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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Amore ardens summa superbia(熱愛と傲慢)
87/91

『Nigrum clade mobilissimum』

「ーーはああああああああっ!!!!!!!!」

急先鋒をレミエが取った。彼女の動きは至極洗練されており、隙が無い。

「桜瞬脚!」自身の身体能力を強化し、空かさずシーフォーンの懐に入った。そして、手にした白銀の刀剣を以てシーフォーンの身体を両断せしめん、と彼女の目の前で陽聖天を放つ。

「わっ」対する女神シーフォーンは、レミエの素早い動きに驚きつつも余裕を持っていた。彼女の放った陽聖天を容易く避け、後ろへ二、三歩程の距離を開ける。

「おっとと…危ない……」シーフォーンは己の身体のバランスを整え、そして其の場で姿を変えた。









ーーオーファニムベルディーン。流れる金の髪に静謐の青を宿す瞳。背に携えるのは金の装飾を持った大きな白翼。

本質を知らぬ者が彼女を見れば、正しく女神其のものであり、美しさ故に魅入られる者は多いだろう。 女神の信奉者ならば、其の場に伏せ尊び、彼女が望むならば絶対的な讃歌を歌いながら己の命を差し出すだろう。

























女神態(デアフォーム)へと姿を変貌させた彼女は先鋒を切ったレミエへ対し圧縮した光を解き放つ様に光線を放った。

「っ、月喰闇(つきはみやみ)!!」レミエもまた自身の能力を展開して其の場に暗い場所(フィールド)を形成する。

展開された闇の様な場所は、一行を守る様に包み、女神の放った光線を吸収、そして反射した。

「……っ!!!」女神は反射された己の力を(おもむろ)に喰らうも、全くの無傷。




「何て防御なのでしょう……」レミエが僅かに悔しそうにするが、対する女神の表情にレミエは思わずゾッとした。

ーーシーフォーンが嗤っている。

其の笑みの意味に気付いた時、既に遅かった。














































「エムオル!!?」

突如、エムオルが復讐者に攻撃をした。エムオルの様子は可怪しく、復讐者への敵意に溢れている。

「エムオルさんっ!!どうし…きゃっ!!!」レミエが復讐者へ加勢しエムオルを止めようとした其の時、横から妨害される。

受け身を取る事も儘ならず、見遣った先には冷たい表情のエインが立っていた。

「エイン…さん」レミエの表情は驚きと動揺に溢れ、酷く戸惑っている。


一行の対立を嗤いながら見詰めるシーフォーンが其処に居た。

















「………あははははっ!!!どう?厄介でしょ?貴女は私の光線を吸収して私に返しましたが、私が無傷なのは当然です。…だって、本質は攻撃ではありませんから」

あっはっはっ!!と嗤いながら己の能力を話したシーフォーンは、自身の力で洗脳した二人に、命令する。

「ーー其の二人を殺しなさい!!彼等は叛逆者、私を殺そうとする愚か者です!!!」

宣告のように手を伸ばした女神による、仲間殺しが始まった。





















































「…くそ、エムオルもエイン…も!!!」復讐者がエムオルを相手に取る一方、レミエもエインを相手取る。

然し、相手は仲間である二人。例え女神の洗脳を受けていたとしてもーーレミエにとっては掛け替えの無い存在であり、また出来れば敵対したくなかった者達。

復讐者の方は苦戦しつつもどうやら応戦してはいるらしい。…だが、レミエにとっては応戦すら躊躇ってしまう。

故に防戦一方に徹する。



(女神の能力……何て卑劣……な…っ!!)防戦一方の為復讐者よりも苦戦を強いられる中、其れでも彼女は展開する。

刻天陣(こくてんじん)で己の身を守るしか方法は無く、先程展開した月喰闇を使えばエインに危害を加えてしまう。

ーー女神は分かっていたのだ、同士討ちさせれば片付く事を。

だからーー













































「ーー〜いいいっいい加減にせんか元ヤンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」























































ーーカァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!!



































