偵察
どれだけ本を調べてもそれらしき記述は見つからなかった。
レイモンに頼んで、皇族しか見ることが出来ないといっていた本も探してもらったがそんな記述はどこにも載っていないと言っていた。完全に八方塞がりだ。
更に不思議なことも起こっていた。
第二騎士団が以前、大被害が起きたハイノバ地方に偵察に向かったが、なぜか魔物はいなくなっていたと言う。その現象は傍にさらに大きな魔物の存在があるからではないかと結論付けられた。
ウォルターに確認しても同様の答えが返ってきたことからもっと大きな魔物の存在が王宮内をざわつかせていた。
そしてリコは何か重要なことを忘れている気がした。
魔導士団の建物の片隅に陣取ってノートを取り出す。
先日、王の病状を詳細に聞いて書き込んでいたのを読み返す。
最初は疲れのような怠さを感じて数日寝込んだ。
その次は頭痛がすると言って薬を処方され、その後は風邪のような症状が出て薬を処方されて寝込む。
風邪のような症状って咳とか鼻水だろうか。
この内容でははただ、体調を崩した程度にしか思わないだろ。それがいつの間にか意識を失うまでになっている。通常の病だと生活習慣や食事などが原因で病になるが王は病ではない。それなら別の要因があるはずだ。
「王は日記なんか書いていないよな」
「ある」
急に声がして驚いて振り返る。
「レイモン。急に声を出さないでよ」
「あぁ、ごめん」
レイモンはなぜか地面に座る。
リコは自分の座っていた木箱をレイモンに譲って、もう一つ木箱を持ってきて座った。
「王の日記があるの?」
「日記ではないが、議事録みたいなものはある。その日、誰と会ってどんな話をしたかが書かれている」
レイモンはそばに落ちていた小枝を拾って地面に落書きを始めた。
「それ、私が見てもいいもの?」
「駄目だな。僕でも手続きをしないとみることが出来ない」
「そっか」
「何かわかりそうか」
「全然分からない」
レイモンは何か期待していたみたいだが全くといって何もない。
「そういえば、ハイノバ地方の魔物はもういないの?」
第二騎士団が偵察に行って魔物はいなくなっていたと聞いているが代わりに大きな魔物が潜んでいる可能性があると話題になっている。
「その魔物の存在を確認出来ていない。ネヴィル皇子は別のところに行っていて帰ってくるのは明日以降になると連絡が入ったばかりだ」
「今度も討伐?」
「討伐ではないだろうな」
「どうしてそう思うの」
「部隊の編成が偵察向きだった」
「なにを調べているの?」
「なにも聞いていないが、想像はついている」
「私には言えないことね」
「そうだな。そのうち話すよ」
ネヴィル皇子は何を探っているのか。あの人の目つきは油断ならない気がする。
それにアランの行動も不思議で仕方がない。
先日まで妹のゾフィーの待遇が不満だと大騒ぎをしていたのに最近は大人しくしている。レイモンはやっと事の重要性を理解したかのような口ぶりだったが、あの人が理解できるとは思えなかった。
「レイモン。この間私たちが漆黒の森に行ったときにアランが私たちを見かけたらしいの」
「なんか騒いでいたな。それがどうしたって感じだったけど、ウォルターが実践訓練だと言うと急に大人しくなっていた」
「あの人がどうしてあそこにいたの?」
「母親の実家にでも帰っていたと思う。あの近くの道を通って北の方に行くと子爵家の領地がある」
「子爵家を継ぐの?」
「跡取りは別にいるから無理だと思う」
レイモンはあまり興味のなさそうな反応だ。
「じゃあ、あの人どうするの?」
「ここでの立場はないに等しいからどうするかな。ま、俺が心配ことでもないが」
「でも、王の子供でしょう」
「王の血筋はほぼ全員魔力もちで生まれるらしい。その為に配偶者も魔力もちしかなれない」
あの二人は魔力がないと聞いた。
あの二人の母親は魔力もち。その子供二人は魔力なし。どういうことだろうとレイモンを見る。
「自称第一皇子だそうだ」
「あぁ?」
思わず立ち上がり膝に乗っていた本が落ちた。
「二人でなんの密談しているんだ」
声がした方を振り返るとネヴィル皇子がいた。心臓に悪い。
「兄上、密談ではないですが大きな声では言えない話でもあります」
「なんだ、俺には話せないことか?」
また、棘が……。
「アランのことを話していました」
「あいつの事か」
「リコ。続きは兄上から聞けばいい。僕より詳しいはずだから」
レイモンが去っていき、残されたリコは気まずさが残る。レイモンが座っていた場所に今度はネヴィル皇子が座り、リコが落とした本を拾って渡してくれた。
「なにが知りたい?」
「両親は魔力もちならその子供は魔力もちになる確率は?」
「ほぼ100%だな。これで理解できたか?」
魔力なしはあり得ないと言うことか、それなら二人は王の子供ではない?
