっさと帰れ。リエはどうする?」




「私は……レイさんと一緒にいます。風邪が治るまでなら、事務所に残った霊力でカバーできそうですし」




 リエが楓から取り付くのをやめると、黒猫からはリエの姿が見えなくなる。




 黒猫は見えていないが、リエがどこにいるのかはなんとなく分かっているようで、袋を持つように指示をした。

 袋を手に持って、リエはレイの待つ部屋に入るために扉を開ける。




「楓さん、ありがとうございます。レイさんの風邪が治ったらまた会いましょう」











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