争いを苦にするレミエの隣を颯爽と飛び出し、何故か真っ黒なバットに変えた報復者の剣でエインの武器を弾き飛ばし何と彼は容赦無くエインを吹き飛ばしたのである。

エムオルの方向に。




「えっ!?」突然の事ばかりで戸惑うレミエを余所に、復讐者に吹き飛ばされたエインは其の大きな体躯でエムオルに直撃、二人は庭園の壁に打つかった。

そしてエインの武器は、高みの見物と決め込んでいた女神シーフォーンの頬を掠り、彼女の肌に一筋の赤い線を作った。

「…………………………え?」女神が一瞬の出来事にぽかんと呆気にとられ戸惑う中、復讐者は酷く怒っている。女神へ対する憤怒とは違い身内や親しい者へ対する感情の其れだ。

『……やるじゃないか復讐者、ホームラン』此処にきてまさかのニイスの言葉にもレミエは驚いたが、最もなのは復讐者本人だ。彼は壁にめり込んでいる二人を引き抜き、二人の胸倉を掴んで叫んだ。




「伸びるな!!女神が居るんだぞ!!!起きんか!!!!!エムオル!!お前が勝手に人のモノ持って売ろうとしていた事も私は知っているし、其れとエイン!!起きないとお前が元ヤンだった頃の黒歴史を此処で吐くぞ!!!!!!!!」

復讐者がそう一喝すると、エインとエムオルの両者は物凄い速さで目を覚ました。

「お待ち下さ…!!はっ、……あれ」

「ひぇ、ごめんなさい、だよ!!!」

どうやら彼の言葉で我に帰ったらしく、二人共必死な様子で焦っている。




















































「…………………………嘘、」女神シーフォーンは復讐者達の行動に更に動揺する。

私の洗脳は絶対的な筈なのに、と絶対者ならではの自信を持っていたからであり、だからこそ状況の打破を目の当たりにして戸惑っている。



(馬鹿な嘘だそんな嘘だ嘘だこんなの違う馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なこんな筈は違う違う違う私は絶対なのにどうしてどうして私は強いのに私は私は私は私は違う違うこんな筈無いこんなのおかしい駄目だ駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目おかしいって違ういや嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌………)


シーフォーンの動揺は次第に彼女の身に変調を来し、遂に彼女は其の場で吐き、動悸と咳込みをし始めた。

虚弱の代償ーー

其の場で崩折れ、苦しみ始めたシーフォーンに、一行は視線を女神へ向ける。









ーー復讐者達相手に、通常困難である女神態への変貌を行き成り使用したのだ。

絶対の力と引き換えに請け負った代償の内、全員には狂気と、そして女神に呼応し夫々個別の代償を背負わされている。

シーフォーンの場合は"虚弱"、…人間の頃に告げられていた「成人するまで生きられる可能性は低い」事と、「余命宣告」の原因であるとある病が代償の理由である。

「難病を克服し絶対的な力を得る」選択肢を選び取った代わりにーー彼女は人並みが有する筈の理性を失い、また健常者よりも虚弱の体質となるという結果を得る事となった。


最も、死ぬ事を嫌がった彼女が"他人の幸せや命を踏み躙って我が物にしてでも生き続ける"…………「他者の血や涙で染められた殉教の赤」を選択したからかもしれない。












































「ーーシーフォーン、苦しいのか?…楽にしてやろうか」

復讐者は其の場で(うずくま)り悶え苦しむシーフォーンの頭に銃を突き付ける。

「あ…あぁ………うう…………………………」女神は復讐者の言葉すら聞けぬ程の苦しみの中で必死に生き藻掻こうと振る舞う。自らに銃を突き付ける復讐者に向かって、鬼気迫る睨みを返した。



「…………其れが答えか。殺してやる」

復讐者が引鉄を引いた其の時、女神を中心に大きく気が動いた。

「!!!!!!!!」空間の変化に逸早(いちはや)く反応し飛び退いた復讐者と、自体を目の当たりにした仲間達の双眸の見開きに対して、女神の身体は捻じれ、変質し、更に変わってゆく。

「ーー……うううあああああああああ!!!!!!!!!!」女神の声は獣の咆哮に等しい叫びで、グニャグニャと空間の歪みに合わせて女神の姿も歪んでゆく。

ーー…そして、見目麗しき女神の姿は其処には無く。




























































ーー其処に()()のは、女神に似つかわしく無い者だった。




正しく、「災い」が形取った様な存在だった。

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