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マッチ売りの少女

作者: 小田 優太郎

cast


少女(略称:女) ♀


悪魔(略称:悪) 性別不問


※ナレーター: 無印







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それは、ひどく寒い冬の夜でした。辺りはもう真っ暗で、しんしんと雪が降り積もっています。そんな中、ある街角にみすぼらしい少女が立っていました。


女「マッチは、マッチは要りませんか」


少女は帽子もかぶらず、ボロボロのエプロンに裸足で、かごに沢山のマッチをいれていました。雪は少女の頭に白く積もっています。


女「マッチを買ってくださいませんか、どうかこのマッチを」


差し出す手は小さく震えていました。しかし誰ひとりとして買ってはくれません。それどころかみな下を向き、肩を縮めて足早に去っていくのです。

少女は手元のかごをちらり見ました。一日中街を彷徨って(さまよって)売り歩いても、買ってくれる人はおろか一枚の銅貨すらくれる人はいませんでした。しかし、ここで諦めるわけにはいかないのです。


女「おかあさま......」


家では病気のお母さんが帰りを待っています。そのお母さんの為にも、治療費を稼がなければならないのです。一枚ももって帰れないと、お母さんは治療を続けられません。


女「ああ、とても寒い......死んでしまうわ......」


路肩に蹲って(うずくまって)、少女は空を見上げました。グレーの雲が空を覆い、白い綿を降らせています。


女「そうだ、マッチで温まろう」


少女はマッチを箱から取り出して、シュッとこするとメラメラと燃えだしました。赤々と燃える炎、小さな蝋燭(ろうそく)のように少女の震える手の中で燃えています。本当に不思議な火でした。


悪「やあお嬢さん、お困りのようだね」


少女は最初、幻が見えているのかと思いました。いえ、本当に目の前にいたのです。肌が闇より黒く、目は真っ赤、とがった耳を持ち、とがった歯と割けた口、頭部に角を生やして背中に(つばさ)をもった、悪魔がしゃべりかけてきたのです。

少女は驚いて声も出ませんでした。ただ、腰を抜かしてあとずさりするばかりです。


悪「なんだ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか」


悪魔はけらけらと笑います。


悪「みたところ、マッチがひと箱も売れなくて困っているんだね。そりゃあ災難(さいなん)だ」


悪魔は眉をへの字にして優しく語りかけます。


悪「人間というのは薄情(はくじょう)な生き物なのさ。自分が困っているときはぎゃあぎゃあ声を上げ、いざ人が困っている時には誰一人として手を貸さない。人間ってやつはつくづく卑怯(ひきょう)だと思うよ」


悪魔はうんうんと頷きます。


悪「それで、君は......そうか、お母さんが重い病で、その治療費を稼ぐためにマッチを売っているのか」


女「早くしないと.....おかあさまが......死んじゃう......」


少女はぽろぽろと涙を流します。


悪「そうだな.....君はよく頑張った。悪いのは買ってくれない人間たちだ。そうだろう?」


少女はこくりと頷きました。


悪「君はそんな人間が憎い(にくい)。自分が辛い時は我先(われさき)にと(わら)をもつかむように助けを求めるのに、こういう時は誰一人恵んでくれない.....」


女「どうして......どうして誰も助けてくれないの.......」


悪「それが人間だからさ。人間というのは、自分さえよければあとはどうなろうが構わない生き物なのさ。そんな人間が憎いだろう?」


女「......うん、憎い......」


悪「自分勝手な人間が憎い......そうだろう?」


女「憎い.......憎い憎い憎い......」


悪「そうだ。僕、とってもいい方法を知っているんだけれど、知りたいかい?」


女「ええ、知りたいわ」


少女は悪魔の言う"いい話"をきこうと前のめりになったその時!ひゅうと強い風が吹いて火がぱっと消えて、悪魔もいなくなってしまい、手の中に残ったのは小さくなったマッチの燃えカスでした。少女は別のマッチをまたシュッとこすりました。すると火は瞬く(またたく)間に勢いよく燃え上がりました。


女「知りたい、きかせてちょうだい」


悪「はは、ききたいか。そう焦らない。実はね......この街はお金持ちの住む街なんだ。それは君も知っているだろう?」


女「ええ、だからやってきたのだもの」


悪「その家に火を放つ(はなつ)のさ。そうすると、瞬く間に燃え上がるだろう?その(すき)に僕がお金を全部掠め取る(かすめとる)のさ。いい案だろう?」


女「でもそんなことしたら、中にいる人は......」


悪「なに、そんなことを気にしちゃだめだよ。相手は君が助けてほしいのに無視して温かい家でディナーを頬張っている家だよ?君は外で寒い中、マッチを売っているというのに」


