第E12話 『呪いの携帯電話』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第E12話
『呪いの携帯電話』
「今日は結構買いましたね!」
私の後ろを飛び回り、リエが買い物袋を覗き込む。
「しばらく雨降るみたいだしね。買い溜めよ」
重たい荷物を持ちながら、住宅街を歩いていく。楓ちゃんが帰って来てから、一緒に行けば良かったと後悔はあるが、諦めて事務所を目指す。
「レイさん、あれなんでしょう?」
電柱の隅に何かを発見したリエ。ふわふわと飛びながら発見したものに近づく。
私も後を追って何があるのか、落ちているものを見ると、そこにあったのは古い携帯電話だった。
塗装も剥がれ、画面もひび割れている。
「ゴミじゃないの?」
「でも、落とし物だったら、持ち主が可哀想ですよ」
リエは携帯電話を拾い上げて周囲を見渡すが、持ち主と思しき人物は見当たらない。
「置いとけば?」
「困ってたらどうするんですか」
「はぁ、分かったよ。交番に届けましょ、でも、その前に事務所で昼ごはん食べてからね。お肉も買ってるから、交番まで戻ると腐っちゃうし」
「はい」
こうして私達は落とし物の携帯電話を拾い、土地主を探しながら事務所に帰った。
結局持ち主は見つからず。
「ただま〜」
「ただいま帰りました〜」
事務所に着くと、早速買って来たものを冷蔵庫にしまっていく。私がせっせと働く中、リエは棚の上で寝ている黒猫を撫でていた。
「起きないですね〜、熟睡ですか?」
「あんた、黒猫と遊んでるなら手伝いなさいよ」
「はーい」
リエに手伝えさせて、片付けを終えると早速昼食の支度に入る。昼食を終えて、食器を洗っていると拾った携帯電話を操作していたリエが何か叫び始める。
それを聞いて、私は台所から顔を出してリエを止める。
「人の携帯あんまり触らないの」
「いや、それがですね。メールが来て、持ち主からかと思ったんですが…………」
リエが携帯電話を持って台所までやってくる。私は水を出しながら画面の中を覗き込んだ。
「『三十秒後に楓さんが帰ってきます』? なんでメールでそんなのが送られてくるのよ?」
「分かんないですよ。SNSアプリのダイレクトメールみたいですけど、この携帯に入ってるアカウントから送られて来てるんです」
「自分から自分に? なによそれ、自分でやったんじゃないの?」
「やってないですよー!!」
私はリエを疑いながらも食器を洗い終える。そしてタオルで手を拭いていると、玄関が勢いよく開いた。
「僕が来ましたよー!!」
「楓ちゃん!?」
時計を見ていたわけではないが、だいたい三十秒くらい。本当に楓ちゃんが帰ってきた。
私達は楓ちゃんの元への駆け寄り、ドッキリじゃないか確認を取る。しかし、楓ちゃんは笑って否定した。
「ドッキリじゃないですよ〜。でも、その携帯凄いですね、僕が帰ってくることを予言したんですよね」
楓ちゃんに携帯電話を見せながら、リビングに戻る。
ソファーの前に着くと、携帯電話を持つ楓ちゃんを真ん中にしてソファーに座った。
「あれ、このメールが送られてきたアプリ以外起動できませんね。落ちちゃいますよ」
「あ、本当だ」
楓ちゃんが操作をして、一つのアプリしか起動できないことが分かった。そしてもう一つ。
「このアプリでメール送ろうとしても、自分にしか送れないですね……それに」
楓ちゃんはメール送信で時間を指定できる機能を見つける。その中で不自然な点を発見した。
「過去にしか、送れない……」
「え!?」
確認するように画面を覗き込む。画面の中に映し出されている数字は、楓ちゃんの言う通り、過去の時間しか設定できなくなっていた。
私達が画面を見ていると、画面が震えだす。そのメッセージには……。
「『師匠が落ちる』? なんのことでしょうか」
楓ちゃんが読み上げたと同時に、黒猫が寝返りを失敗し、テーブルから落ちてくる。
猫であるため、寝ぼけながらも身体を回転させ、上手く着地した。しかし、
