表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の音を、もう一度  作者: 漆葉響
2/7

出会い

「─綺麗きれいだね。君の音」




 ビクッと反応して、声がする方を見る。




 すると、一人の少女が、入口の方でにこにこしてこちらを見ていた。




 緑のネクタイ。この学校は、学年ごとにネクタイの色が別れていて、一年生は緑。ちなみに、二年生は黄色、三年生は青。だからこの人は僕と同じ一年生。


 


 でも、クラスの人も把握していないから、何組かはわからない。




 「あれっ?もしかして、気づいてなかった?」




 「…あぁ、気づかなかったよ。君は誰だ?」




 集中しすぎて、人が入ってきたのに気が付いていなかったらしい。いつからいたのか。




 「ねえ、今の曲、何て言う曲?聞いた事ないんだけど」




 人の質問を無視しないでほしい。




 「知らない。こっちが聞きたいくらいだ。それで君は?」





 「私?あっ、そっか。言ってなかったね。私は弓岡奏ゆみおかかなで。奏って呼んでいいよ。……もしかして、幽霊とでも思ってた?そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。私ちゃんと生きてるから。君は?」




 そんな事を、今度はニヤニヤして言いながらこっちに近づいてくる。





 「秋音律あきねりつ。僕は幽霊なんて非科学的なもの、信じていないからね。ニヤニヤしながら喋りかけてくる人に警戒はするけど。…それで君は何でこんな所にいるんだ?」





 「そんな言い方ひどいなぁ。モテないよ。でも律くん、それは君もだからね?私は、校内の探索をしてたら音楽室から音がして、気になって来たんだよ」




 余計なお世話だ。




 というより、音が漏れてたか。他にバレてなきゃいいが。





 ん?探索?





 「…探索って何だ?」





 「…えっと、気付かれなければいいかなって思って、入学式終わった後、勝手に入って歩いてました」




 奏はエヘヘっと目をそらす。





 「それで律くんは何でこんな所にいるの?」




 「…忘れ物を取りに来たら、目に入ったから」




 と言うと、それだけで?、みたいな顔をされた。うん。それは僕も思う。でもそっちも大概だ。




 「それで!今の曲の題名は?」




 「…思い出せないんだよ」




 「えっ?誰の曲?」




 「…父さん。秋音俊秀あきねとしひでって聞いた事ないか?」




 「えっ、すごい有名な人じゃん。お父さんなの?!」




 まあ、その反応が普通か。昔から何度も言われてきて、もう慣れた。




 「えっと、じゃあお母さんが夢野瞳ゆめのひとみ?あのピアニストの」




 夢野瞳と言うのは母さんの活動名で、父さんと結婚する前の本名だ。今もその名前で活動している。




 「…そうだよ。良く知ってるな」




 「そりゃあそうだよ。私ファンだもん。…すごいけど、いつ発表された?聞いた事ないよ」




 その年で母さんのファンは見た事がない。趣味がよく分からない。




 「…発表はされてない。…僕の家族しか知らない」




 「へぇー、それで曲名が思い出せないと。じゃあ、お父さんに直接聞けばいいんじゃないの?」




 「………最近は連絡取ってない。…忙しいみたいだし」




 「…ふーん、そっか」


 


 僕の微妙な反応に察したらしい。一度口を閉じる。




 それでもすぐに喋りだす。




 「でもさ、今のメロディーが一瞬入ってる曲なかった?ちょっとそこどいて」




 といいながらピアノの方に近づいてくる。そういえば、ずっとピアノの椅子に座ったままだった。言われた通り椅子からおりると、奏がそうっとそこに座った。




 「…聞いててね」


 


 そういって鍵盤に手をおき、静かに弾き出す。




 上手だった。




 そりゃあプロには及ばないけど、何故か母さんを思い出した。どこか似ている所があったのかもしれない。




 「……ここだよ」




 「ん?」




 「律くん聞いてた?今のとこだよ。似てるとこ」




 「…ピアノ、弾けたんだな。……今のとこもう一回弾いて」




 「なんだその言い方は。似合わないみたいな。やっぱり君モテないでしょ。…まぁいいよ。弾いてあげる」




 怒ったように言いながらも、すごく楽しそうだった。




 そしてすぐに弾き始める。






 「──あっ」


 


 「そうだよ。分かった?今のとこ」




 「あぁ。そうだな。……父さんの」




 すぐに分かった。父さんの代表作。




 「うん。同じ人が作ったから似てるところもあるんじゃない?曲名何だっけ?」




 「…僕は興味のない事は覚えない主義でね。」




 「…忘れたの?ちょっと待って、調べてみる」




 と言うと、鞄からスマホを取り出して調べ始めた。






 少し立って、奏のスマホがヴヴと震えた。


 


 そして突然「あっ!」と叫んで立ち上がる。




 「今日早く帰るっていってあったんだ!忘れてた」




 いそいそと荷物をまとめはじめる。




 「…へぇ、じゃあ急いで帰ったら?」




 「そうだね。それじゃあ律くんごめん。またね」




 言うなり笑顔でバイバイ、と手を振って帰った。




 「……嵐みたいだ」




 本当に嵐みたいな人だ。僕だったら、初めてあった人間にあんな馴れ馴れしくしゃべったりしない。しようとも思わない。




 あう言う性格なら、彼女の周りは賑やかなはずだ。明るく人がいいと、周りは寄ってくる。何もしなくても愛される。多分彼女には、彼女の帰りを待つ家族がいるのだろう。暖かく受け入れる家族が。幸せな家庭が。




 まぁ、何にしても、もう僕には関係ない。学校が同じでも、学年が同じでも、関わらない種類の人間はいる。僕が彼女にしてそうなように、彼女だってもう僕には関わらない。




 …そう、思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