「あの人たち、誰?」
「誰か……。言い得て妙だな。自ら第一皇子だと名乗っているが王は認めていない。もちろん俺も認めてはいないが」
「皇女も?」
「一応、王宮で生まれたから皇女と呼ばれているが、あの女も王は娘と認めていない」
「どうして?」
「子が産まれるまでの期間は知っているか?」
「十か月?」
「そうだ。計算が合わない」
どういうことだろう?
「皇女が生まれる前の約一年半、王は周辺国を遠征していてこの国にはいなかった。そしてあの女は王宮から一歩も出ていない」
「どうして!」
またしても立ち上がり本を落としてしまった。
ネヴィル皇子は無言でその本を拾ってリコには渡さず今度は自分で持っていた。
「ゾフィーの出生が疑われるのはそこにある」
「王はなんと仰っているの?」
「なにも。ただ、皇女とは認めなかった」
「彼女も自称皇女?」
「あの兄妹は二人とも自ら名乗っているに過ぎない」
訳が分からない。自分の子ではないのなら王自身が否定すればいいだけの話だ。悶々と考えていると本を渡された。
「あの二人のことは考えなくていい。それより、この前言っていた魔物の気配だがエルドが変なことを言っていた」
「なんて?」
私と同じような感じだろうか。話を聞きたい。
「偵察に行った先でいつもと違う魔物がいるって言っていた。物体は見ていないみたいだったが何か感じたようだ。会って話してみるか?」
「会いたいです」
なんか誘導されている気がする。
それもアランのことははぐらかされたような……。まっ、いいか。気にしなくていいと言われたから。
ネヴィル皇子は座っていた木箱とリコが座っていた木箱をもとに戻すと歩き出した。
私は急いでその後をついて行く。
連れていかれた先は王宮のネヴィル皇子の執務室だった。
騎士というだけあって、剣が部屋の隅に並べられていてレイモンの執務室はと違った雰囲気があった。
部屋にはエルドがいてリコが部屋に入ったら驚いていた。
「エルド、この間言っていたことを彼女に説明してほしい」
椅子に座るようにネヴィル皇子に促され、リコとエルドは座る。
ネヴィル皇子はリコたちと離れて座った。
「なにをお聞きしたいのですか?」
「討伐に行った先でいつもとは違う魔物に出会ったのは本当ですか?」
エルドはネヴィル皇子を気にしながら口を開いた。
「本当です。魔物を見たわけではありませんがいつも感じるものではありませんでした」
「魔物は見ていないのですか?」
「目に見えるものとしての認識はなかったと言えばお判りいただけますか」
目に見えない何かということだろうか。
はっとして顔を上げる。
「念ですか?」
「おそらく」
思い出した。
王の身体から出ていた先はあの漆黒の森で、そこに憎悪の感情があった。その念が王の身体を蝕んでいたとしたら。
「なにか分かったのか?」
ネヴィル皇子が聞いてきた。
まだ確証には至っていないこの考えを話すわけにはいかない。
「まだ、分かりません」
ネヴィル皇子が疑いの目を向けてきた。
「確証がないか?」
「レイモン皇子と同じですね」
ネヴィル皇子とエルドが私を見ているが話すことはないので口を噤む。
「何か分かったら教えてほしい」
「分かりました」
ネヴィル皇子に言われ、話せることが出来たら説明しようと思った。
「私はこれで失礼します」
席を立って挨拶をすると部屋をでた。