「痛っ!?」
落ちた黒猫が私の足を踏んだ。落ちた衝撃と衝撃の伝わる猫の足が細いため、絶妙な痛みが足を襲う。
「……危ね。落ちちまった。レイ、なんで痛がってんだ?」
「アンタのせいよ……」
ソファーの上で足を押さえていると、黒猫が見慣れないものを見つけてソファーに乗ってきた。
「なんだそれ」
「落とし物の携帯です。でも、変わった携帯なんです」
リエは今まで何があったのかを黒猫に説明する。話を聞いた黒猫は今までの出来事とメールを照らし合わせると、ある結論に辿り着いた。
「このメール。お前らが送ったメールなんじゃないか?」
「そうなの?」
「ほら、ここのメッセージの感じ見てみろ。お前らの文だろ」
最初の文はリエ、次の文は楓ちゃんじゃないかと、黒猫は推理する。確かに楓さんや師匠呼びするのは二人だ。
「そう言われればそうね……。ま、どうせ返すから、気にしなくて良いんじゃない」
私は立ち上がり携帯電話を受け取る。
「交番に届けにいくよ。あんまりイジると持ち主に悪いし」
携帯電話を持って、私達は駅前にある交番を目指して事務所を出た。黒猫は私の上を陣取り、リエと楓ちゃんが前を歩く。
住宅街を抜けて公園の前を通っていると、公園の入り口で大きな荷物を持った男性は挙動不審な動きをしていた。
キョロキョロと周囲を見ながら、ブツブツと独り言を呟いている。
「ヤバい、ヤバいよ〜。俺がみんなの装備持ってるのに。迷子なんて、大変だよ〜」
かなり焦っているのか。男性の足元には汗で池ができている。
このまま放っておくことができなかった私達は、声をかけてみることにした。
「大丈夫ですか? 汗凄いですよ」
「あ、いや……それが大丈夫じゃなくて……。大事な仕事に遅れそうなんです。みんながどこにいるのかも分からなくって……」
職場の人達とハグれてしまったようだ。しかし、助けてあげたくてもどこにいるのか分からなければ、私達もどうにもできない。
そんな時だった。例の携帯電話が揺れた。
「メール? なになに……」
メールには男性の仲間の居場所だろう。そこについて書かれていた。
「あの、もしかしたらですけど。この先をずーっと行けば郵便局があって、そのすぐ近くのコンビニじゃないですか」
「え……。なんで」
「なんていうか、勘みたいなものです」
男性は反応に困った様子だったが、
「このままここにいてもどうにもなりませんし。とりあえず行ってみます。それでは!!」
そう言ってメールの内容に沿って走っていった。
「あの人、合流できたんでしょうか……」
「メールの通りなら大丈夫だよ。ほら、早く持ち主に返しに行こ」
私達は交番を目指して歩き始める。道中でゴーゴーレンジャーの面々とすれ違ったが、活動中で忙しそうだったので、軽い挨拶で済ませる。
「駅に着きましたね」
「後は交番にこれを届けるだけね」
駅前にたどり着いた私達は、駅の隣にある交番に入ろうとする。しかし、交番に向かう途中にあるコンビニ。そこに人集りが出来ていた。
「何か騒ぎみたいですね」
リエと楓ちゃんは野次馬に並んで騒ぎを見に行こうとする。私は頭に乗っている黒猫にどうするか相談する。
「ま、気になるし良いんじゃね。野次馬の奥に警官いるし」
「あんた、私の頭にあるから良いよね……」
黒猫は人々の奥に警官が見えたようで、その警官に話しかけるため、私も野次馬の中に入った。
野次馬の先に警官を発見し、声をかけようとした。だが、手を伸ばした時、コンビニから悲鳴が聞こえた。
そしてコンビニから覆面を付けた集団が、店員を人質にして自動ドアから出てきた。
「オラ、そこの野次馬ども、退け!!」
強盗犯は人質に拳銃を突きつける。警官は強盗犯を説得しようと試みるが、応じる気配はない。
後ろにはパトカーも集まってきて、警官達が私達を誘導して、安全なところまで移動させる。
「おい、もっと離れた方が良いんじゃないか」
頭の上で黒猫が震えながら、爪でへばりついてくる。
