日常の裏側
初めての作品なので、温かい目で見守ってください。
⚠︎作者は豆腐メンタルです⚠︎
カタカタカタカタカタカタ…
ある高校の、静かなコンピュータ室にキーボードを打つ音だけが響く。
コンピュータ室には1人の女子生徒。
黒髪黒目の真面目そうな容姿の生徒である。しかし、今、他の生徒や教師が見たら驚くだろう。
彼女は、同時に3台のパソコンを操っていた。
だが、その手は止まる事なくキーボードをすごい速さで打っていく。
カタカタカタカタカタカタカタカタ…カタ
ふと、キーボード音が止まり、彼女は壁にある時計を見上げた。
時刻は7:00、朝のホームルームまであと30分。
生徒が徐々に登校してくる時間だ。
彼女は、慣れた様子で検索履歴などの自分の痕跡を消し、USBメモリを抜きパソコンを閉じた。
そして、USBメモリをしっかり鞄に入れて部屋を出た。
彼女は、許可を貰ってコンピュータ室に入った訳ではない、鍵を職員室から勝手に取りコンピュータ室を使っていたのだ。立派な不法侵入である。にもかかわらず、堂々としているのは彼女が学級委員長や部長をしていたりと、教師の間でとても真面目な生徒だと、異常な程信頼されているからだ。それこそ、何が起きても彼女だけは疑わない程に…。
彼女は、職員室に行き笑顔で鍵を返した。もちろん自分で取ったことは言わずに。
何も知らない教師はとても感謝していた。
彼女は自分の教室、3年A組にいき、さも今登校したかのように僅かに登校していたクラスメートに挨拶をした。
「おはよう。学校来るの早くない?」
「おはよう!委員長こそ早いじゃん」
「おはよ〜。」
「委員長おは〜!」
彼女は、周りから委員長と呼ばれ慕われている。
彼女は友人と話しつつホームルームが始まるのを待つことにした。
「ねえねえ!委員長、昨日のドラマ見た〜?」
「昨日のって…?あ!今流行ってるドラマのこと?」
「そうそう!めっちゃ面白いんだよ〜!それに主演の俳優がさ、めっちゃかっこいいの!」
「そんなに、かっこいいの?」
「あったりまえじゃん!国宝級イケメンだよ!めっちゃかっこいいんだから!見なきゃ損だよ!しかもね、演技も上手いの!私のおすすめは──・・・」
この友人は、今流行ってるドラマの、主演俳優でハーフの白黒 蒼羽にはまっているらしい。
その後も、友人の白黒くんのどこがかっこいいとか、ここが良いとかを聞いていたら、登校してきた他の友人も会話に入り、最終的には10人くらいの友人が白黒 蒼羽のかっこいいところを言い合い盛り上がっていた。
彼女は、笑顔で相槌を打ちながら教室の時計を見た。
ホームルームまであと5分。
この時間になるとクラスメートはほぼ登校しており、教室はとても賑やかになっていた。
きゃあああああああああ!!!
突然、女性の叫び声が響いた。
教室は一瞬静かになったが、すぐにまたかという空気が流れ、皆会話を再開し始めた。
「あ〜またか〜。」
「毎日だもんね。」
「そうそう。流石に慣れるよねえ〜。」
「まあ、あの先生かっこいいからね。」
「わかる!超かっこいいよね!」
そう、今の叫び声は学校でかっこいいと話題の、九条先生を見た女子の黄色い悲鳴だ。
九条先生は、イケメンで優しく女子生徒の人気が高い。しかも、独身のため教師の中には本気で狙ってる人もいるらしい。
そんな九条先生は、A組の担任である。先生はかなりの数の女子生徒に囲まれながら教室に入ってきた。
「おはよう。ほら、ホームルーム始まるから違うクラスの人は戻らないと遅刻しちゃうよ。」
「えー先生といたいー。」
「私もA組がよかった〜!」
「A組ちょーずるい!」
「まじ羨ましいんですけど!」
九条先生が言うと、ぶつぶつ文句を言いながらも、渋々自分の教室に戻っていく女子生徒たち。
キーンコーンカーンコーン
ちょうど、廊下にいた生徒がいなくなった後にチャイムがなった。
「チャイムなったよ〜。ホームルーム始めるから席に座って。今日は──・・・」
ホームルームが始まり、九条先生が連絡事項を言い手紙を配る。
「よし、号令して終わりにしよっか。あ、委員長は号令終わったらきて。」
「きりーつ!礼、着席っ!」
ホームルームが終わり、一限目の準備を始める。委員長は九条先生に呼ばれ、教卓に向かった。
「委員長、悪いんだけどさ六限の授業の準備手伝ってほしくてさ。昼休み空いてる?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「よかった。ありがとう、昼休みに化学室来て。あ、お弁当も持ってきてね。」
