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ファントムの召喚  作者: こでまり


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王の病、急変

 エルドの部屋を出て魔導士の館に向かった。


 魔導士の館でも人が慌ただしく行き来している。リコはいつもの場所に行くとネヴィル皇子が木箱を椅子代わりにして座っていた。


「サボりですか」


 リコはネヴィル皇子の隣に座った。


「どうしようか、考えていた」

「なにを?」

「責任は私にある。それは忘れたことはないが、こうして突き付けられると自分の行動は本当に良かったのかと後悔が出てくる」


 なぜだか涙が出てきそうになる。初めての挫折ではないだろうが最近の出来事はネヴィル皇子を追い落とすのに十分すぎるほどだ。


「亡くなった方はいないと聞きました。負傷者も皆、怪我の治療も進んでいて一か月もすれば完治するそうですよ」

「そうか」


 両手で頭を抱えているネヴィル皇子を見ると、息をするかのようにアランを吹き飛ばしていた人と同一人物とは思えなくなってくる。


「レイモンは皇太子にはネヴィル皇子しかいないと言っていました。騎士団の人たちも同じことを言っています。もちろん、魔導士たちも」

「そなたはどう思う?」

「私ですか?」


 王妃もレイモンも皇太子はネヴィル皇子だと言っていたので深く考えることはなかった。しかし……。


「責任感の強い方だと思います。ネヴィル皇子は国の為、民の為に尽くすことが出来る人で信頼できます」

「信頼か……。私はそなたを疑っているのにか?」


 顔をあげてリコを見る目つきは怖い。

 やはり政敵と思われているようだ。いつになったらその疑いを解いてもらえるのか。


「あなたの敵にはなりませんよ」

「敵ではないか。それなら誰に呼ばれた? よそから来た者だろう」


 バレた!


 ネヴィル皇子の目はリコを離さなかった。ここで目をそらすのは逆効果になる。リコもネヴィル皇子の目を見る。


「何も言えません。ですが、私は貴方の敵にはならないことは確かです」

「レイモンが皇太子に選ばれたら皇太子妃になるのか?」


 はぁ?

 リコの眉間に皺が寄った。


「ないです!」


 全力で否定した。周囲からはそう見られているのかもしれない。それなら、一日も早くここを出ていかなければ。


「皇太子妃だぞ。興味ないのか」

「あるわけないです。いろいろ面倒です」

「はははっ……面倒か」


 笑われた。

 ネヴィル皇子に笑顔が戻ったが、その理由が複雑だった。

 急に真剣な表情になってこちらを見てくる。


「この後はどうするつもりだ?」

「引き続き王の病の原因を探ります」

「王はただの病ではないのだろ?」

「ウォルター様やハミルトン様と調べた結果、黒魔術だと思われます。そして、漆黒の森の黒い物体が何らかの役目をしていると考えています」

「そうか。それなら俺も頑張らないといけないな」


 元気が出てきたようで表情が明るくなって目に光が帯びていた。レイモンが皇太子になるつもりはないと言っていたのでネヴィル皇子に頑張ってもらわないと周囲も納得しないだろう。


「リコ!」


 振り返り館の入口に焦燥感を滲ませたハミルトンが立っていた。

 ネヴィル皇子とハミルトンのところまで行くと王の体調が急変したと告げられた。


「どういうことだ!」

「それが分からないのです。午後になって急に苦しみだしたようで」


 三人で王の寝室へ走って向かう途中、ネヴィル皇子がハミルトンに問いただしている。

 今朝リコが王の容態を確認したときは安定していた。侍医も治療魔法士たちも最近の王の容態は落ち着いていると言っていたのに、どうして急変したのか。


 寝室に着くと治療魔法士たちが王の身体を囲んでいた。


「リコ」


 王のそばにいたレイモンがリコに気づき状況を説明してくれた。

 息苦しいのか王は自らの手を首元へ伸ばして体は大きくのけ反っている。治療魔法士たちが何とかしようと必死になっている。

 治療魔法士たちの邪魔をしないように王の様子を見ると、先日よりさらに黒い影が体を覆っていた。力の限り首元や胸元を掻き毟るように動かす手を両手で握る。


 黒い影がリコに迫ってくるのを感じ取りながらもそれを抑え込むように念じると白い光が大きくなっていき王の身体を包んだ。

 リコは力を緩めずにさらに大きな力を込めると王の身体から白い光はどんどん大きくなっていき部屋中に光が広がった。


「なんだ?」


 ネヴィル皇子は初めて見る光景に驚いている。


 部屋中が眩しいくらいの光に包まれる。リコ以外の人たちはその光が眩しすぎるようで腕や服で目を覆っていた。それでも止めることなく念じ続ける。光は暫く続いたが王の呼吸が落ち着いていくのと同時にゆっくりと収まっていくと王の息づかいは穏やかになっていった。


「リコ様!」

「リコ!」


 リコはその場に崩れ落ちた。

 レイモンに支えられて立ち上がると、ハミルトンが椅子を用意してくれたので座る。声を出す気力すらないが、王の容態が気になる。


「少し休むといい。ハミルトン、ポーションを持ってきてくれ」

「はい」


 ハミルトンが部屋を出ていく。

 ネヴィル皇子は何が起きたのか分からないようで王とリコを交互に見ていたが相手に出来るだけの体力もないので無視した。

 その間に侍医が王の容態を確認している。


「レイモン。どういうことだ?」


 ネヴィル皇子が王のそばに行き様子を窺っている。


「落ち着いたようです」


 侍医の報告を聞いてレイモンが部屋の中を見て回っている。


「誰がこれを?」

「これがどうした…、なんだ?」


 ネヴィル皇子も何かを感じたようだ。

 レイモンの視線の先にあるのは植木鉢に植えられた花だ。今はしおれている花をレイモンとネヴィル皇子は見つめている。

 リコは体を動かすだけの体力が残っていないので椅子に座ったまま視線だけ鉢植えに向ける。


 レイモンが部屋の外にいた騎士を呼んで問いただしている。

 その間にリコは残っている力で鉢植えから出ている黒い影を追った。

 頭の中に映し出される景色は先日向かった漆黒の森、そこにある封印した物体に行き当たった。更にその先を見ようとして、椅子から崩れ落ちた。


「リコ!」


 レイモンの叫び声が聞こえたのを最後にリコは意識を失った。

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