痛いのを我慢して、私はリエと楓ちゃんの手を取って、人々の波に乗ってその場から離れる。
「落ち着いて、落ち着いて移動してください!!」
警官に誘導され、駅前のバス停付近を歩いていると、奥の大通りから悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?」
そして大通りから暴走したバスが駅前に侵入してくる。パトカーや他の車を避けるように進んできたため、歩道に乗り上げ多くの人を巻き込んでいる。
そのバスは蛇行しながら、こちらに向かって前進してきていた。
「ヤバいヤバいヤバいよ!?」
私達は逃げようとするが、人々の壁があり逃げ場がない。
赤く染まったバスが距離を詰めてくる。このままじゃ……。
「みんな、逃げて!!」
楓ちゃんの声。それと同時に私の身体は持ち上げられて、人混みの上を投げられる。
人々の頭の上を飛び、私と黒猫、リエは道路に投げ飛ばされた。
「楓ちゃん!?」
飛ばされた時、楓ちゃんは周りにいる人達を助けとうと、両手を前に突き出しバスを受け止めようとした。
だが、人混みの中、踏ん張る足場もなく……。
バスはコンビニの前に止まると、中から覆面の人物が顔を出し、仲間達を呼んだ。
「早く乗り込め、ズラかるぞ」
強盗犯達は人質を連れて、バスの中へ乗り込む。私は腰が抜けてその場に座り込み動けずにいた。
強盗犯の最後の一人が、大きなバッグを背負ってバスに乗り込もうとした時。黒猫が私の頭から降りた。
私とリエは動けずにその場で座り込んでいる。そんな中、黒猫は真っ直ぐ強盗犯へと走っていくと、バッグを持った覆面に飛びつき、爪で顔を引っ掻いた。
「ふぎゃぁぁっ!?」
覆面をは情けない悲鳴をあげて、尻餅をつく。
黒猫は見たこともない怖い顔で、強盗を睨みつける。強盗犯の覆面は爪で破れ、その顔が露わになった。
「れ、レイさん、あの人って……」
「……公園の…………」
そこにいたのは公園で仲間とハグれていた男性。その人は攻撃してきた黒猫に怯えて、泣きべそをかいている。
「…………」
黒猫は人の言葉も猫の鳴き声も出さず、静かにその強盗への歩み寄る。
そして爪を出して襲い掛かろうとした時。
銃声が響き、黒猫の身体が宙を浮いた。黒猫は力を失うようにそのまま地面に倒れる。
「何してる、ノロマ。猫如きにビビってるんじゃねぇぞ」
バスの中から拳銃を持った覆面が顔を覗かせる。猫にビビり散らしていた男性は、手で顔を隠すと急いでバスに乗り込んだ。
バスが発進し、パトカーに追われながら駅から消える。
バスがいなくなり、私はすぐに黒猫の元に駆け寄った。既に黒猫の身体は冷たくなっており、動く気配はない。
たった数分のうちに起きた悲劇。駅周辺は血と焦げた匂いが充満している。
「……そうだ、これを使えば」
リエは携帯電話を取り出して、何かを打ち込んだ。しかし、何かを打った後、メールが届いたのか、その文を打つのをやめた。
「…………え」
私からは画面は見えない。だが、メールを読んだリエは、さっきまで打っていた文章を消し、別の文章を打ち込んだ。
そして…………。
「今日は結構買いましたね!」
リエが後ろで、私の持つ荷物を覗き込む。
「しばらく雨降るみたいだしね。買い溜めよ」
今日はかなりの量を買い込んだ。これだけ買うのなら、楓ちゃんを連れて来れば良かったと後悔している。
「レイさん、あれなんでしょう?」
事務所を目指して歩いていると、リエが電柱の隅に何かを発見した。
それは古びた携帯電話。塗装も剥がれ、画面はひび割れている。
「ゴミじゃないの?」
「でも、落とし物だったら、持ち主が可哀想ですよ」
そんな話をしていると、携帯電話がバイブレーションして、メールが届いた。
「え、勝手に見るの?」
「そう言いながらレイさんも覗き込んでるじゃないですか」
「『この携帯は拾わないでください』? 持ち主からでしょうか」
「ほら、持ち主が怒ってるよ。さっさと帰るよ、荷物重いし」
「はーい」




