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白い蜥蜴

作者: 蜥蜴の蜘蛛

「蜥蜴が笑い雪が降り落ち、熊が鳴く。」


和服を着た男は扇を肩から回して唄う。


「今宵、話す話は今から百もの年をさかのぼり、とある男児の酔い話。


夢か現か果ては幻。終わりの知らぬ酔い男児こと、酔いの介の話でござります。」


男が扇を振い世界が廻る。


パチパチと焼ける薪の音が家の中で響かせる。


外は夜で雪も降り積もる中、なぜ薪で暖を取るのかと聞かれれば、火鉢をそこらに捨ててきたとしか答えられない。


どうしてかと聞かれれば割ってしまったと答えるだろう。


実際は朝起きるとなくなっていたのだが。


しかし薪が燃えているのを見るといやに落ち着き、ウトウトと眠ってしまいそうになる。


既に成人を終えて、一人になったのにやはり未だ変わらない。


襲い来る睡魔を押さえつつ、暖を取る理由はとある友人を待っているのだ。


その友人は他人にやさしくが自身の目標なのか、嫌に他人を甘やかす。


美人な女であれば男どもがこぞって求婚するかもしれないが残念ながらあ奴は男であり、


しかも他人のために借金まで背負う病的なまでに優しい大馬鹿者だ。


そんな友人は今でこそ健康であるが前までは自分の飯さえ危うかったのにその飯を食う金さえ、

他人に渡したのだ。


そして借金の返済も終わる前に倒れてしまい、最終的に出張ってしまったのが私なのだ。


借金は友人の持っている家などを売って、残った借金を代わりに払い、友人を家に引き入れた。


友人は感謝をすると同時に謝罪をしてきた。


別に嫁もおらず、引き入れるつてもない。


だから別にいても問題ない、と言ったらもう一度友人は感謝をした。


仕事の伝手はあるかと聞けば借金を背負い始めた時から私のほかに話をする人はいなくなったという。


仕方がないので最初の頃は藁沓を作らせた。


今では家の裏手にある山で山菜を取らせている。


だが稀に、困った物事を引き入れてくることがある。


怪我した犬を連れてきたり、困った人を助けるために動いて、仕事をおろそかにしたり、

昨日は昼下がりに白い蜥蜴を連れてきた。


聞けば、寒さに震えていたという。


火鉢の近くに白い蜥蜴を置いて暖を取らせると活発に動き出した。


しかしどうしたものかと困る。


何せ、犬は飼ったことはあっても蜥蜴はあまり知らなんだ。


エサは何を食うのかと思いつつ晩飯の用意をする。


晩飯は雑穀と山菜を入れた味噌汁。


それを二人分作った。


食べていると白い蜥蜴が近寄ってきた。


「腹がすいたのか?」


友人はそう言って雑穀を一つまみしてそれを蜥蜴の前にする。


すると蜥蜴は思っていた通り腹がすいていたようですぐさま食べ終わり、此方を見る。


まるで催促しているように見えたので何度か同じように食べさすと火鉢の近くにまた戻った。


飯を食べ終わり、台所の火を消して床に就く。


眠りについて、雀の鳴き声で呼び起こされる。


火鉢をいじろうと見まわすも、昨日の夜に置いてあった場所にはなく、後から起きた友人に聞いても知らないという。


泥棒であれば他の物も盗むであろうはずなのに不思議と火鉢以外何もなくなっていなかった。


強いて言うならば白い蜥蜴がどこかに消えていた。


だがあの体では持ち運びは不可能だろう。


狐に化かされでもしたのだろうかと思いつつ、台所で薪をくべた。



雪の降る中、唐突に玄関の扉が勢いよく開く。


驚きで眠気が吹き飛び、玄関を見ると息を切らした友人が居た。


その表情は走ったせいだろうか苦し気で今にも倒れそうだった。


「どうした!?」


慌てて駆け寄る。


「、、く、、、熊が出た、、、」


息を切らしながら友人は言う。


熊。


