『Cecidit hodie caput ーⅢー』
ーー【女神リンニレースサイド・リンニレースと追従者】
「ねえ聞いてスノウルさんー…」
リンニレースの少しダラけた声が、彼女が見ている者の方へ向けられる。
「リンニレースさんどうしたんですか」
彼女の言葉に返答するかの様にややダウナー気味な声音がリンニレースに向けられた。
「…何かね、■■■■ちゃんが私の廷で見知らぬ人に会ったんだって。しかも私に会う迄■■■■ちゃんの傍に居たらしい…」
「ふーん、アレか、幽霊」
「ひぃ待ってスノウルさんまで怖い事言わないで…!!リンニレス氏おばけとか苦手!!!」
きゃーん、とリンニレースが恐がっている。女神の癖に幽霊が苦手らしいのは事実な様だ。
「いやだって見たこと無い奴で傍に居たのに突然居なくなってたとか正に幽霊以外の何者でも無いしスノ氏はリンぴっぴに対してもうそりゃ幽霊と断言するしか」
「ひぃやだやめてよ〜」
「あっリンニレースさんの背後に何か居る」
「ぴゃ!!!」
リンニレースの身が思わず飛び跳ねた。
「嘘ですよ嘘、居ない居ない」
スノウルは面白そうにリンニレースをからかっただけであった。からかい楽しんでいる反面スノウルは内心(ひぃとかぴゃとかコイツいい年してちょっとキモい)と思っている様であったが。
「…はぁ気が滅入る」
「気が滅入るなら幽霊対策すればいいと思いますよ〜」
「でもお札的なものなんて無いよ!?そういうの撃退出来る奴なんか…」
「そりゃ仕方無い、じゃあリンニレースさんが自力で何とかすればいいのでは?だって何かすっごい力使えるんでしょ女神って」
「はわ!そう言えばそうだよね!!リンニレス氏の回復の力で…回復って幽霊倒せるのかな」
「別に出来るんじゃないですかね某白○の回復魔法でゾンビとか倒せますし」
スノウルはリンニレースの言葉に対して相変わらずダウナーな態度で返してゆく。相手をする程の気力はあるがどうも面倒臭そうな様子である。
「それはゲームの話でしょスノウルさん!!」
リンニレースはもーっ!!とでも言いそうな勢いだが、対するスノウルはやはりやる気が無かった。
「…はーそんな事言ってる暇あるなら先ずやるべき事やっときましょうやリンニレースさん。不審者の線だってあるし精鋭配置しときましょう、裏門にも一応めっちゃ強いの置いといておけば万全」
「あーそうですね!!スノウルさんやっぱり凄いなー!」
うっかりとした様子のリンニレースがスノウルの言葉に気を持ち直し、改めて対不審者用の配置と罠の起動の用意を求め始めた。
「リンニレースさんって気を病みやすいし抜けてる割には毅然としますよね」
「えー褒め言葉ー?リンニレス氏嬉しい〜」
リンニレースはスノウルの言葉を聞かながら準備に徹している。そんな様子を座りながら眺めるスノウル。まるで関係性が真逆に見えてしまう。
「…w、そう言えば毅然としていたの、あの時の事を思い出すなー本当、って」
リンニレースの手が止まる。
スノウルの放ったあの時、という言葉はどうやら彼女の琴線に触れる発言であるらしい。
「……………あの時……………………」
リンニレースの手が震え始め、彼女の顔色が変わる。スノウルは心無しかその様子を楽しげに見つめている様だった。
(………が悪いから、どうか皆さん…を訴えれば全て……じゃないですか…)
『ーー…ってなんですか?素直に……と言えばいいだけの事じゃ無いですか………〜』
(…して貰えるなんて有り難い………)
『ひぃ駄目だ引きこもる』
(…の………ラインでは見えない事をいい事に空…プで投げている……)
『…ぁぼするのも、…するのも、フォローするのも勝手にしていいから、そっとして放っといて欲しかった』
「……………………、」
がたがたと震えるリンニレースの身体、俯いて見えない表情は恐らく酷く息を詰まらせていそうな表情なのだろう。
「リンニレースさん?」
スノウルが彼女の顔を覗き込もうと身を屈める。スノウルの思った通りの表情をしていたリンニレースを見てか、彼女は口元を僅かに歪ませた。
「……………スノウルさん」
震える声で、リンニレースはスノウルの名を呼ぶ。
「………気分が悪いので、傷付いている人を数十人程集めてきて下さい」
「数十人程?数百じゃ無くて?何時もの事ならリンニレースさんが一声出せば勝手に…」
「そういう事じゃ無いんです!!…っ兎に角っ集めて!今すぐ!!表向きにしない様に!!!」
リンニレースの切迫した様子に、スノウルは其の意図を察した。
「……リンぴっぴも人が悪いですよね、…ああ、そう言えば人じゃなくて女神だったか。おお怖」
リンニレースが隣で震える中、スノウルの表情は最も悍ましく歪んでいた。




