1.朝の試練
この世界にはさまざまな種類の生きものが存在する。
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚介類など137万種を越している。
しかしその中には含まれていないが存在するモノがある。
日本でいうところの妖怪であったり、他にも妖精や幽霊のことだ。
果たしてこれらを生きものと言っていいのかはわからないが僕の意見としては、生きもの、そして一つの命として扱ってほしいと思う。
歴史の書物に描かれた妖怪の姿や動画サイトに投稿されている心霊スポットで撮影された幽霊など存在を証明するものがあるが実際のところ分からない。
信じる人と信じない人の二つに分かれるだろうが、ここでは前者の立場であってほしい。
◇
窓から朝を告げる太陽の光が差し込む。
嫌でも目が覚めてきて段々と脳が覚醒していくのがわかる。
まだ少し眠いが重い体を無理やり動かしベットから起き上がる。
どうやら昨夜ベットに寝転んで読書をしていたが寝落ちしてしまっていたらしくカーテンを閉め忘れ、電気もつけっぱなしだ。
立ち上がり電気を消した後、床に転がってしまっている本を拾い上げ棚に戻す。
本は整頓され、きれいに並んでいないと気が済まないタイプなので本の高さもそろえ、中途半端な隙間が無いようきっちり詰める。
本がきちんと整列しているのに満足した俺は、背伸びをして軽く体を動かす。
ちょうど体を伸ばし終わった後、スマホがピコンと鳴る。
こんな朝から連絡をしてくるような知り合いはいないため、きっとゲームのスタミナが全回復したという通知だろう。
机に置いてあったスマホを手に取り電源をつけるとやはりゲームの通知だった。
こういうしょうもないことでも予想が的中するのは謎に強者になった気分になり、気持ちがいいものだ。
しかし、ふと画面の上のほうに表示された時刻に一瞬時が止まる。
表示されていた時刻は最低でも起きなくてはならない時間を10分過ぎていた。
「やばいっ!?」
急いで朝の支度をしてパンを加え部屋を飛び出す。
いつもは徒歩通学であるが歩いていたらふつうに学校に遅刻してしまうため秘密兵器ZITENSYAを使う。
炯眼高校の受験に無事合格し、高校一年生となって一か月がたった。
しかしまだ一か月しか経っていないのにこれで遅刻するともう3回目となってしまう。
小学生の時から今まで妹に起こしてもらっていたため遅刻することなど1回もなかったが、家から遠い高校に通うということで両親に自立しろと家を追い出され今はアパートで独り暮らしをしている。
そんな俺が1人で起きれるはずもなく、アラームをかけてやっと起きれるかどうかだ。
しかし、その起きれるかもしれないという希望のアラームを寝る前にかけるのが習慣だが、寝落ちしていたためかけれていない。
「さすがにあいつもういないよな…」
全速力で自転車をこぎながらふと思う。
いつも徒歩通学の時一緒に学校へ行くやつがいるがさすがに先に学校に行っているだろう。
そう思っていたがいつも集合場所としている道の角に壁で体全体は見えないが見覚えのある人物が立っているのが見える。
「言羽ーーーー!!」
「…あっ、遅いよ景ってうわっ!?」
腰を抜かして地面に尻もちをついたことはの前で自転車を止める。
景と言っていたのは日戸灰 景俺の名前のことだ。
言羽というのはこの女子の名前で、本名は心音 言羽という。
身長170センチの俺より二回り小さい150センチぐらいで明るめの茶色のミディアムに決めた髪と瞳が特徴で、世間一般的にかわいい系の女子だ。
中学生の初めの方はモテていたが段々と隠しきれない変人な性格があらわになり、狙う男子は少なくなった。
簡潔に言羽のことを言い表すと『黙っていればかわいい』だ。
中学生のころからの付き合いであることがきっかけで仲良くなった。
そのきっかけというのはまた違うタイミングで紹介しようと思う。
「お前まだここにいたのか?」
「そんなことより私に言うことがあるんじゃない?」
ここで普通の人であれば怒るところであろう。
『なんで遅刻したの』
『危ないじゃない』 など。
しかしさっきも言ったが変人なのだ。
「曲がり角でぶつかるシチュエーションで自転車を使うのは邪道だと思うの!」
こいつは何を言っているのだろうか。
きっと食い終わったがさっきまでパンを加えていたからそんな考えになったのだろうが、本当に馬鹿だと思う。
邪道…?確かに邪道だ。普通に全速力の自転車と人が角でぶつかったりなんかしたらヒロイン1話であの世行きだぞ。
「なんでまだ待ってんだよ、遅刻するぞ?」
「い、いや別に待ってなんかいないわよ。私も寝坊してしまったのよ!」
嘘である。いつも俺より先に来てここの角で隠れて俺のことを待っているのを俺は知っている。
言及しても言羽が正直に認めるはずもないし、このまま話し込んでも遅刻するだけのため俺はペダルを踏みこみ、自転車を走らせる。
しかし後ろからの強い力に自転車が停止する。
「おい、その手を離せ」
もちろん犯人はただ1人、言羽である。
荷台を手でしっかりと掴んでいる。
「私を置いていくな」
「いや俺今日チャリだし、歩いていたら学校遅刻しちまう。ほな…」
俺の方が言羽より力は強いため、そのまま自転車を押しながら引きずる。
「歩いたら遅刻するのは景もわかっていてどうして私を置いていけるの!?