九条先生は、化学の先生で授業の準備が色々大変らしく、よく委員長に手伝いを頼んでいる。
その時は、お昼も一緒に食べるのが習慣化してしまった。普段、九条先生はたまにではあるが、生徒と食べることもあるので周りから変に注目されてはいない。
キーンコーンカーンコーン
「きりーつ、礼、ちゃくせーき!」
四限目が終わり昼食の時間だ。
「やっと、お昼だ〜!」
「学校なーがーいー。」
「早くお昼食べよう!」
「そうだね!委員長!一緒に食べよ〜!」
「ごめん。先生に手伝い頼まれちゃった。また明日食べよ!ごめんね〜。」
「あ〜それじゃあ仕方ないか。」
「委員長頑張って〜。」
「ありがとう。」
委員長が化学室に行くと、既に九条先生がいた。
「九条先生!手伝いにきましたよ。」
「あ、委員長!ありがとう。じゃあ、先にお昼食べようか。」
お昼を先生と一緒に食べ、準備を手伝う。途中、九条先生目当てで女子生徒が数人来たが、先生は、授業の準備中だと追い返していた。
その後は、問題なく準備が終わった。
「終わった〜。」
「委員長ありがとう。助かったよ。」
「いえいえ。」
「できればまた手伝って欲しいんだけど…?」
「ええ。他に用事が無ければ良いですよ。」
「ありがとう!委員長とやると早く終わるから助かるよ。」
そう言って、九条先生は委員長の頭を撫でた。
その行動は、あまりに自然だった。
「先生、セクハラですよ。」
「あ、ごめんね!つい…」
そう言いながら先生は、申し訳なさそうに笑った。
しかし、その目は自信と期待が混ざりあった欲望に溢れていた。
お昼休みが終わる前に委員長は教室に戻り、五限目の準備をした。
「あ!委員長おつかれ!」
「おつかれ〜!遅かったね。」
「ありがとう。次、何だっけ?」
「次はねー数学だよ!」
「そうだった!ありがとう。」
キーンコーンカーンコーン
五限目が始まった─・・・
◆◇◆◇
時刻は23:25。
煌びやかな都会のタワーマンションの最上階。
ガチャッ……パタン
帰宅したのは、真面目そうな容姿の女子高校生。
彼女は、すぐに衣装部屋がある扉へ入る。
10分後…
出てきた彼女の容姿はガラリと変わっていた。
真面目そうな女子高校生から一転して、とても美しい絶世の美女になっていた。黒髪は豪華な金髪になり、目は黒から綺麗な空色になっていた。
服装も制服から、シンプルながら繊細な柄のあるワンピースに変わっていた。
彼女は、リビングに入り大きなソファに座った。
「主人殿、おかえりなさいませ。」
突然、部屋の隅から黒いマントを羽織り、フードを目深に被った男が現れた。
「黒、ただいま。」
彼女は、驚いた様子もなく返事を返した。
黒と呼ばれた男は、彼女の方に歩きながら被っていたフードをとった。
その男の顔は、誰もが見惚れるくらい整っていた。さらさらの黒髪に神秘的な青い目、全てが精巧な人形のように整っており、芸術品のごとく美しかった。
「黒は相変わらず美しいわね。」
「ありがとうございます。その、嬉しいです。」
男の頬が僅かに赤く染まる。それが、整った顔と合わさり暴力的な破壊力が生まれたが、彼女は見慣れていたため、どんな顔も美しいなとしか思わなかった。
ただ、他の人がこの顔を見たら一発で惚れるだろうなとは思ったが、黒がこんな表情をするのは自分だけとも知っていたため、やはり何も言わなかった。
「そういえば、黒のドラマ見たわよ。学校でもすごい流行ってたわ。流石ね。」
「ありがとうございます!主人殿にそう言われると、う、嬉しいです…!」
男は頬だけでなく、耳まで赤く染め嬉しそうに笑った。
「ふふ、黒の笑顔は破壊力抜群ね。流石は国宝級イケメンの白黒 蒼羽ね。」
そう、黒と呼ばれている男は今流行っているドラマの主演俳優であり、国宝級イケメンでもある白黒 蒼羽であった。
男は照れたように笑った。
「そういえば、今日は収穫ありました?」
「ええ。やっとあったわ。」
「ほんとですか?流石です!」
「ふふ、ありがとう。転校生として入った甲斐があったわ。」
「お疲れ様です!これでやっと、主人殿が他の男の目に映らないですね!よかった!」
「そんなことを気にしてたの?」
「大事なことですよ!主人殿は綺麗ですから、虫が付かないように見張らないと!しかも、高校といえば、男子高校生という性にしか興味が無いようなゴミが沢山いるところですよね!?そこに、主人殿が転校生として入るとおっしゃった時どれほど心配したことか!その高校の男全員に殺意が沸きます!今すぐ、殺しましょう!!」
