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君の音を、もう一度  作者: 漆葉響
4/7

淡い春①

 日曜、約束の時間の五分前にも関わらず、彼女は待ち合わせ場所で待っていた。何故か、あの親友である美門さんと二人で。驚きもあるが、弓岡さん一人だけではなくて良かった、という安堵の方が強い。

 私服姿は初めてみるが、二人ともTシャツにジーンズというシンプルなものだ。自分もそう変わらない。


 にこにこと笑いながら「おーーい」と僕を呼ぶ弓岡さんと比べて、美門さんは不快感をあらわにした、それでいて驚いたような表情でこちらを見ていた。その表情をみて、ああ、彼女も伝えられずに来たんだな、と、勝手に親近感を覚える。


 そしてその通りだったようで、僕が約束場所についてすぐに、

 「…なんでこの人がいるの?」

 と弓岡さんに聞いていた。全く同感である。

 それに対し弓岡さんは、

 「えっ?だめだった?いいじゃん、多い方が楽しいよ!律くん、来てくれなかったらどうしようかと思ったよー」

 その可能性はあった。本当に、どこまでも勝手だ。まあそれなら。

 「…じゃあ僕は」

 小さく言ってそろりと背を向けると、ぐっと腕を掴まれる。あぁ…、と思いながら恐る恐る振り返ると、また満面の笑みで言う。

 「まさか帰る気じゃないよね?」

 怖い。目が笑っていない。

 僕は早々に諦めて、おとなしく彼女についていく事にした。美門さんは不機嫌なままだったけれど、もう諦めたようだ。はぁ、っというような溜め息をついて、弓岡さんと並んで歩き出す。


                 *

      

 これから昼食を食べるらしい。駅の周りには、多くのビルやショッピングモールがあり、その中にファーストフード店やカフェ、レストランなど、様々な店が並んでいる。食べ物以外にも、雑貨店、本屋、洋服店、ホームセンターまである。


 「お昼さー、どんなのがいい?」

 駅周辺をゆっくり歩きながら、弓岡さんが僕らに聞く。

 「静かなところ」

 「人混みがないところ」

 美門さんと同時に応えるが、自分で話を振ったわりに弓岡さんは聞いていない。スマホやマップのようなものをみて、うーんと考え込んでいる。美門さんからは軽く睨まれる。本当に僕はなんのために来たのだろうか。女子だけで楽しめば良いのに。何度思っても、来てしまったのだから意味がないのだが。

 僕の心情とは裏腹に、爽やかな春の風が駆けて行く。



 結局、聞かれた僕らの希望は打ち砕かれ、高校生から家族から、多くの人が賑わっているファミリーレストランのような所で食べる事になった。こういう所はめったに来ない

 まぁ、友達もなにも、人との関わりがほとんどなかったのだから当然だ。

 

 注文は、僕はドリア、弓岡さんは散々迷ったあげく、美門さんと同じスパゲッティだった。それに三人とも飲み放題の安いドリンクバーのセット。全体的に、学生には有り難い値段だ。頼んですぐに料理がきて、混んでいるのに早いなと妙に感心する。


 食べ始めてすぐ、美門さんが口を開く。

 「…今日はなんの為に?」

 それは僕も聞きたい。

 「えーとね、仲良くなる為!」

 弓岡さんが答える。

 「……別にこのメンバーで仲良くなる必要なくない?」

 聞いてもらえる気はしないが、一応言ってみる。美門さんは賛同の目を向けるが、当の本人は笑顔のままスルー。

 「ではまた自己紹介をしましょう!私から。弓岡奏、15歳、趣味は人と仲良くなる事!特技も同じ。次、舞」

 勝手に進行を始めた。それに、学校で同じ事を聞いたと思う。


 美門さんはもう完全に諦めたようで、言われるままに自己紹介を始める。

 「…美門舞。趣味と特技はヴァイオリンを弾く事。終わり」

 「舞はね、小さい頃からヴァイオリンが弾けて、この学校でもオーケストラ部に入るんだよ!」

 弓岡さんが説明を加える。一年生はまだ部活に入ってはいないが、少し経つと勧誘やらなんやらの部活紹介が始まるらしいが、絶対に入らなければいけない、というものではない。オーケストラ部という部活があるのは初めて聞いた。