二人乗りしようよ、荷台に乗せてよ!!」
「この自転車の荷台は25キロまでが限界らしい。そんな荷台に倍以上あるお前を乗せたりなんかしたら壊れちまうだろ」
「そんな重くないわよ、てかそういうの普通女子に言うの!?」
「うるせーばーか、お前にしか言わんわ…って時間やばっ!?もう乗っていいから早く行こうぜ」
「そうこなくっちゃ!」
言羽は自分の荷物をかごに入れ荷台に飛び乗る。
「ちょっと固いわね…」
荷台に座った言羽は少し心地悪そうにそわそわしている。
「仕方ないな…」
カバンからタオルを取り出して言羽に渡す。
「これ下に敷いたらまだましだろ」
「えっ…わたしのお尻に触れたタオルで何するの!」
やはり変人だった。
こういう発言は俺だから言っているのではなく誰にでもこの対応をする。
男子たちはこういうことを普段から言われて「自分に心を開いてくれているのでは!?」と思い違いをしてしまう。
この時点では童貞キラーの勘違いさせ系女子なのだが、ちょっと仲良くなってくると異常発言は加速し、異常行動まで始まる。
最近で1番の異常行動は部活を作るために拒み続ける担任の先生に顧問になってもらおうと職員室で土下座をしたことだ。
「さっきまでは結構まともなヒロインだったのに台無しだな」
「え、なんて?」
「なんでもないよ、そんなことより加速する。危ないから掴まってろ」
「う、うん…」
さっきの座り心地が悪かったからというのではない何か違う雰囲気でそわそわしている。
これまで付き合ってきた経験上、変にツッコむとろくなことがないため気にしないでおく。
いつもは言羽の方から話しかけてくるのだが、なぜか今日は何も話しかけてこない。
俺はあまり自分から話しかけるような性格ではないため、まあこんな日もあっていいだろうと思い、背中にぬくもりを感じながら自転車をこぐことに集中した。
学校に近づいてきたが門には先生が見張りでいるため一旦停止する。
「どうして止まるの?」
「先生に二人乗りしてるとこが見つかったら最悪停学になるからな」
腕時計を見ると最終登校時間の1分前だった。
駐輪場から下駄箱までは近いためこの距離だと自転車のほうが早く教室に行くことができる。
「言羽、お前が自転車を使え」
「え…でもそれじゃ景は…」
確かに自転車を使わないと俺は遅刻してしまうかもしれない。
しかし、律義に寝坊した俺のことを待ってくれていたのを置いていくのは男がすたるというものだ。
「いいから早く行け!俺も後を追う…」
「…わかった先に行ってる」
俺の自転車に乗って言羽は先に向かった。
こういうときアニメなどでありきたりの発言をすると言羽はすぐに言うことを聞いてくれる。
俺ものんきにしてられないので走り出した。
門を抜けたときには言羽が校舎に入っていくのが見えた。
「言羽ーーー!!ドア開けといてくれーーーー!!」
「わかったーーーーーー!!」
靴箱で急いで足の装備を外靴から上靴に切り替えた。
サスケの選手のように3階にある教室に向かって階段を登っていく。
「ギリギリセーフ!」
「心音、確かにチャイム10秒前のギリギリセーフだ。いつも一緒のバカはいないのか?まあもう遅―――」
「おらあああああ!!!!」
全速力で廊下から走って勢いをつけ、スライディングをする。
そして同時にチャイムが鳴り響く。
騒がしかった教室が静まりかえり緊張が走る。
「先生セーフですか!?」
俺は先生の審判にゆだねるため教卓に視線を向ける。
ふっと先生は軽く笑い、表情が柔らかくなる。
「やっ――――」
「アウトだ」
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