『Quis loquetur potentias Silentium』
『………、良かったのかい、復讐者』
黒い剣から青年の声が聞こえる。声には少々戸惑いの色が混じっている様だった。ーーが、其れに対する復讐者の表情は変わらない。
「頼んでくれるか、ニイス」
彼の表情にある様に、心に一切の揺るぎは存在しない。
彼は只、成すのだ。"女神殺し"という強大な業を。己の欲望の為に世界を狂わせた運命の女達に報復する為に。
首魁であり最後の一人である女神シーフォーンを殺す、という事を。
其の為に女神に服し、追従する者は全て殺し、取り込む。
女神ですら取り込み、最後の一人であるシーフォーンへの徹底的な対策を彼は講じた。
常に、最善を振るう選択を心掛けた。…最初の失敗があってこそでもある。
『…うん、分かった。でも、彼女は…………』
ニイスは躊躇う。例え復讐者からすれば相容れぬ険悪な形であったとは言え、あの人の代行を一時的に努めていたーーエインや、彼にとっては縁もあれば憎悪や絶望以外の情が無かった訳でも無い。
とりわけ、ニイスにしてみれば追従者クロルを取り込み、地獄に突き落とす事には躊躇いがあった。
「でも、我々は最早通った道を戻れない。そして同じ轍も踏むべきでは無い」
だからこそ彼はクロルをニイスの地獄に突き落とす選択をしたのである。其の声に躊躇いは無かった。
『…そう、か。うん、分かった。君の意思に揺るぎは無いみたいだし、ならば僕も其れに応えよう』
そう言って、剣の中から青年が姿を現す。
青年はそっと追従者クロルの頬を撫でた後、両手を広げる。
彼の身体から蒼い幻光が放たれ、クロルの身体は宙を浮く。
彼女の身体も青年と同じ様に淡く半透明となってゆき、軈て光と溶けて其の姿は消滅した。
『彼女が向かう地獄への道筋がせめてもの無難である様…』
艱難辛苦の類がクロルを殺さない様に、青年は唱え、目を閉じる。
彼女の行き先は地獄だ。
然し、最期は安らかなものであった。
ーーそして復讐者は彼女の力を継承し、クロルは罪の為に地獄へ突き落とされる。