 今のところ部活に入ろうとは思っていない。


 次は僕だ。二人にうながされ、喋り始める。

 「…秋音律。趣味は特にないし、部活も入ろうとは思ってない。……平和に過ごしたい。以上」

 本当に平和に過ごしたいのだが、平穏な日常をぶち壊してきそうな人に出会ってしまった気がする。

 「ふーん、平和ね。律くん、そういえばクラスの自己紹介で成績が普通に取れればいい、とか言ってたけど、この前のテストどうだったの?」


 この前のテスト、とは、入学前の事だ。受験などではなく、進学校だからか、普通なのか、入学前──春休み中に、受験合格者でテストがあった。クラス決めや、自分の最初順位を理解する為のものらしい。この結果は学年で発表されたりはせず、自分だけが分かるものだ。国・数・英・理・社の五教科だ。

 結果は、金曜に貰った。入学して一週間も経っていないのに、早すぎるんではないかと思う。だが、学校側としては、もうすぐ次のテストがあるので、これでも遅い方だと言う。


 「……さあね。君たちは?」

 とりあえず答えないで聞いてみると、えっ?、というような顔をされた。何か可笑しい事でも言っただろうか。こっちもえ?っという心境になっていると、弓岡さんが口を開く。

 「律くん、入学式いたんだよね?」

 いきなり何を言う。その日に会ったのではなかったのか。

 「いたよ。それが?」

 今度はえぇー、とでも言うような表情になる。

 「…本当に周りに興味ないんだね~。…入学式の新入生代表の答辞読んだの、舞だよ」

 答辞という事は…、受験で一番の成績だったと…。

 「…じゃあ、入学前のテストも美門さんが一位?」

 「そうだよ!すごいでしょ」

 何故か弓岡さんが胸を張って答える。

 本人である美門さんは、何が面白いのか肩を震わせて笑っている。悪い認識をうけてなければ良いが。

 「ああ、すごいな。…じゃあ弓岡さんは?」

 一応聞いておく。

 「二十七位。舞とは並べないけど、結構良い方」

 結構もなにも、学年400人以上いるのだから、頭が良いという事だ。

 「それで?秋音くんは何位なの?」

 やっと笑い終えた美門さんが聞く。もうすっかり機嫌も直ったらしい。

 「当てる!五十位くらい!」

 弓岡さんが話に入ってくるが、当たっていない。

 「…違う」

 「えぇー、じゃあ百位くらい?」

 下げるのか 。

 「…違う」

 「じゃあ五十位より高い?低い?」

 今度は美門さんだ。

 「…高い」

 誘導尋問か。

 「じゃあ二十位より高い?低い?」

 続けてきかれ、それだったら私負けちゃうじゃん、と弓岡さんが文句を言う。

 「……高い」

 「えぇ!?」

 言った瞬間、弓岡さんが叫んで立ち上がる。大袈裟すぎる。そして店内だった事を思い出したのか、すいませんすいません、と頭を下げながら座り直し、また僕に聞き直す。

 「じゃあ何位?」

 「……五位」

 答えると、叫びはしなかったものの驚きの表情で僕を凝視する。だから大袈裟だ。隣りに学年一位の人がいてそんなに驚かれても困る。

 「頭良かったのね」

 今度は美門さんだ。どう思われていたんだか。弓岡さんは、負けたぁ…、とガクンとわざとらしく萎れている。

 それでも、いつの間にか頼んでいたデザートが来るのを見て目を輝かせる。よくそんなに食べれるな、と言うと、デザートは別腹だよ!と言い返される。でも一食食べているじゃないか。

 僕と美門さんはドリンクバーのコーヒーを持ってきて飲む。


 「これからどうするの?」

 弓岡さんもほとんど食べ終わり、落ち着いてから弓岡さんに聞く。

 「今日?」

 「あぁ」

 「今日はねー、まず書店行ってー、あ、律くん本好き?」

 「……好きだけど」

 本、特に小説は、中学の頃くらいからずっと好きだ。だから、小説家や作家を僕は尊敬している。

 「そっかー、私も舞も本好きなんだよ!」

 隣で美門さんがうんうんと頷く。偏見なのはわかっているが、美門さんはともかく、弓岡さんが本を好きなのは意外だ。

 「で、書店行ったあとー、は、その時になってのお楽しみ!」

 弓岡さんは、また意味深な笑顔を浮かべて言い切った。

 この嫌な予感や不安が、当たらない事を願いたい。



読んでくださり有り難うございます!

この話は①と書いてありますが、いくつかにわかれます。とりあえずこのデート(?)編は淡い春です。

恋愛系を想像してくださっていた方には裏切られた感のある話になったかもです。

でも舞もいい子ですから……。なんか律がキャラ崩壊していたらすいません……。

次回も宜しくお願いします。

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