第三話 その後
翌日。
台風一過の秋晴れの中、学校に来た子供や教師は驚いた。
飼育小屋が台風に耐えられなかったのは、まだ想定の範囲内だったとしても。
「こんなに風で飛ばされてくるなんて……」
小屋の残骸が校舎の近くに散らかっていたこと、これは、誰も想像していない事態だった。
そして。
肝心の校舎自体も、無残な有様になっていた。
「ああ、僕たちの教室が……」
「でも、なんで? なんで、ここだけ?」
この学校の子供は、全校生徒を合わせても11人しかいない。だから全学年で一つの教室を――『第1教室』あるいは『教室その1』と呼ばれる部屋を――使っていた。だが、その部屋だけが、ぽっかりと失くなっていたのだ。両隣にある家庭科室と第2教室は、全くの無傷だったのに。
なお第1教室の残骸は、その大半が保健室――校舎の端に位置する小部屋――の周囲に、残りは保健室と第1教室の間――つまり第2教室のある辺り――に散乱していたという。まるで、第1教室が身を挺して、それらの部屋を守ったかのように。
教室を失って悲しむ子供たちの中には、こんな声もあった。
「教室にいた精霊さんは、どうなったのかな?」
「心配だね。無事ならいいけど」
この学校の子供たちは、それまで「自分たちの教室には、精霊とか付喪神とか、そんな存在が宿っている」と信じていたのだ。
非科学的な話ではあったが、彼らは「教室に入ると、あたたかな気持ちに包まれる。でも、たとえば家庭科室や配膳室には、それがないから」と主張していた。
そんな大好きだった第1教室の代わりに、第2教室を使うようになった子供たち。
やがて彼らは、こう言うようになった。
第2教室にも魂が宿っているようだ、と。第1教室の遺志を継いだに違いない、と。
(「ホッちゃんを守れ!」完)