皆さん、集まってください!負けヒーローや負けヒロインがなぜ負けるのか……完全に解き明かしましたっ!!
頭を緩くしてご覧ください。なお異論はガンガン認めます。
私は眼鏡が好きだ。執事とか家令とか側近とか宰相とか、最高権力者の側に控えて眼鏡をクイクイしてる奴が好きだ。腹黒ならさらに良し、ヤンデレなら天元突破だ。人の心を持たないような冷血人間がヒロインの手により愛を知り、激情溺愛デロデロドロドロ抱えながら、顔には一切出さず作り笑顔をかましている眼鏡が100億回見たいと思っている。そして、こういう奴が最高権力者に対し海より深い忠誠を捧げる展開も大好きだ。
が、こういうキャラは負けヒーローだ。最高権力者とヒロインが心を通わせているのを見て、自分に生まれた愛を封印し、忠誠心で的確すぎるアドバイスとアシストするのがお約束である。忠誠心という激萌えなキャラ設定が仇となり、ヒーローを負けヒーローにしてしまうのだ。
と、ここまでは完全に私の性癖だが、誰しもが経験した事があるのではないかと思う。なぜ主人公は、こんな素晴らしい相手を袖にして他の相手を選ぶのかと。
「ねぇ、忘れないでね。君が素敵だって一番最初に気付いたのは……あたしなんだから」と、強がりな笑みを見せる幼なじみ。
「貴女のその美しいドレス姿を見れば、あの鈍感騎士もきっと目を奪われますよ」と、夜の庭園へ送り出す公爵様。
「はっ、馬鹿だよな。初めは、ただお遊びのつもりで声を掛けただけなのにな」と、夕日に背を向け自嘲する色男。
「あたしがアンタを好き? 冗談じゃない、アンタみたいな甘っちょろい男は、あの子くらいがお似合いよ!」と、悪しざまに言いながら背中を押す悪役令嬢。
なぜ……なぜ君達は負けてしまうのだ! 性格に難点? 性格はいいじゃないか! 自らの愛よりも、相手の幸せを考えて身を引くだけの懐の深さを持っているじゃないか! 属性が悪い? 幼なじみや眼鏡は伝統の萌え要素じゃないか!
と、そう思ったので、私は自分で書いてみた。『負けヒーローを勝たせたい! 負けヒーローに救いの手を!』というコンセプトのもと、『婚約破棄がもたらしたのは、国土を半分失う内乱でした〜傷跡の残る国で逆行は繰り返される〜』を。
さて、負けヒーロー救済という事は、つまり本来なら勝ちポジションにいる勝ちヒーローが必要な訳で。ヒロインはその二人の間を揺れなければ勝ちも負けもない訳で。まあ色々ありながら、私は勝ちヒーローとヒロインが決別するシーンまで書き進めた。
勝ちヒーローとヒロインが結ばれれば、必ず不幸になる人間が出てしまう。それを避けたい勝ちヒーローは、ヒロインを思う気持ちを押し殺し、隠し通す……
あれ? 隠し通す? こいつ、隠し通さねぇな? 私の予定じゃ何も告げずに笑顔で決別するつもりだったのに、こいつ、やむを得ない事情を全部ぶちまけちまったぞ? はい? そこでキスしたら駄目ですよね、そんなんしたらヒロインが君の事吹っ切れなくなるじゃないですかー!
結果。ヒロインはやっぱり勝ちヒーローを諦めきれず、好きが溢れるハメに。そして懐の深い負けヒーローは、ヒロインの幸せを祈って身を引く事に……
こうして自分で書いてみて、理解した。勝ちヒーローと負けヒーローの違いが。良く言えば、情熱的と献身的。悪く言えば、身勝手とヘタレ。勝つヒーローは譲らない。負けるヒーローは譲ってしまうのだ。
ヒロインは、元々二人の間で揺れている立場だ。そこにガンガン攻めてくる男と身を引こうとする男がいたら、どちらに愛を感じるだろうか。まあ、有り体に言ってしまえば、最終的には押したもん勝ち。言わなきゃ何も分からない、リアルといっしょ、現実って世知辛い!!
勝ちヒーローが勝ちヒーローたる所以は、その情熱なのだろう。やむを得ない事情とか相手への迷惑とか考えているうちは、負けヒーローは絶対に勝てないのだ。「いや、ここで身を引く彼の心に惹かれる女性だっているだろう!」と思ったアナタ。確かにそれはいると思うが、結構なレアケースかと。
そしてもう一つ。これは、書いているうちに生まれた、作者の忌憚ない心情の変化である。
「負けヒーローくん、このヒロインにこだわらなくても、初めから一途に好きでいてくれるいい子はいっぱいいるって! 次行こう、次!」
負けヒーローは、ヒーローと銘打つだけあってイイ奴なのだ。この恋に破れたって、引く手は数多だろう。だったら苦しい恋はキッパリ諦めて、次の恋に進んだ方が幸せになれるんじゃないかと。
人生は長い。10代20代の頃の失恋一回で人生終わる訳でもあるまいし、星の数だけ異性はいる。なんだったら今の時代、同性だっていい。魅力的な人間がたくさん存在する世界なんだから、いくらでも前に進めるじゃないかと。
大体、心の中に他の本命を抱えたまま別の人と結ばれるなんて、ろくな事にならないのが相場だ。そもそも、その状況はシンプルに不誠実だ。私、普通にそれは良くないと思う。
皆さん、集まってください……負けヒーローや負けヒロインが負ける理由が、はっきりと判明しました!
負けヒーローやヒロインが負けてしまうのは、献身的でいい奴であるがゆえに、作者がそのキャラに最高の幸せを与えたくなるから、なのだ!
つまり負けヒーローやヒロインに勝ってほしいなら、作者さんに「あの子が幸せになるスピンオフか番外編を書いて!」と訴えればいいのだ。作者さんは負けヒーローやヒロインも大事にしているので、上手くネタに出来そうであれば、前向きに検討してくれる事だろう。私もこれからは、萌えるヒーローやヒロインが負ける時には、「後生ですからその後の話をお恵みください……っ」と書こうと思う。
と、こうして出来上がった私の作品『婚約破棄がもたらしたのは、国土を半分失う内乱でした〜傷跡の残る国で逆行は繰り返される〜』ですが、当然起承転結の転のところまで負けヒーローが勝つ予定だったので、読んでくれた方は「結局お前が負けるんかい!」と思ったかもしれません。今思えば、主人公を一人に定めないで群像劇で書けばよかったなあと思います。よろしければぜひ読んでみて、負けヒーローと勝ちヒーローの違いを比較したり、作者の心境の変化による展開の変化をお楽しみください。とダイレクトマーケティングしつつ、これで終わり。