第11話
で、どうだったの?
日曜の夜、遅い時間に温泉から帰ってきた志野さんから電話がはいる。
「え? なんのことですか?」
「とぼけちゃって。キスしたんでしょ? どうだった、正直?」
「いやあ、なんでしょう、なかなか・・・」
「なかなか?」
「良かったかも」
電話口でにやけてしまう。志野さんも、向こう側で笑っていた。
「でしょう? あいつ、いいキスすんのよ」
「キス以外も良かったですよ」
「そっか。そりゃあ良かった。ごちそうさん」
志野さんはそれだけ確認すると、おやすみと言って電話を切った。
拓郎くんとのことを思い出す。
照れくさいような、まだまだ恥ずかしいような、でも、そこには確かにお互いにすべてをさらけ出した覚悟みたいなようなものもちゃんと確認できた。
これまでは放ったら終わりというようなセックスしか経験してこなかった。
それが男のセックスだと思っていたし、前戯にそれなりに時間をかけ思いやりを示せばそれでいいと思っていた。
だから、性交イコール前戯プラス本番、そして二人が昇りつめれば完了、そんな認識が強くあった。
「女はね、そのあとが気持ちいいのよ。温かくて揺れ心地のいい水面でたゆたっているような気持ちよさがあるの」
いつか詩織がそんなふうに事後に言っていた。本気だかおふざけだかわからなかったが、どうやらあれは全くのでたらめではないらしい。
拓郎くんと何時間もお互いの体を貪った。拓郎くんがどんなことに悦び、どんなことを求めているのか、必死になって夢中になって探った。
楽しかったし、気持ちよかった。他のことは何も考えなかったし、考えられなかった。
真っ白な瞬間ってあるんだなと何度も思った。
そんなふうにしてると、達した後も熱がいつまで抜けなかったし、そんなゆるく長い快感は初めてだった。
大丈夫ですよ。最初から、思ってるようなそんなハードなことはしないし。
思ってるようなこと?
そう返すと、拓郎くんは、「えっと、その、なんていうんですかね」と言葉に詰まった。
その様子がおかしくて、ひとしきり笑った後、またゆっくりと抱き合った。
拓郎くんの肌は滑らかなで気持ちよくて、同性のソレだなんて全く思えなかった。
こんなに気持ちいいなんて。
そんなふうに思いながら、波の緩やかな海でいつまでもたゆたっているような気持ちの良いセックスに長い時間身を任せてしまった。
あんなに長い間、ベッドの上で誰かと裸でくんずほぐれつしていたのは何年ぶりだろう。
私は年甲斐もなく二回、拓郎くんはその倍の四回もいった。
気をつかいながらも、できるだけ高いところにある欲望に達しようと手を伸ばす拓郎くんが健気で可愛くて、私は彼の想像を超えるほどの頑張りをみせてしまった。
「無理しないでいいんですよ」
そう言いながらも、顔を真っ赤にして昇っていく拓郎くんが愛しくて、私は次々と知らなかった世界のドアを開けていった。
楽しくて、貴重な体験だった。
「これははまるわ」
志野さんに会ったら、そう言って笑わせてやろうと思った。