今は冬、熊が出ることは今まではなかった。


熊は冬ごもりをするので冬は安心していたがいるのであれば山には当分いけない。


いや、もしかしたら山から熊が下りてくるかもしれない。


「どこにクマが出た?」


できるだけ冷静に聞く。できれば裏手の山ではないでほしいそう思いながら。


「裏手の、、、山で、居た、、」


そう言って家の中で横にさせる。


現実は厳しい。


裏手の山であるならすぐに下りてくるだろう。


今動くべきか、いやだが、昼間出ないと凍えてしまいそうだ。


近くに家はなく、逃げることはできない。


そう思っているとガフ、ガフという声小窓から聞こえてくる。


なんだと思いそちらを見ると見ていた。


そいつは黒い目で。


黒い毛並みのそいつは音もなくそこにいたのだ。


驚き、叫ぶ。


扉を力いっぱい閉める。


何故いたのか、いつからいたのか。


扉に物を置こうとするが勢いよく扉は押し出され、壊れる。


幸いにもまだ扉は完全には破られていないがあと少しで熊が通れるぐらいに壊れるだろう。


近くにあった包丁を手に取る。


せめて刺し違えて、、、


そう考えていると天井から長い何かが落ちてきた。


それは蛇だった。


落ちてきた蛇は此方に見向きもせず一直線に熊へと向かう。


そして熊に噛みつく。


熊は噛みつかれたと同時に蛇を振り払い、逃げようとする。


しかし5歩、6歩と歩き、倒れる。


そして突如として熊に雪が木から大量に落ちていく。


唐突に起きたことが信じられずに、何度か瞬きをしていると、


壊れた扉から昨日火鉢とともに消えた白い蜥蜴が少し長い枝を咥えて家に入ってきた。


その顔はどこか笑っているように見えた。


白い蜥蜴が台所の薪の火を枝に着けてまた、扉の外へ向かう。


それを見ていると意識が遠くなっていった。



寒さに目を覚ます。


いつもであれば布団で目を覚ますのだが今日は台所で包丁を持ちながら目を覚ました。


寝ぼけた頭が壊れた玄関の扉を見た瞬間、はっきりとする。


昨日、確か、熊に襲われて、と


助かったことに安堵すると同時に昨日のアレが夢ではなかったことに驚愕する。


余りにもおかしなことで、それを確かめるために外に出る。


外には熊の足跡が残っており、山から続いていた。


そしてその足跡は落ちている雪の塊で消えていた。


家の中から掬桑を持ってきて、雪の中を見る。


そこには少量の血が混ざった雪しかなかった。


夢であれば扉は壊れていないし、血や足跡があるわけもない。


ならば現実なのだろうか。


そう思い、家に戻る。


すると友人が起きてきた。


「昨日のことを覚えているか?」


そう聞くと、「熊にあって家に急いで帰ってきたところまでなら」

という。


私は友人に昨日のことを話した。


熊に襲われたこと、蛇が助けてくれたこと、白い蜥蜴のこと。


すると友人は最初は半信半疑だったが、家の周りなどを見て信じてくれた。


そして友人は言った。


「社を立てよう。」


そう言われて二人で社を立てた。


そして供え物をし、毎日のように赴いた。


あれから時は経ち、酔いの介は友人と共に嫁を貰い、子宝に恵まれた。


そしてその子供は酔いの介の生きているうちに町を起こし、繁栄させたのだった。



「いやはや、何とも不思議な話です。

白い蜥蜴は幸運を呼ぶとも言われておりますが、その幸運も彼が優しかったからでしょうか。」


和服の男は思い出したように話す。


「そうそう、蛇足ですが、酔いの介の子供の起こした街でございますが、代は変わりましても、今もなお繁栄しております。一度行ってみればいかがでしょうか。」


男は扇を閉じる。


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