悪魔はにやりと口角を上げ、少女の目を見ました。少女の目は濁って(にごって)いて、まだ決めかねているようでした。


悪「いいのかい?早くしないとお母さんが死んでしまうよ。それに、奴らが憎いだろう?」


女「....おかあさま........」


悪「そうだ、早くしないと死んでしまう......」


女「何故......助けてくれないの.......」


悪「それが人間という生き物のエゴなのさ」


女「憎い.......人間が....憎い.......」


悪「そうだ、人間が憎い......手を差し伸べてくれない人間が憎い.......」


悪魔はもう一度、少女の目を見ました。

先ほどとは違い、真っ黒な目をしていました。


悪「さあ、たて少女よ、復讐(ふくしゅう)の時間だ......」


少女は立ち上がろうと、かじかんだ足に力を入れました。すると楽に力が入り、すんなりと立ち上がることができたのです。

少女は道端に落ちていたハンカチーフを拾うと、ほっかむりをして顔を隠し、近くの屋敷の裏手に回り込みました。そして、マッチをシュッとこすり、建物に火をつけました。

途端に火は蛇のように素早く燃え上がっていきます。中からは悲鳴が聞こえてきました。


悪「じゃあ、僕はお金を盗って(とって)くるから」


悪魔は炎の中に消えていきます。ゴオゴオと燃え盛る炎の中、悲鳴と野次馬(やじうま)たちのあたふたとした声だけが雪の街に響きます。


悪「お待たせ、次に行こうか」


悪魔はものの数分のうちに戻ってきました。

少女は次の屋敷(やしき)へ向かいます。次の屋敷でも同じように、マッチをこすって建物に火をつけました。火は瞬く間に燃え広がっていきます。中からは人々が逃げ惑う(にげまどう)声がします。

悪魔はまたその隙に潜り込み、お金を盗ってきました。

少女と悪魔はその後、人々の目をかいくぐって街の屋敷をいくつも燃やしました。


女「私を助けてくれない人々なんてみんな燃え死んでしまえばいい」


最初は多少の罪悪感(ざいあくかん)を覚えていた少女も、2件、3件と繰り返していくと次第(しだい)にいい気味(きみ)だと思うようになりました。


悪「さあ、ここが最後だ」


街を見下ろす丘の上にその屋敷はありました。町一番のお金持ちが住む屋敷です。

少女はまたマッチをこすって、建物に火をつけます。町一番とあって、今までみたいにうまくは燃え広がってくれませんが、ゆっくりと確実に燃えていきます。

屋敷の中から最初に甲高い(かんだかい)悲鳴が聞こえました。その後、パタパタと屋敷内を駆け回る足音がします。


女「いい気味だわ。全部全部燃えてしまえ。死んでしまえばいいの」


少女の口からは以前の少女からは到底(とうてい)考えられないことを口走り、カラカラと高笑いをしていました。


悪「お待たせ。いやいや、沢山(たくさん)あって時間がかかってしまったよ」


悪魔はやれやれと(ひたい)をぬぐいます。


女「悪魔さん、ありがとう。もういいわ」


少女は深々と(ふかぶかと)頭を下げます。しかし悪魔は


悪「いやいや、心配だから君をお母さんの元へ送っていくよ」


と言いました。少女はその言葉に甘えて、送ってもらうことにしました。


女「おかあさま、ただいま」


家に帰ると、お母さんは暖炉(だんろ)の火がついたままベッドで眠っていました。少女は枕元に悪魔から預かった、金貨のどっさり入った袋を置きました。


悪「ねえ、ちょっと」


悪魔は家の外に呼び出します。


悪「最後のお願いなんだけど、もう一度火をつけてくれないかい」


少女は悪魔の言う通り、火をつけます。するとどうでしょう。今度は、真っ黒な火がつくではありませんか。少女は驚きました。悪魔を見ると、彼の後ろに異界(いかい)へ通じるゲートがあります。


悪「ようこそ、僕らの世界へ」


悪魔は少女の手をとって引きずり込みました。

あとに残されたのは、少女が持っていたかごと、無数のマッチの燃えカスだけでした。


Fin.

8th, Apr, 2020 企画台本として執筆

企画者の許諾がとれたため掲載







※読んでいただき、また(ボイドラサーチからいらっしゃった方)演じていただきましてありがとうございます。

感想等頂けると今後の創作の励みになります。よろしくお願いいたします。

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