『Timor Rinnirace scriptor』
「〜ーーぎゃああっ!!やめてくれぇぇ!!!」
「ひい…っ」
「何て酷い…光景なんだ……」
ーーざわつく広間。男の悲鳴と其の原因たる光景に慄き、恐怖に引き攣る。
スノウルによって連れて来られた数十名の負傷者及び病症者達がリンニレースの加護を受けている最中であった。
然し、其の加護は此の癒都で普段行われている様なものでは無く、沈黙する女神による「強制的な再生行為」が行われていた。
「うぐあああああああっ!!痛い…!痛い…!!」
「黙って下さい。貴方の傷を治しているのですから…」
リンニレースの声は異様に低かった。
「うっ…うう……こ、こんな事になるなんて聞いてなんかいないぞっ!!う…腕を離してくれ!!女神様!!!」
「黙れって言ってるだろうが!!!!!!!!」
ぎり、とありったけの力が男の腕に込められた。リンニレースに掴まれている腕がミシリと音を立て、男の表情が更に苦痛で歪む。…手摺に寄り掛かっているスノウルの表情はその光景を歪んだ喜びと共に見詰めていた。
「うわ…っ…」
「恐ろしい…あれがリンニレース様のお怒りなのね……」
「めがみさまこわい…」
「女神様は何故お怒りになっているのだろう…」
一連の光景を見ていた他の者達は更成る苦痛に苛まれる男の姿、怒りを露わにする女神の姿に恐れた。
同時に、男がもしやられてしまったら次は己ではないか、という恐怖にも苛まれていた。
「……………………。」
リンニレースの再生の力が更に力を増した。
回復に集中しているのか、それとも蟠る心に自閉しているのか、無言となり俯いている。
込められた力に身体が許容出来なくなっているのか、男の腕はボコボコと形を変えている。
「ひ………っ!」
自らの腕が回復によって悍ましく変化する様子に恐れを成し、後ずさろうとするも女神の放つ無言の圧力が男の身動きを封じた。
(うわ、リンニレースさんこわいなw)
スノウルは自分の表情が酷く酷く歪んでいる事に気付き、其の歪んだ歓喜の表情を見られない様に俯いた。
「うぎゃあああああああっ!!!!!!!!」
男の悲鳴混じりの叫び声が広間に木霊した後、男の全身がボコボコと形を変え、挙句の果てにその身が弾け飛んだ。
パァンッ!!と、まるで水の入った風船が弾け割れる様に、男の身体は張り裂け、其処に残ったのは男であったモノと、その血に塗れて恐ろしく口の両端を吊り上げながら嗤うリンニレースの姿であった。
「ひ…っ、きゃああああああああっ!!!!!」
「うわあああああああ!!か…身体が!!彼奴の身体が!!!!!」
「おかあさああーーーーーん!!!!!!こわいよおかあさあああああああん」
「イヤアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
「な…何故だ…何故癒やしの女神である筈のリンニレース様が……!!!」
連れて来られた者達の悲鳴と叫びと、そして其々が抱く女神への恐怖。
人々に慈しみを与える筈の偉大なる女神が、何の躊躇いも無く残酷に無辜の民を殺したという、見たくは無かった側面。
残った者達は皆一斉に震え上がる。自分が女神の怒りに触れる様な事はしていない筈なのに、女神は守るべき存在にすら無慈悲であった。
其処に居る者達は悟ったであろう。
「自分達人間は、女神によって守られながらも女神の機嫌を損ねただけでも、最初から機嫌が悪かっただけであっても、彼女達によって惨たらしく虐殺されるのだと。所詮自分達は女神にとっての都合の良い玩具でしか無く、命すら掌の上で踊らされるだけでしか無いという」事をーー
「あっははははははは!!!!!あっははははははははははははっ!!!!!!!!!!!!」
リンニレースの笑い声が悲鳴に覆い被さる様に響き渡る。女神の持つ高潔さも美しさも其処には無い。殺人鬼と何ら変わらない惨さと醜さが其処にある。
「わーリンニレースさんが壊れたーいいぞもっとやれー」
スノウルは彼女の様子を遠目から見ながら、リンニレースを囃し立てた。
「ふふふ…あははは!!皆さん、まだ特別施術は終わってませんからね。皆さんの事も先程の方の様にしてあげますから!!!!!」
見開かれた目をギラつかせながら迫るリンニレースに怯え逃げようとするものの、扉は固く閉ざされ脱出は叶わない。
彼等は己の運命を呪った。
ーーリンニレースの廷には、連れて来られた者達のあらゆる悲鳴が響き渡った。




