もう一つの想い
『私、男性とは結婚したくありません』
お父様と被ったその台詞を言った瞬間、その当時のことが易々と思い起された。そういえばそんなこと言ったっけ。確かあの時はお父様に急になんの脈絡もなく婚約の話を持ち出されてほぼほぼ反射的に言ってしまった気がする。
とは言ってもその言葉がただの出まかせ、冗談という訳でもないんだけど。
「……まさかとは思っていたのだが、やはり本気であったのか?」
私の表情を見て何かを察したのかお父様が核心ついた質問してくる。あの時は恥ずかしさやら何やらで曖昧にして話が終わらせてしまった気がするするけど、もうこの期に及んで隠したり避ける必要は無い、のかな。
「本気も本気ですよ。そして、それの意味するところはお察しの通りだと思います」
「お察しとは……理由は数あれど、そういうことなのか……」
「同性愛者ということですね」
「よい! 皆まで言うな」
今更とは言えやはりお父様には衝撃だったのだろう。小さく「よりにもよって」と言ったのが聞こえてくる。
「……いつからなのだ?」
「物心ついた時からでしょうか」
「そんな素振りはなかったと思っていたが……そうか」
厳密に言えば前世の記憶を思い出し、それから私の意識が前世寄りになった辺りからだから物心がついた時と言う訳でもないんだけど。まあタイミングに感しては今になってみれば些事なのだった。
「それで、改めて聞いてみていかがですか?」
「予想の一つではあった……だがそれでも動揺している。娘がそうだと分かって落ち着いて居られるわけが無かろう」
「そういった意味ではなかったのですが……まあ、それもしょうがないですね」
片手で自身のこめかみを押さえるながらそう言うお父様。頭痛でも起きちゃったのだろうか、原因の私が言うのもなんだけど大丈夫かな。
「お前は相変わらず落ち着いておるな。こう言った話は伝える側も中々勇気のいることだと思っていたのだが……」
それはそうだろう。私だって今までずっと平気でいた訳ではないんだ。そう、最初こそ自覚したときには動揺した、悩みもした。けれどもそれは。
「開き直りました。それからはずっと覚悟していたことですしね。今更です」
開き直って、覚悟して、そうすることによって少しずつ受け入れることができる様になっていった。
魔法に対する想いと同様にずっと内心にあったその想い。機会がないからと誰にも言えず発散することが出来なかった……前世から今世、アイリスフィアに至っても尚、私の内に残り続ける呪いにも似たような想いなんだ。
「ふむ」
「お父様?」
再びお父様は小さくつぶやいてから私の声にも反応せずに黙ってしまった。今頃頭の中では色々と考えているのかな。
それからいくら経ったのか、長時間というほどではないけれど短くもない間、お父様はずっと考え続けてから、再び口を開く。
「すまないが、やはり今はまだお前を理解してやれぬ」
「そうですか……」
少しだけ、ショックではあったけど分かりきっていたことだった。だからそれでも動揺したりはしない。
「理解はできないが、多少なりともしてやりたいとは思う」
「はい」
きっとそれが王としてではなく父としての親心だったのだろう。
「お父様一つだけ」
「どうかしたのか」
改めて一つだけ言わせてほしい、伝えたい事があるのです。
「お父様。私は女性が好きなのです。それは人が異性を好きになるように、です。私は私であるためにこの想いを受け入れました。だかろこそ理解はできなくともこれは本心だと覚えていてほしいのです」
「わかった、覚えておこう」
そこまで言って、そう答えられて。今まで我慢してて一度も口にしたことのないことだったからだろうか、今更ながら始めて顔が熱くなる。今私の顔は相応に赤くなってるのかな。
それをまた自覚してしまっては我慢できないと、直ぐに私はこの部屋から出て行きたくなってしまった。今は一人になってこの熱を冷ましたい。
「……! で、では今日はこれ失礼します!」
そして答えも聞かずにお父様の執務室から出ていこうとすると、「言い忘れたことがあった」と真剣な顔のお父様に引き留められた。
「この話とは関係ないことだが」
「なんですか?」
関係のないなら放っておいてくださいと子供みたいなことを言ってしまいそうになったけど、ここはぐっと我慢してその言葉に耳を傾ける。
「アルタナには気をつけろ」
その言葉をもって、今日の話はお開きとなったのだった。




