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My New Family  作者: 梅春
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第6話

 それから私は拓郎くんと志野さんの家をたびたび訪れるようになった。

 三人で食事をしたりお酒を飲んだり、テレビを見たりすることもあれば、志野さんと二人きりになって、これまでにはまったテレビやマンガの話をだらだらとしたりすることもあった。

 そんな話をしてると、志野さんは確かに同年代で、同じようなものを見て、同じように感じ育ってきた仲間だと感じることができた。

 私たちの結束は徐々に、でも確かに強まっていった。

 でも、私は拓郎くんと二人きりになることはなんとなく避けていた。

 私たちは男同士だ。お互いにスイッチが入ってしまえば、そうなることは異性同士よりも簡単かもしれない。

 男の衝動はいつも刹那的だ。大人になっても。

 そうなれば、今の三人の関係が壊れるかもしれない。

 拓郎くんがこの関係に満足しつつも、私との関係をすこしも前に進められていないことにどことなく忸怩たる思いを抱いているのがわかる。

 男は女よりずっと、セックスという答えを欲しがる生き物だ。その獣性を女性はときにおろかで滑稽だと見下すけれど。

 私と志野さんがここまで仲良くなったことも、彼としては予想外の展開に違いない。

「二人、絶対に仲良くなると思ったんだ」

 私と志野さんが最初に会った日、拓郎くんは私を駅に送ってくれながらうれしそうにそう言った。

 あの気持ちに嘘はないだろうが、今のこの感じを求めていたわけではないことはわかる。

 そもそも拓郎くんはどんな関係を目指して、私と志野さんを会わせたのだろう。

 フランクになんでも話すようで、どうしたい、何が欲しいといった肝の部分を話さない拓郎くんに、私も少し苛立ちを感じていた。


 拓郎くんの家で晩御飯を食べるのが当たり前になってきたある金曜日の夜、拓郎くんが大学のときの友達と飲むということで、私と志野さんは私が買ってきたたこ焼きを食べ、ぜんぜん足りないからと注文した宅配ピザを食べながら、志野さんが借りてきていたドラマのDVDを見ていた。

 最初の二話ほどを見た後、志野さんがトイレに立った。戻ってきた志野さんに対し、私は口を開いた。

 いつかは聞いてみたいと思っていたことを口にしてみる。

「ねえ、志野さん」

「うん?」

「拓郎くんとはどうやって知り合ったの?」

「馴れ初め?」

「そう、馴れ初め」

「聞いてないの?」

「聞いてない」

「嘘」

「ほんと」

「いつも一緒にお昼食べてんでしょ」

「うん、そうだけど、聞いたことない」

「男同士って駄目ね~。大切なこと何も口にしないんだから」

 大切なことって? 突っ込もうとして、でも、口から言葉が出てこなかった。

 男同士って駄目ね~。

 これはその通り。志野さんの言う通りだと思った。

「私の前の職場の後輩が、拓郎と大学の同級生だったの。それが、今日も一緒に飲んでる平岡くん」

「ふうん」

 志野さんはもともと大きなシステム会社のSEとして働いていたと聞いていた。

 頭が切れて、仕事が早くて、人の噂話とか悪口を毛嫌いしている。そんな優秀なエンジニアが、前の会社にも何人かいた。

 その人たちに共通する、やんわりとしているんだけど、どことなく他人を拒否しているような雰囲気をときどき志野さんからも感じた。

 私はそういった類の人たちが好きだった。

 べったりと人にまとわりつき、あれをしたからこれをしてといった要求を周囲に張り巡らす人間が大嫌いだったからだ。

 そういった人種と会わなくなって良かったことも、会社を辞めて良かったことのひとつにカウントされる。

 志野さんは現在はフリーのプログラマーとして働いている。

 残業のほとんどない拓郎くんや私とつるんでいつも遊んでいられるのも、通勤がなく自由な時間帯で働くことができる仕事をもっているからなのだ。

「それだけ?」

「ん?」

「もっとつっこんでこないの? どっちがアプローチしたか、とか」

 志野さんの目は笑っていた。共犯者の笑いだった。この人はいつも私の味方なんだな。そんな安心感にぼうっと包まれ、少し周囲が温かくなったように感じた。

 私は遠慮なく聞きたいことは聞こうと思った。かっこつけたり、出し惜しみしたりするのは、却って志野さんへの裏切りになるような気がした。

「じゃあ、最初は平岡くんとの飲み会で出会ったの?」

「そう、平岡と飲んでたら、拓郎から飲みの誘いの電話が入って。だったら来なよって平岡が呼んで、会って飲んだのが最初だったかな」

「最初から気が合ったの?」

「そうねえ。平岡ってゆー共通の知り合いがいたし、初回ですぐに仲良くなったね」

「それで二人で会うように」

「最初は平岡も一緒だったんだけど、だんだん二人で飲むようになったかな」

「どっちが積極的だったの?」

「うーん、どっちもかな。そのあたりはどっちともいえない」

「ほんとに~?」

「ほんと。あとね、めんどくさいからもうぶっちゃけちゃうけど、私たち、いまはもう所謂男女の仲じゃないのよ。最初はちょっとだけ燃え盛ったけど」

「え? どーゆーこと?」

「私と拓郎は単なる同居人なの。仲良しの友達、親友みたいなもの?」

「でも、結婚・・・」

「そう、結婚はしたのよ。いろいろめんどくさいでしょ。何でもないのに一緒に住むって言っても信じてもらえないし。勇輔だって信じないでしょ? それに私はいい年だし、なんで結婚しないの? もう結婚しないの? なんて言われるのも飽き飽きしてた頃だったし。拓郎もそろそろ結婚は? って聞かれ始めてて、それをめんどくさがってたから、ちょうどいいかなって」

 ちょうどいいって何がですか? そう言いたい気持ちを抑えて、立ち上がった。

「ちょっと、酎ハイとってきていい?」

「あ、うん」

 台所へ移動して、うちにあるよりずっと大きな冷蔵庫を開ける。

 酎ハイをとってくるといったのに、ミネラルウォーターを手にした私は、それを一気に半分ほど飲んで、キッチンのテーブルに置いた。

「よしっ!」

 気合いを入れて、志野さんの待つリビングへ戻る。

「あれ、缶酎ハイは?」

 戻ってきた私を見て、志野さんが突っ込む。

「やっぱりちょっと休憩。それより、さっきの話、続けてもらっていい?」

「うん、いいよ」

 志野さんは、いつものようににこやかに語り出す。

 自分のことなのに客観的に、論理的に話す志野さんと、志野さんの話す内容にノックアウトされながら、私はただうなずきを繰り返していた。


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