「気にしすぎよ、落ち着いて。」
会話から分かる通り彼女は、ある目的のために今の高校に転校生として入り、真面目な生徒を演じたのである。
そして、男が彼女を異常な程慕っているということにも気づけるだろう。
カラカラカラ
「お!帰ってきてたのか!主人、おかえり!」
「白、ただいま。」
テラスの窓が開き、全身を真っ白なマントで覆った男が現れた。
白と呼ばれた男は、白髪に赤い目と、黒と反対の色を纏っていたが、しかし、顔立ちは黒と全く同じであった。
「やっぱり、黒と白の外見は色以外は全く同じね。」
「まあ、一卵性双生児ですからね。」
「だな!性格も違うけどな!」
確かに、黒は大人しめだが白は賑やかな性格だ。
それに、黒は基本的に敬語を使う。こうしてみると意外と似てないかもしれない。
「そういや、俺が用意した偽造戸籍使えたか?」
「ええ、もちろんよ。」
「よかった!にしても、戸籍用意しただけで高校に転校生として入れるなんてすごいな!」
「それは、俺も思いました。成人も過ぎてますし童顔でもないのにすごいですね!」
「ふふ、私ならどんな人にもなれるもの。」
プルルルルルルル
黒、白と会話している時、近くにあった電話が鳴り、彼女は電話をとった。
「はい。」
『もしもし?円城寺だけど、どのくらい進んだ?』
「もう証拠は手に入れたわ。」
そう言いながら彼女は、どこからかUSBメモリを取り出した。
『早いな。まだ一ヶ月くらいだぞ?』
「当たり前よ。もちろん私の証拠は消したし、何をしても疑われないように信頼も得たわ。」
『すごいな。性的暴行の証拠を入手するのは難しいのに。』
「ふふ、それにしてもあの教師、結構な数の生徒に手を出してたわよ。」
『やっぱイケメンは違うのかねー。えっと、九条だっけか?』
「ええ、そうよ。九条先生。」
『名前までかっこいいな。』
「まあ、もう教師にはなれないでしょうね。」
『だな。』
『あ!そういえば、そのために高校生になったって聞いたんだけど本当か?』
「ええ。本当よ。」
『まじか。流石はカメレオンだな。』
彼女は、子供、老人、男性、女性など、外見のみならず声や歩き方、骨格さえも自由自在に変えられる。故に、コードネームはカメレオンと呼ばれている。
今は女性の姿をしているが、本当の性別や年齢は闇に包まれている。
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
『もちろん、褒め言葉さ。』
「なら良いわ。」
『ああ、証拠は俺のパソコンに送っといてくれ。報酬はいつものとこに振り込んどくから。』
「ええ。分かったわ。そういえば、円城寺くんの誕生日って明日って聞いたんだけど?」
『よく知ってるな。明日って言っても、あと2、3分だけどな。』
「あら、そうね。円城寺くんのために誕生日プレゼント用意したから楽しみにしててね。」
『そりゃ、楽しみだ!じゃあ、また次も何かあったらよろしく。』
そう言って、電話が切れた。
「次、ねぇ…。」
彼女は電話を置き、またどこからかライターを取り出した。
「あれ?主人殿、煙草吸いましたっけ?」
「いいえ。吸わないわよ?」
「え?では、何故ライターを?」
「何でだと思う?」
「う〜ん?何でしょう?白、わかります?」
「ん〜?何だろう?」
白は、彼女が持っているライターを凝視しながら悩んでいる。
「ん?そのライター、ライターじゃないな!」
「ふふ、正解よ。」
「ライターではない?では、それは何なのですか?」
「これはね…
カチコチカチコチカチ…
時計の針が12を指した。
0:00、1日が終わり、また始まった。
円城寺くんへの誕生日プレゼントよ。」
カチッ
彼女は、ライター型の起爆スイッチを押した。
「誕生日おめでとう。円城寺くん。そして、サヨウナラ。ふふっ。」
◆◇◆◇
この日、ある住宅で爆発事故が起こったとテレビで報じられた。この事故で男性1名が死亡した。
不幸なことに、今日が彼の誕生日だったらしい。
この日、ある高校の男性教師が、複数の女子生徒に性的暴行を与えたとして逮捕された。
この教師は、自分の容姿を利用して生徒に手を出していた。これを聞き、転校した生徒もいたらしい。
この日、タワーマンションの最上階の部屋が引き払われたらしい。
この日、ある人気男性俳優がアカデミー賞を取ったらしい。
この日、全身真っ白な男性がどこかで目撃されたらしい。
この日、この時、この瞬間に世界は変わっている。
あなたが知らない日常の裏側には…
喜、怒、哀、楽、愛、憎…
さまざまな感情が渦巻いている。